第164話 勢いで
豚さんと一悶着あった日の夜。
優秀な『クトゥルフ』の構成員がしっかりと根城を突き止めてくれた。まあ、普通に屋敷に住んでたから、誰でも知ってる事だったみたいだけど。
豚の為にわざわざ行くのは面倒だけど、こいつを放置しておいたら、絶対に粘着してくるからね。さっさと処理するに限る。
「うへぇ。悪趣味な家だなぁ」
「下品ね」
豚の住んでる場所は、たくさん屋敷が建ち並んでるところ。やっぱり、大陸最大の港街って言われてる事もあって、結構な貴族の屋敷が別荘的な感じで建ててある。この辺は警備も厳重だったけど、俺達には関係ないね。
イヴィレオンの外套。
中層のカメレオンみたいなやつの皮から作られてて、気配を抑える効果があるだけど、それもあって楽に侵入出来た。
で、いざ屋敷に入ってみた訳なんだけど、なんかキラッキラ。既に夜中で灯りも最低限なのに、趣味の悪い飾り物ばっかりでちょっと眩しいぐらいだ。
「鋳潰して有効活用しよう。帰りにパクろっと」
「本物の金が使われてるかも怪しいわよ?」
確かに。確か豚さんは子爵って言ってたはず。子爵でそんなに羽振りが良いわけないか。なんか悪どい事をしてるなら、話は別だけど。まっ、その辺も持って帰ったら分かるでしょ。
「あ、鑑定したら良いのか」
「ボス。それよりも先にやる事を済ませちゃいましょ」
「あいあい」
因みに侵入してるのは俺とアンジーだけだ。アリーナは万が一の為に宿の襲撃に備えている。あの豚さんはそこまで行動は早くないと思うけど、既に手を打ってるかもしれないからね。
「うわぁ…。予想はしてたけど…」
「汚いモノを見ちゃったわ」
豚の寝室に到着。既に何人か見回りの騎士を気絶させている。帰りに殺していくか、契約して連れて帰るかはこの後次第。
性格がクズならいらないからね。あの豚さんに喜んで従ってるような奴は、ちょっと遠慮させて頂きます。
で、部屋に入ったら豚さんは何人か女性を侍らせて裸で寝ていた。いびきが豚の鳴き声みたいに聞こえる。
「消音の魔道具設置オッケー」
「じゃあ起こすわよ」
アンジーが刀の鞘でお腹をぽよんぽよんする。遊んでないでさっさと起こして下さい。
「ん? この女性達も奴隷か」
「最近縁があるわねぇ」
アンジーが未だにお腹ぽよんぽよんをやめないので、俺が起こそうかと近付くと契約の首輪が付けられていた。
まさかこいつも教会に繋がってるとか言わないよな? 後で執務室にも行って確認しよう。
「てか、起きないな」
「不用心よね」
アンジーがお腹ぽよんぽよんしても全然起きない。フゴフゴといびきをかいて気持ち良さそうに寝てる。なんかその顔が無性に苛立つ。
「レーザー」
「ちょっと」
イラッとして脳天を貫いてしまった。
どうせ八割方殺す予定だったし良いでしょ。話を聞くのも面倒だったし。なんか本当に腹が立つ顔をしてたんだ。なんでこんな奴の為に睡眠時間を削ってるんだとか考えちゃってね。
「どうするのよ」
「どうしよっか」
ごめんね、勢いで行動しちゃって。
とりあえずこの屋敷の住人は全員回収しよう。クズはマリクにあげたら良いでしょ。
この屋敷のありとあらゆる財産をパクって撤収だ。
「ふーむ」
翌朝。宿に帰って軽く仮眠した後に、パクってきた書類とか色々読んでるんだけど、あの豚さんは結構あくどい事をやってたらしい。
違法奴隷、クスリの売買、裏の組織を使った暗殺。規模はそこまで大きくないけど、立派なワルである。
「なんでこの世界は裏社会で頑張っていこうとしてる俺達よりワルなんだ。結果的に善行をしてるじゃんか」
「ボスはなんだかんだ甘いのよ」
まあ、最近は表の活動ばっかりだし、俺が甘いってのも自覚してるんですけども。
「でもこの書類は助かるな。豚と懇意にしてた商会を潰せば土地も空くだろ。後で商業ギルドに行って、土地の空きがないか確認して、空いてなかったら潰そう」
いやぁ。あの豚さんは良い置き土産をしてくれたもんだ。人手もちょびっと確保出来たし、良い事ばっかり。
そんな事を思ってたら部屋をノックされた。なんだろうなと思ってたら、宿の人でどうやら騎士が聞きたい事があるって事で来てるらしい。
「どうやら仕事が早いようで」
「こんな大きい港街の管理を任されてるんだもの。それなりに有能な人物なんじゃないかしら」
どっちの事で話を聞かれるのかな? 大通りで騒ぎになった件か、子爵が不審死した件か。はたまた両方か。
大通りの件はともかく、子爵の不審死は証拠は残してないはずなんだけどな。そもそも豚さんの死はまだバレてない可能性があるか。あの屋敷に一人放置してきたし。
誰かしらが訪問しないと分からないはず。まだ発覚してないと想定しておいて、口を滑らさないようにしないとな。
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