第152話 旅立つ前に


 「そうか。他国に行くのか」


 「ええ。今回は次に出す支店の場所を確かめるだけなので、なるべく早く戻ってくるつもりではありますが」


 職業の習熟訓練が順調に進み、とりあえずなんとか見れる形にはなってきた。

 って事で本格的にパラエルナ王国の港街ディエルに向かう準備をしていた頃。


 デッカー領の伯爵さんにお呼び出しされた。まあ、用件は分かってるんだけど。


 「毎度用立ててもらってすまぬな。しかし、一度この利便性を知ってしまうと、どうしてもな」


 「いえ。我が商会の商品を購入頂いてありがたい限りです」


 転送箱の追加発注だ。

 順調にフレリア王国内で広まっていってる。最近は色々な情報が入ってきて、精査するのに忙しいと情報部の人間が言っていた。まだ現状の人手で余裕はあるらしいが。


 港街に向かう途中に伯爵さんとの敵対派閥の人間にも売り込もうと思ってる。これでフレリア王国の貴族情報は手紙の範囲なら網羅出来るだろう。


 後はもっと人員を育成して、世界中に諜報員を派遣出来たらベストだな。まだまだ先の話だが。


 で、世間話のついでに、近いうちにちょっくら他国に遊びに行く事を伝える。名目は次の支店を出す場所を見極めるって感じで。

 ディエルの港街に出す気満々だけどね。


 「お主が留守にして商会は大丈夫なのか?」


 「ええ。部下が優秀なもので。私はほとんど何もしなくても良いくらいですよ」


 ほんとに。実際何もしてないから。

 身分がある人と交渉したり、脅したりぐらいしかしてない。運営は完全に商業部門の人間に頑張ってもらってます。





 「騎士のレベルが低いからなぁ。まあ、これはアンジーと俺がやったせいでもあるんだけど」


 「私は売られた喧嘩を買っただけよ」


 その日の夜。

 俺はアンジーと一緒にペテス領の領主館にやって来ていた。領主のサムスに相談したい事があるって言われたからね。


 で、なんの話か聞いてみると、抱えてる騎士の練度が低すぎて、ペテス近辺の森での魔物討伐がままならないって事だった。


 そんなの俺が知ったこっちゃねぇって言いたかったんだけど、どうやら先の騒動でペテス領は一定期間魔物の素材を国に献上しないといけないみたいなんだよね。


 昔の精鋭が残ってたらなんとかなったけど、今のペテスの騎士はお世辞にも強いとは言えない。


 一回目のスラム弾圧の時にアンジーがまとめて殺しちゃったし、まだギリギリなんとかなったレベルの騎士は二回目の弾圧の時に、俺がレーヴァンと潰し合わせちゃったから。


 そのとばっちりがサムスに来てるらしい。前の領主がやらかした不祥事を、新しく赴任してきた領主に背負わせるのはどうかと思うが、そこに文句を言っても仕方ない。


 「本来はレイモンド様に相談するような話ではないのですが、献上がままならないと商売の方にも影響が出そうでして」


 「ほー。帝国は結構欲張りなんだな。この量を10年も? まともな騎士もいないのに」


 「私もある程度覚悟して赴任してきましたが、こんな重要な地の騎士があんなに弱いとは思ってませんでした。私は内向きの人間で子飼いの兵もいませんし」


 サムスに見せてもらった資料にはどれだけの魔物素材を納めないといけないかが書かれていた。流石に深層の魔物素材はないが、中層の素材が結構な量必要だ。


 今から騎士の育成をしたらギリギリ間に合うかもしれないが、それにかかりっきりになると、商売の方に支障がでるだろう。


 「まあ、素材の方は俺達で用意出来るけど…」


 「その場しのぎにしかならないわよ。帝国から兵を派遣してもらう事は出来ないのかしら? 万が一またスタンピードなんて起こったら、とても対処しきれないわよ?」


 それな。冒険者頼りにも限度がある。

 帝国もそこまで馬鹿じゃないと思うんだが。


 「ゴドウィン団長が居なくなってから帝都では、政争続きなのです。こっちに構ってる暇がないのが現状です」


 「ボスのせいね」


 「あれは事故だ」


 たまたま必殺技が心臓を捉えてしまったんだ。仕方ない。仕方ないったら仕方ない。


 「構ってる暇がないって言ってもなぁ。やいやいと政争してるうちに、辺境が滅んだりしたらどうするのかね? 今も中々危うい立ち位置だぞ。他国が戦争をしようとしてきても不思議じゃない」


 実際フレリア王国ではやる気満々な勢力が居るって情報がある。それ以外の国の情報はまだ集まってないけど、帝国がこれだけ統制が取れてないなら、他国が足並みを揃えて攻めようって考えてもおかしくない。


 「とりあえず騎士と契約するか。で、俺達の戦闘部と一緒に鍛える。アンジー、お願いね」


 「仕方ないわね」


 「申し訳ありません」


 まあ、サムスはとばっちりっちゃ、とばっちりだからな。前の領主がアホすぎたのが悪い。それに戦力が低下してるって分かってるのに、兵を派遣しない帝都のお偉いさん方も悪い。


 ついでにゴドウィンを殺した俺も悪い。


 「マリクを連れてこよう。プライドの塊の騎士と簡単に契約出来るとは思えん。鍛える時にこっちの指示を聞いてもらう為にも、こっちに逆らわない程度には折っておかないと」


 これでとりあえず様子見しよう。

 間に合わなかったら1年目は俺達が魔物素材を用意しても良い。サムスにはとりあえず転送箱をばら撒いてもらうっていう、大事な仕事があるからな。


 面倒事はこんなもんか。

 港街に行くのが不安になってきたけど、大丈夫かな? まあ、俺なんかより優秀な人間はいっぱいいるし、なんとかなると信じよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 はい。って事で今章は終了です。

 お疲れ様でした。


 支店を出して少しだけ勢力圏を広げました。少しずつですが、組織の形になってきたんじゃないかなと思います。


 次章は港街へ向かいます。

 レイモンド君、念願の海ですよ。

 お米にも出会えるかもしれませんね。

 お楽しみに。


 ではではまた次章で〜。


 あ、作者は他にも作品を更新しているので、良かったらそちらもご覧くださーい。

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