第158話 特に見るべきものがない街


 「今まで見た中で一番活気がないな」


 「男爵領だもの。こんなものよ」


 翌朝。門が開いて男爵領に入った。

 俺とアンジーはさっさと宿を取って、街歩きを開始。1日しか滞在しないからな。時間を無駄に出来ない。


 他のみんなはスラムの下見をしに行った。

 子供がどれくらい転がってるとか分からないからね。女のアリーナをスラムに行かせるべきか迷ったけどね。本人が気にしてなさそうだし、面倒ごとは暴力で解決出来る場所だから。


 レベルも200超えてるし大丈夫でしょって事で。


 「今までデッカー伯爵領とペテス辺境伯領しか知らなかったからな」


 「下級貴族の街だから仕方ないわね。デッカー領の半分の広さもない場所だし」


 街歩きもすぐに終わりそう。まあ、俺からしたら都合が良いしな。隅々までとはいかないけど、鑑定しまくって恩恵持ちが見つからないか見ておこう。


 「アンジーのチート恩恵でピピンと来ないの?」


 「そう都合良くないわよ」


 まあ、言ってみただけなんです。

 そこまでチートだったら恩恵差別で訴えるところだった。今でも充分チートだと思うけどね。


 アンジーの超直感、カタリーナの精霊眼、ローザの戦闘学習。この辺は恩恵の中でも良い方だよね。


 「ボスの鑑定が一番ズルいと思うわよ? それに複職も。大体二つあるのがなにより一番のズルじゃない」


 「あーあー聞こえなーい」


 隣の芝生は青く見えるって事ですよ。

 自分の恩恵には満足してます。大満足です。これからもよろしくお願いしますね。



 「あれが教会か」


 「領主の屋敷より立派よね」


 アンジーとブラブラしてると、見栄えは荘厳で綺麗な建物が目に入った。前世にあったら世界遺産になった事間違いなしって感じだ。


 これはデッカー領にもペテス領にも、多少形は違えどあるんだよね。豪華な神殿というかなんというか。神聖な建物が。


 「見た目は立派だけどな。実情を知っちゃうとね」


 「自分達の権勢を見せつけたいんでしょ」


 金を掻き集めるのが大好きなくせに、金は不浄なモノだとか言ってるからな。この世界で一番熱心に金を集めてる勢力だろうに。


 「まっ、情報が手に入るまでは放置だな」


 「あの村に手を出した結果どうなるかも気になるしねぇ」


 これで神罰とかやられたらどうしようもない。俺は8割方教会の自作自演を疑ってるけどな。どう考えても一番神罰されなきゃいけないのは教会でしょうよ。


 他の貴族とかは疑ってないのかね? 今度伯爵さんとペテスの領主に聞いてみるか。




 「街が小さいからその分スラムも小さいにゃ。見て回るのにそんな時間は掛からなかったにゃね」


 一通り見て回ったけど、特に恩恵持ちも見当たらなかったので、宿に戻って来た。

 既にアリーナ達は戻って来てて、アリーナは宿の食堂でご飯を食べていた。


 俺とアンジーも食事を注文しつつ、スラムの情報を聞く。どうやら裏組織らしいグループすらないみたいだ。ゴロツキはいるけど、何人かで集まってたむろしてるだけだったり。


 「孤児もそんなにいなかったにゃ」


 「まあ、少ないのは良い事だよ」


 孤児を拾って人員増加を望めるのは良いけどね。孤児なんて元から居ない方が良いんだ。少ないのは本来喜ぶべき事なのです。


 「じゃあ今日の夜に実行するって事で。後で実行部隊を連れてくるよ」


 「それまでは自由にゃ?」


 「うん。恩恵持ちも居なさそうだったし、面白い商品とかも見当たらなかったから。俺は宿でダラダラしとくよ。みんなも自由行動でどうぞ。あんまり目立つ行動だけはしないようにね」


 「にゃら、アタシは屋台を見てくるにゃね。美味しい匂いがいくつかあって気になってたにゃ」


 今ご飯を食べてるのに?

 ほんと君は食いしん坊ですね。


 なんか異世界モノの作品って、猫獣人は食いしん坊キャラって多くない? 俺の気のせいかな? 



 その日の夜。

 活気もない街だからか、灯りも少なくてほぼ真っ暗である。誘拐しやすい街ですな。


 俺は実行部隊+アリーナと一緒にスラムに侵入していた。


 ボロ家で寝てるゴロツキもいれば、道端で転がってるゴロツキもいる。孤児は小さいボロ家で集まって暮らしてるみたいだ。


 子供だけのコミュニティがあるって感じだな。幼いながらに頑張って協力して生きてるんだろう。


 今から悪いお兄さんお姉さんに誘拐されますよーつって。


 「スリープ」


 俺は闇魔法のスリープを使って、まだ起きていた子供達を強制的に寝かせる。

 あんまり時間をかけたくないからね。説明は秘密基地に行ってからやります。カタリーナか孤児を面倒見てる奴がだけどね。


 「これで全員?」


 「私も完璧に把握してる訳じゃないにゃね。でも昼に見た子達は全員揃ってるにゃ」


 「よし。とりあえず転移で飛ばすか。後は各員散らばって漏れがないかチェック。もし揉め事になったら、殺して良い」


 くはははは。

 久々に悪い事をしてる気がする。

 最近表に出てばっかりで、闇組織っぽい事が出来てなかったからな。


 「領主を脅したりしてるのを忘れてるのにゃ? それに村人も誘拐してるにゃよ?」


 ふはははは。忘れてた。


 なんか闇組織っぽいムーブってないかな。

 この世界が割とクズすぎて、俺がやろうと思ってもそこまで非情になり切れないというか。


 結局善行ムーブしてる気がしないでもない。

 

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