第155話 とりあえず確保


 ☆★☆★☆★



 きっかけは村の人間が流行り病にかかった事だった。動ける人間がなんとかお金をかき集めて、近くの街に薬を買いに行った。


 それでもお金が足りなかった時に声を掛けてきたのがライラルト教会だ。

 教会は困ってる俺達を見て、心底心配そうな表情を浮かべて助けになると、お金を貸してくれた。


 あの時の俺達は感謝して泣いて喜んだ。

 これで村の奴らを全員救えると。俺達はあまりに学がなさすぎた。言われるがままに契約書にサインをして、お金を借りてしまったんだ。


 それが地獄の始まりとは知らずに。


 流行り病が収束した後。

 俺達は村で作った農作物を街で売り、税を納めて教会に借金を返済していった。


 だが、返しても返しても借金がなくならねぇんだ。とっくに借りた分は返し終わってるはずなのに。


 教会の奴らに話を聞いても利息がなんやらと言われて良く分からねぇ。流石にこれはおかしいと領主様に嘆願もした。


 けど、契約書に不備はないと突っぱねられてしまった。俺達は途方に暮れながらも、頑張って働いて借金を返済した。


 教会の奴らはどうしても払えねぇなら、奴隷にするって言ってたからな。なんとかギリギリのところで踏ん張って、借金と税を払い続けてたんだ。


 しかし、そんな生活にも限界がきた。

 農作物の実りが悪くて税は払えたものの、借金を返せなくなっちまったんだ。


 村の奴らとは何度も話し合った。

 このまま奴隷落ちするしかねぇのかと諦めてたんだが、一人の男が奴隷になるくらいなら、街道を通る商人から脅して奪っちまおうって言い出した。


 平常時ならそんな馬鹿な提案に乗るはずもなかった。しかし俺達は極度の空腹でまともな判断も出来なくなってたんだ。


 なるべく小さな子供に飯を分けてやってたのもあって、俺達は既に餓死寸前。男の提案に乗って、村の人間を何人か連れて街道に向かった。


 程なくしてやってきたのは、4頭もの馬に引かれた大きな馬車だった。しかも、馬車の周りに護衛もいねぇ。


 こんなチャンスは滅多にねぇと、俺達はすぐさま馬車を取り囲んで、大声で脅した。

 そして出てきたのは女にも見える商人の男だった。


 正直そこからは何が起きたのか分からねぇ。商人の男が声を上げると、馬車から次々と人間が出てきて、あっという間に倒されちまった。


 俺達は必死に命乞いした。襲っておいて都合の良い事を言ってるのは分かってる。

 簡単に倒されて、俺達がどれだけ馬鹿な事をやっちまったのかも理解した。


 この馬車のまとめ役であろう商人の男は迷いながらも、とりあえず一旦は許してくれた。


 その代わり村に案内するように言われたがな。その道中で話を聞かれたので、どうして俺達がこんな事をやってしまったのかを説明した。


 教会の名前を出すと、商人の男と護衛であろう女が露骨に顔を顰めたが、教会の事を知ってるんだろうか? 俺達も逆らったら神罰が降るという事ぐらいしか知らねぇ。


 だが、従う者には寛容だって、街に農作物を売りに行った時に馴染みの商人に聞いたんだがな。それも今となっちゃ本当か分からねぇが。


 確かに教会は金を貸して助けてくれたが、結局困窮しちまってる。これは俺達が悪いのか? ちゃんと契約書を理解せずにサインしたのが悪かったのか? 俺達は文字を読むのも一苦労だってのに。


 馬鹿な俺達に善人のフリして借金漬けにするのは神罰が落ちねぇのか?

 分からねぇが俺たちにはどうしようもなかったんだ。


 「思った以上にひどいな。スラムの方がまだマシだぞ」


 村に到着した商人一行と俺達。

 商人の男は軽く村を見て回ってため息を吐いている。


 村の奴らはそんな姿を見て戦々恐々だ。

 子供は家の奥に引っ込めてあるが、ここから何をされるか分からねぇ。


 「どうしよっか?」


 「またそんな事言って。答えは出てるんでしょ?」


 「まあ、そうなんだけど…。アンジーの勘的には? こいつらがここから居なくなっても、面倒事になったりしないと思う?」


 「私の恩恵もそこまで万能じゃないわよ。今の所は何も感じないから大丈夫だとは思うけど、鵜呑みにはしないでほしいわね」


 商人の男と女は二人で何やら話していて他の奴らは俺達を油断なく見据えている。

 そして俺達の処遇が決まったのか、商人の男が俺達に言った。


 「お前達を誘拐する事にしたから」


 「は、は?」


 「詳しい説明は後で。あんまり長居するのもダルいし、この鞄に貴重品を入れろ。すぐに出発するぞ」


 拒否権なんてない。

 今までは飄々としてたのに、急に威圧感丸出しで、俺達を脅し始めた。


 放り投げられた鞄は魔法鞄という不思議な鞄で、とにかくいっぱい物が入る代物らしい。


 俺達はとにかく村中から必要な物をかき集めて鞄に放り込んだ。だが、限界ギリギリの村だったんだ。貴重品なんてほとんどありゃしない。大体30分ぐらいで用意は終わった。


 逆らうなんてありえない。

 あの威圧感を一度でも感じてしまえば、逆らう気が起きなくなる。あれは拒否するなら殺すと目が語っていた。


 そして村の人間が全員集められた。

 150人程度の小さな村だが、老若男女全員が怯えてやがる。あんな威圧感を体験しちまったら当然だが。


 「150人か。魔力足りるかな」


 「レベル300になったんでしょう? 根性見せなさい」


 「根性論は嫌いです」


 男と女が喋ってるのを怯えながら眺めていると、一瞬で視界が切り替わった。

 そこはどこか洞窟の中のようで。


 「ボス? どうしました?」


 「カタリーナにこいつらの面倒お願いしといて。まだ何も説明してないし、契約もしてないって。俺はさっさと先に進みたいから後は任せる。夜にもう一回戻ってくるから、その時に鑑定するって言っておいて」


 そう言って商人の男は消えてしまった。

 文字通り消えたのだ。


 俺達は何がなんだか全く分からなかった。

 一体これからどうなっちまうんだ。

 


 

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