第160話 サクッと
「来たわね」
「ほんとに仕掛けてくるんだもんなぁ」
その日の夜。
アンジーの勘の通り、奴隷商の連中が潜むようにして俺達のテントに近づいてきた。
予めレベルと職業は鑑定しておいたから、恐らく負けるような事はない。多少のレベル差ならひっくり返せるけど、離れすぎてると、レベルの暴力に押し潰されるからね。
チャールズとマーヴィンがローザに勝てなくなって来てるのもそのせいだ。技術を磨いても基礎スペックが違いすぎるとどうしようもない。なんとか限界突破の方法を探してあげないとな。
それはさておき、今は襲撃者だ。
「どうかしましたかー?」
「っ!? やれ!!」
近付いて来てた襲撃者達に声を掛ける。実は俺達が勘違いしてるだけで、向こうは仲良くなりたくてこっちに遊びに来ただけかもしれない。
まあ、ありえないんだろうけど一応ね。誰も見てないけど、向こうから手を出したからこっちが仕方なく反撃したって理由が欲しい。
「スーヤン」
「やんす」
「ぐあっ!」
まあ、そんな建前は置いといて、問答無用で殺しに来たのでこっちも反撃させてもらう。
やんすやんすでお馴染みのスーヤン君。
こいつの職業は弓豪で、夜目にもある程度対応している。暗闇を移動してきた襲撃者をスパスパと撃ち抜いて、バタバタと襲撃者は倒れていく。
「くっ! バレてたのか!!」
「むしろ警戒されてると思わないのが不思議なんだけど」
襲撃者はなんか喚いてるけど、あんな露骨な視線を向けて来ておいて、警戒しない人間はいないと思う。
「がひゅ!」
「うぐっ!」
動いてるのはスーヤンだけではない。連れて来ていた戦闘部や情報部の人間が、闇夜に紛れて着実に数を減らしている。
「スーヤン。今回はしっかり急所を狙いなさい。何発か外れてるわよ」
「やんす」
「アリーナはもっと気配を抑えなさい。殺す瞬間に僅かに殺気が漏れてるわよ」
「にゃー」
こんな風にね。アンジーは今回は指導係である。貴重な実戦練習が積めるんだからね。しっかりスキルアップさせてもらおう。
「やっぱり対人の実戦練習が足りないよな」
「都合の良い襲撃者なんていないもの。仕方ないわ。ここが紛争地域なら気軽に戦争に行けるんだけど」
気軽に戦争ってなんか嫌ですね。
アンジーは傭兵時代、小競り合いばっかりしてる小国家群で、派手に暴れ回ってたらしいけど。
そっちの地域ではレーヴァンの『狂姫』は有名なんだってマーヴィンが言ってましたよ。大きい戦場を求めてこっちの方に来て、ゴドウィンに負けに等しい引き分けという屈辱を食らったとも。
「片付いたか」
「この程度の相手に時間がかかりすぎね。練度が足りないわ」
「まあ、まだレベルカンストしてない奴ばっかりだからな。その辺は仕方ない」
人手不足なんです。俺だってカンストというか、レベル200で一人前として外に出したいけど、本当に人手が足りないの。急いで手を広げすぎなのかなぁ。
「アリーナが指揮して事後処理しといて。身ぐるみを剥いで、死体は魔法鞄に。ここは色んな人が使う野営場所だからな。血痕とかもしっかり消しておいて」
「分かったにゃ」
「俺とアンジーは向こうの商人さんとお話しだ」
「あら、話をするの?」
「間違えた。残敵処理だ」
襲われたんだから、話をする必要はないよね。珍しい職業か恩恵を持ってなかったら、殺そう。まともな奴隷商ならともかく、あんな雑に奴隷を扱ってる奴とは相容れない。
「遅い。まだ仕留めるのに時間が掛かってるのか」
「お邪魔しまーす」
「んなっ!?」
軽薄そうな男が数人の女を侍らせて、テントの中で酒をガブガブ飲んでいた。女は奴隷だ。他と違って扱いは良さそう。お気に入りなのかな?
まあ、どうでも良いけど。
「な、何故お前達がここに!?」
「レーザー」
チュンという音と共に俺の指先から魔法が放たれる。汎用性抜群の光魔法、レーザーである。これさえあれば、雑魚相手には無双できますよ。
「きゃーっ!」
「どうどう、落ち着いておくんなまし」
俺が急に殺したもんだから、侍っていた女はパニックだ。まあ、突然人が殺されたら、普通の人はそんな反応しますよね。
「あら? この商会は教会の紐付きみたいね」
「また教会か」
アンジーが奴隷商だった男の鞄を漁って資料をパラパラとめくっている。どうやら、この連れられている奴隷は港街の教会に運び込まれる予定だったらしい。
「なるべく関わらないでおこうと思ってるのに、どうしてこうなっちゃうかな」
「なるようになるわよ。それよりもこれからどうするの?」
どうするって。とりあえずこの奴隷達は俺が横取りさせてもらいますよ。盗賊に襲われた戦利品みたいなもんだ。
帰りたい場所があるなら帰してあげても良いけど。その辺はとりあえず話を聞いてからかな。
まずはまだビビってるこの女達を宥めるところからスタートしよう。さっさと終わらせないと、寝る時間がなくなっちゃうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます