第159話 順調な旅路
「ふぁ〜」
夜中にスラムから孤児を攫って、その日の朝に男爵領を出発した。夜中に活動したから眠い。馬車の中であくびが何回も漏れてしまう。
「平和だねぇ」
「良い事じゃないの」
パカパカと馬が歩く音が聞こえて、馬車がちょびっとだけ揺れる。なんとも心地良い時間だ。
盗賊が襲ってくる事もなければ、魔物の襲撃もない。これぞ平和な旅って感じ。
アンジーが言うように良い事なんだけど、暇なんだよね。まだまだ旅路は長いし、何か暇潰しがあれば良いんだけど。
「ちょっと寝ようかな。アンジー膝貸して」
「仕方ないわね」
ちょっくらお昼寝させてもらおう。
まだ朝だけど。偶にはこんな怠惰な生活も良いでしょう。夜に働いたしね。
「マジでトラブルがないな」
「体が鈍ってきたかもしれないわ」
あれから約二ヶ月。
旅路はびっくりするぐらい順調だった。
途中寄った街で孤児を攫って、どんどん先に進む。気付けばもう数日で港街に到着するってところまで来ていた。
フレリア王国とパラエルナ王国の国境も、すんなり通れたし。帝国の時みたいな一悶着もない。
「今日はここらで野営しますか」
「急げば明後日には港街に着きそうね」
港街が近付いてきたからか、人通りは多くなってきた。それでもトラブルが起こる雰囲気がないんだよね。
いつもの日頃の行いが良いからだなと自分を納得させつつ、旅の醍醐味であるトラブルがないのは少し残念だなとも思う。
襲われてる貴族とかを颯爽と助けたりさ。
デッカー領で伯爵さんを助けたけど、あれは男だからノーカン。やっぱり貴族令嬢を助けて何かイベントがあるのが異世界ってもんでしょうよ。
そういうパターンで助けた人は何か特別な能力を持ってる場合もあるしさ。ここまで恩恵持ちも見つけてないんだぜ。パラエルナ王国は不作ですよ。
「もっとしっかり探せばいるのかもしれないけどね」
「街に1日しか滞在しないから、全て見て回るのは無理よね」
それならもっと滞在時間を伸ばせよって話なんだけど、早く港街に行きたいからさ。
転移は出来るようになったし、時間がある時にもっとしっかり見て回ろうと思ってます。
「すみません。私達もここを使わせて貰っても良いですか?」
「どうぞー」
もう二ヶ月も旅をしてると野営準備も慣れたものだと、テキパキとテント設営やら晩飯の準備をしてると、別の商人一行がやってきた。
野営を一緒にする時は先にいた人達に声を掛けて了承をもらうのが、商人達の暗黙の了解というかマナーらしい。
俺が適当にオッケーを出すと、向こうの商人達も野営準備を始める。
「ボス、注意しといた方が良いわ」
「ほう」
アンジーが何か面倒事を感じ取ったらしい。チラッと商人の方を見てみると、護衛の男達はこっちをゲスい顔で見てるし、商人の男も品定めをしてるような目でこっちを見てる。
「奴隷商か」
「堂々と野営をしてるのを見ると、ちゃんと許可を取ってる奴隷商会なんでしょうけど」
向こうの馬車の中には結構な数の人数が乗せられていて、首には契約の首輪が装着されている。見た感じあんまり良い扱いを受けてなさそうだが。
この世界では奴隷商会は国から認可を貰わないと営業出来ない。
契約の首輪が古代の魔道具として、かなり貴重で国で管理されてるからね。国がそれを奴隷商会に貸して、それを使って営業してる訳だ。
『クトゥルフ』にも契約の首輪はある。どこにでも裏に横流しして、大金を得ようっていう馬鹿はいるからね。
デッカー領では手に入らなかったけど、ペテス領ではそれなりの数が手に入った。まあ、俺とカタリーナが契約を闇魔法を使えるから必要ないんだけど。エリザベスが軽く構造を調べた後は倉庫で管理されている。
契約の首輪を作るには魔道具を作れるレベルが高い人員と、闇属性の魔法適性者が必要だ。
この世界は生産者を軽視してるし、闇属性の適性は俺以外に見た事がない。カタリーナも厳密には適性がある訳じゃないし。
これからも数が増えないだろうから、契約の首輪はかなり貴重なはず。必然的に奴隷商会はそれなりに優秀な商会にしか国は貸さないようにする訳だ。国が腐ってたりしたらその限りではないが。
「そう思ってたんだけどな。優秀な奴らには見えませんねぇ」
パラエルナ王国上層部はあんなのにも認可を与えるほど脳足りんな連中なのかね。
あの馬車にいる奴隷もどうやって集められたのやら。一応国際法みたいなのでは、攫って無理矢理奴隷にするってのは禁じられている。
俺は似た様な事をやってるけど、それはさておき、表向きは禁止されてるけどそれをまともに守ってるのはほんの一握りだろう。
奴隷を否定する気は一切ないけど、もっとちゃんと管理しろよなって思うよね。
こんな世界じゃ難しいんだろうけどね。
まあ、まだ何かあるって決まった訳でもない。こっちに手を出してくるなら、それ相応の対応はさせてもらうけどさ。
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