第7章 港街ディエル

第153話 出発


 「うふふふふ」


 「上機嫌そうでなにより」


 マリクが怖いぐらいの笑顔で上機嫌だ。

 

 現在はペテス領の領主の屋敷から帰ってきて、遠征の準備中。

 選民思想で凝り固まった領主の騎士を何人も拷問してから契約した。


 「ボスから聞いていた拷問を試せて嬉しいです」


 「俺のふわっとした知識をあそこまで形にしたもんなぁ」


 普通にサラリーマンをやってた俺に拷問の知識なんてある訳ない。漫画とかドラマで見た知識をマリクに伝えただけだ。


 「もっと長期間出来るなら試したい事はいっぱいあったんですけどね」


 「それはまた次の機会にしてくれ」


 今日は時間が無かったってものあるし、やり過ぎると使いもんにならなくなる可能性があったから、控えめにお願いしたんだ。


 また別の機会でやる事があるだろうし、その時に試してくれたまえ。




 「ローザも一緒に行きたいなー?」


 「お前が15歳になってたら連れて行ってあげたんだけどな」


 港街に行く人間を選定してると、ローザがおねだりしてきた。連れて行ってあげたいのは山々だけど、15歳になってないのは色々問題があるんだよね。


 「後一年は我慢してくれ」


 「ちぇー」


 ローザをわしゃわしゃと撫でて宥める。

 秘密基地で遊んでて下さい。この前マーヴィンとチャールズが帰って来てたから、遊び相手には事欠かないだろ。


 「にゃにゃ? アタシも行くのにゃ?」


 「レベル200になったんだろ? そろそろ外での仕事も慣れてもらおうと思って」


 ローザはお留守番だが、今回の港街までの旅に忍者猫娘は連れて行く事にした。

 一応『クトゥルフ』ではレベル200で一人前扱いで、外に出る仕事も任せるようにしてる。


 最近は人手不足でレベル100ぐらいから外に出したり、商業部門は教育が出来次第店舗に放り込んでるが。


 「美味しいご飯が食べれないにゃ」


 「そこらの野営飯よりはマシになる予定だぞ」


 食べるの大好きアリーナさんは秘密基地から離れたくない様子。まあ、転移で戻る事も出来るけど、一応野営する予定だからいつもより質は落ちるわな。


 そこはちょっぴり我慢してもらわないと。これからと外に出て仕事してもらう予定だしね。


 「にゃー。早くレストラン経営もしてほしいにゃ。外に出てても『クトゥルフ』の料理を食べれるようにしてほしいにゃ」


 「そこまで人手が回らんのです」


 俺だってやりたいさ。

 レストランとか宿とかさ。でも、とにかく人が足りないの。今回の旅で途中寄った街の孤児とかを拾おうかと思ってるけど、即戦力になる訳じゃないからなぁ。


 『クトゥルフ』世界展開にはまだまだ時間が必要なのです。




 そんなこんなで話を詰めつつ出発当日。

 デッカー領から出発する予定で、馬車もバッチリ用意してある。


 「一ヶ月以上も馬車旅は気が滅入るわねぇ」


 「そう? 俺はちょっと楽しみにしてるんだけど」


 「そんなに楽しいもんじゃないわよ」


 今回も俺の護衛として同行するアンジーは憂鬱そうな顔をしてらっしゃる。

 傭兵時代に移動時間だけで半年ぐらい掛かった事もあるらしく、その時の事を思い出してるらしい。


 「まあ、ボスが魔道具とか色々用意してくれたお陰で、あの時よりは快適に過ごせるわね」


 「ずっと野営って訳でもないしね。途中、街に泊まったり、村に泊まったりするし」


 ついでに恩恵持ちなんかを見つけれたら更に嬉しい。そんな都合良くはいかないだろうが。


 「じゃあ出発するか」


 秘密基地の事はカタリーナに。

 商会関連の事はホルトに任せてある。

 何か問題があったら転送箱で連絡するように言ってあるし、よほどの事がない限りは港街に到着するまで戻らないだろう。


 今回同行するのはアンジーとアリーナ。

 後は戦闘部と情報部から数人。馬4頭で引っ張る大きな馬車に全員が乗っている。


 仲良くなった街の人達に見送られつつ、デッカー領の門を通過。

 いよいよ旅の始まりだ。


 「さてさて。どんなテンプレ展開が待ち受けてるのかな」


 「何もないのが一番よ」


 そうだけどさ。

 流石に何かイベントがないと、一ヶ月は流石に飽きると思うんですよ。

 異世界ならではのイベントに期待してます。


 

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