第154話 擬き


 「と、と、止まれー!」


 「なんか貧相な盗賊だな」


 デッカー領を出発してから五日程。

 そろそろ次の街に到着するぞってところで、ガリガリで今にも死にそうな盗賊…まあ、多分盗賊が現れた。


 持ってる武器も木で出来た槍とかだし、本当に襲う気があるのかと言いたくなるぐらいの感じだ。


 人数は合計10人ほど。

 結構豪華な馬車に乗ってるつもりなんだけど、よくそんなので喧嘩を売ってきたなと感心してしまうくらいだ。


 既にアンジーやアリーナ、他の戦闘部の奴らは臨戦態勢に入っている。どれだけ見た目は貧相でも油断は禁物だからね。


 「止まりましたけど?」


 「お、おぉ。えーっと…金目のモノと食料を置いていけ! さ、さもなきゃ痛い目に遭わせるぞ!」


 俺が馬車から降りて応対する。

 普通に出てくるとは思ってなかったのか、ちょっとびっくりしてらっしゃる。止まれって言ったのはそっちだから止まったのに。


 一応脅し文句を言ってるけど、かなりへっぴり腰だし、声が裏返ってる。こういうのに慣れてないのが丸分かりだ。


 確かここの近くに村があったはず。

 飢えてるんだろうか? 食うものがなくて仕方なくみたいな? デッカー領ではそういう事はなかったんだけどな。ここはもうあの伯爵さんとは違う領地だ。


 ここら一帯を治めてる領主さんは圧政でも敷いてるのかな? 確か男爵さんの領地だったと思うが。


 「アンジー、アリーナ。殺さない程度にお願い」


 「分かったわ」


 「にゃー」


 「やんす!」


 まあ、とりあえず制圧しないと。

 話はそれからだ。俺が合図を出すと、アンジーとアリーナが馬車から飛び出して、周りを囲んでいた盗賊擬きを一瞬で制圧する。レベルも10とかだしね。うちの拾ってきた子供でも制圧出来るレベルだ。


 あ、因みにいつぞやのやんす君も着いて来てるよ。相変わらずやんすやんす言ってるでやんす。


 意外と真面目に訓練とかこなしてるんだよね、これが。


 「ひ、ひえっ! い、命だけはご勘弁を!」


 「襲おうとしてそれは虫が良すぎるんじゃないかなぁ」


 何も出来ずにやられた盗賊擬きは、地面に転がされた状態で俺達に命乞いをしてきた。

 服とかもマジでボロボロだし、骨が浮き出てて餓死一歩手前ぐらいの人も居る。


 「お、俺達が食料を持って帰らなきゃ、村で待ってる子供達が…」


 「そう言われるとレイモンド君は弱いんですけど」


 子供を出されるとねぇ。

 孤児ゼロ大作戦を実施中の俺は情に流されてしまうのです。甘いって分かってるんだけど、どうしてもねぇ。俺も元は飢えた子供だったしさ。


 「うーん…。とりあえず村を見てから判断するか」


 「ほんと甘いわねぇ」


 そう言われましても。これが俺の性分と言えば性分ですし。これがそこらにいるちゃんとした盗賊なら、それ相応の対応をしますけどね。この人達はそうじゃないっぽいし。


 マジで飢えてて後に引けなくなったって感じでしょ? 俺が最初の頃に一人でやってたのと変わらん。俺も食うために人を殺したし。


 盗賊擬き達を起こして村に案内してもらう。馬車をゆっくり走らせつつ、道中で男達に話を聞く。


 「うわぁ。教会か」


 「厄介ね。今のところ嫌な予感とかはしないけど」


 話を聞くと男爵さんは普通らしい。

 少なくとも帝国より税が高いって事はない。それでもこいつらの村が飢えてるのは、教会への借金が払えないかららしい。


 教会。

 俺が今まで意図的に避けてきた勢力になる。この世界の宗教勢力は、テンプレの異世界よろしく、滅茶苦茶腐っている。


 日本の戦国時代の寺社とかを想像して欲しい。困ってる人を見つけては、善意の金貸しを装ってえげつない高利で金を貸す。

 で、払えないとなったら根こそぎ何もかも奪っていく。他には頼んでもない布教や祈りを勝手にやっては、お布施を要求する。


 この世界には宗教勢力が一つしかないから、まあやりたい放題なんだよね。

 新しい宗教勢力が出てきたらすぐに潰すから当たり前なんだが。


 でも厄介な事にこの世界の人間は神罰とやらを本気で信じてる。だから宗教勢力、ライラルト教会を無碍に出来ない。気にしてないのはエルフぐらいだ。あそこは精霊信仰だからね。それはそれで厄介なんだが。


 勿論真面目に信仰してる人もいるけど、どうしてもそういう人が目立つ。俺も少し落ち着きた頃に、アンジーに宗教勢力の話を聞いて嫌になったもんだ。


 俺を転生させてくれたのは、そのライラルト教会が信仰してる神様かもしれない。だから、教会にお祈りにでも行こうかと思ってたんだけど、アンジーの話を聞いてやめたよね。


 幸い今の所、ライラルト教会から『ルルイエ商会』に接触はない。もっと大規模な商会になったら、色々言ってくるのかもしれないが。


 「神罰ってほんとにあるの? 信じられてるのが不思議なんだけど」


 「そうねぇ。確かに今までにも教会に逆らった人間や勢力はいたわ。でも何故か不審死したり、その勢力が丸ごと無くなってたりするのよね」


 ふーむ。それは神罰なのかな?

 なんか殺し専門の部隊とかが、教会の邪魔になる奴を消してるようにしか思えないんだけど。


 ここもしっかりと情報を集めるべきなんだけど、今は教会に近付きたくないなぁ。

 本当に神罰があるなら対抗のしようがないしさ。


 「勇者から情報を絞ってもらうか。ドラゴンの情報も上手く聞いてくれたみたいだし、あの二人に任せよう」


 まあ、教会の話についてはいいや。恐らく将来は敵対する事になりそうだが、今はほぼ関わってないしね。


 「まさかこんな近くにドラゴンがいるなんて予想外だったわね」


 だな。まさか深層の更に奥にいるとは。

 アーサーに付けてる二人があっさり聞き出してくれました。ボーナスも奮発したってもんよ。でも、サラはそれを聞いてアーサーにぶつぶつ文句を言ってたな。


 確かにずっと一緒にいたサラは打ち明けてもらえなかったのに、あっさりと原作知識をゲロったアーサーには思う所があるんだろう。


 深層の奥についてはちょっと考えた事はあるけど、流石にいないよなぁって諦めてたんだよね。もっとレベルを上げてから挑むか、迷宮を攻略するかは考え中であります。


 そんな事を考えると、盗賊擬き達の村に到着した。

 

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