A-7話 口を滑らす
「よぉ。アーサー。また会ったな」
「あぁ。ダンとカイルか。依頼帰り?」
「おうよ。さっさとランクを上げねぇとな」
オーガに襲われてた所を二人組の冒険者、ダンとカイルに助けられたアーサーは、すっかり仲良くなっていた。
アーサーは命の危機を助けられた事により心を許していて、パーティを組むまでには至ってないが良好な関係を築いていた。
「二人が冒険者になったばかりなんて信じられないよ。今まで何してたの?」
「辺境の村で燻ってたんだ。村の師匠に戦いの技術は習ってたがな」
「ああ。だが、村は貧乏でな。長男じゃねぇ俺達は村の畑も継げねぇ。だから二人で村を飛び出してきたんだ」
「そうだったんだね」
(恐らく二人は恩恵持ちじゃないはず。やり込んでないからBLキャラにそこまで詳しい訳じゃないけど…。それでもこの強さにまで育てた師匠って一体…。何かのイベントキャラだったりするのかな? くそっ。こんな世界に転生するならもっとやり込んでおけば良かった)
アーサーはにこやかに応対しながら、心の中で考えて歯噛みした。知ってる限り師匠キャラなんてのはいない。サブイベントなどでそういうのがあったのかもしれないが、ライト勢のアーサーは知らなかった。
(恩恵持ちは着々と他の転生者に取られていってるはずだ。ペテス領から根こそぎ持って行ったぐらいだからな。きっとやり込み勢だったに違いない。問題はどこまで取られてるかだ。このままじゃ、魔王攻略に必須なアイテムまで持って行かれちゃうぞ)
「アーサーはよぉ、なんか夢とかねぇのか? なんで冒険者になろうと思ったんだ?」
「ハーレ…。考えた事無かったよ。でも強くなりたいとは思ってるかな」
思わずハーレムと言いそうになったのをギリギリのところでこらえる。アーサーが冒険者になった理由は、ハーレムの為だ。
せっかく知識のある世界に主人公として転生出来た。そんなの自分の欲望の為に使うに決まってる。ついでに魔王の討伐も請け負ってやるのだ。ハーレムぐらい褒美としてもらって当然だと思っている。
それに、強くなりたいと思ってるのは本当である。思ってるだけで中々行動に移せてないが。未だに魔物を倒す時は若干腰が引けてるし、解体する時は必死に吐き気を抑えている。
「二人は? 夢とかあるの?」
「そうだなぁ…。せっかくだから御伽話で聞いたドラゴン退治とかしてみてぇよな」
「ああ。まあ、本当にいるかどうかも分かんねぇんだがよ」
ダンとカイルは少し恥ずかしげにしながら答える。物語を読んだ事がある者なら、誰もが一度は抱いた事があるような子供のような夢。
大人になると現実が見えてきて口にしなくなるものだ。それなのに二人は恥ずかしげではありながらも、夢なんだと語る。
そして二人に心を許しているアーサーはつい口を滑らせてしまう。サラにも漏らさないようにしていた貴重なゲーム知識を。
「この領地の森の奥。それと迷宮の最上階層にはいそうな気がするけどね」
「へぇ。そりゃなんでだ?」
「ここの森って帝国でもかなりヤバめの森だってのは知ってるでしょ? だから奥に行けばいるんじゃないかなって。迷宮だって誰も攻略が出来てないんだよ? 一番上とかなら居そうじゃない?」
アーサーは尤もらしい事を言って言葉を濁すが、実際にそうなのだ。
ペテス領の深層の更に奥。アンジェリカですら近寄らない領域には、ドラゴンが多数存在している。それどころか、地球では幻獣と呼ばれている生物がオンパレードだ。
そして一番奥にはこのゲームの裏ボスが存在する。アーサーは残念ながらそこまで攻略していなかったが、戦いに勝つ事でハーレムキャラに加えられる事は知っていた。
そしてこの世界に七つ存在する迷宮。
それぞれの最上階層にはダンジョンボスとしてドラゴンが君臨している。魔王を討伐する為に攻略必須な迷宮もあったので、アーサーは前世で攻略サイトを見ていたのだ。
「そうなのか。いつか行けたら良いなあ」
「滅茶苦茶強いらしいからね。行くなら用心する事だよ」
その後も冒険者ギルドで一緒に夕食をとりつつ、話をしてから別れた。アーサーは貴重なゲーム知識を漏らしてしまった事に若干後悔はしたものの、あの二人なら大丈夫かと無条件に信用してしまった。
まだ付き合いは短いが、二人は信用出来る人物だと思っていたし、一応言葉は濁しておいたのだ。そこまで真剣に捉える事もないだろうと都合良く自分を納得させる。
(それにソロで挑むなら最低でもレベル400、パーティで挑むなら350は必要だ。恩恵持ちじゃないであろう二人がそこまで成長するのは不可能だしね。俺もいつかはそのレベルまで成長しないといけないんだけど…。あの二人とパーティを組めないかな? サラがいなくなったせいで、レベル上げも捗ってないような気がする。ゲームみたいにステータスが見れないのが辛いな)
でも男とパーティを組むとハーレムを形成した時に不和の種になるかもしれないと、アーサーは思い直す。
アーサーはまだハーレムの夢を諦めていない。先手を取られたが、ハーレムキャラはまだ多数存在するのだ。
自分の欲望の為にアーサーは少しずつ、ほんの少しずつ成長していく。
その成長スピードが無自覚原作破壊マンの勢力拡大スピードに追い付くのかどうか。
それはまだ誰にも分からない。
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