A-6話 絶体絶命


 「なんで!?」


 アーサーは書き置きを見て、すぐに宿を飛び出した。ペテスの街を走り回ってサラを探す。

 しかし当然ながら見つからない。書き置きにはペテスを離れると書いてあったからだ。


 「あれ? アーサーじゃねぇか。なんでお前ここに居るんだ? 街を離れるんじゃなかったのか?」


 「どういうこと?」


 途方に暮れて街をトボトボと歩くアーサー。そんな時に声を掛けられたのは、この街で活動しているうちに交流を持った冒険者だった。


 「いや、昨日サラがこの街を出て行くって挨拶に来たからよ。てっきりお前も一緒なんだと…。喧嘩でもしたのか?」


 「確かに最近あんまり仲良くはなかったけど、喧嘩まではしてないよ。僕もなんで急にいなくなったのか分からないんだ。どこに行くとか聞いてない?」


 どうやらサラは衝動的に出て行った訳じゃないらしい。アーサーはその事実に打ちのめされそうになるが、グッと堪えてサラから行き先を聞いてないか尋ねる。


 「いや、聞いてねぇな」


 が、残念ながら冒険者の男はどこに向かうかまでは聞いてないらしい。

 アーサーは露骨に残念そうな表情をして、落胆しながらも、その冒険者と別れる。


 その後もこの街で活動している内に知り合った人達に話を聞いてみるが、挨拶はあったものの、どこに向かったかまでは聞いてないみたいだった。


 アーサーは宿に戻ってベッドに倒れ込む。


 (どうしてこうなったんだ。サラが急に離れるなんてありえないだろ。僕のハーレムメンバーだぞ)


 最初はサラがいなくなった事で気が動転していたが、落ち着いてきた事もあって、沸々と怒りが湧いてくる。


 (これも全部他の転生者のせいだ! 僕はアーサーだ! 主人公だぞ! 僕の世界を滅茶苦茶にしやがって! そうだ! きっとサラの事も誑かしたに違いない!)


 そしてその怒りの矛先は、自分以外の転生者に向けられる。アーサーは自分の行いでサラの好感度が下がってるとは考えなかった。

 いや、以前は考えていたが、衛兵や商会に自分の為に謝罪をしてくれた事もあって、好感度は下がってなかったと勘違いしたのだ。


 アーサーは怒りの衝動のままに『ルルイエ商会』に突進しそうになったが、ギリギリのところで堪える。


 『ルルイエ商会』の商会長が素直に出てくるとは思えないし、また衛兵に捕まったら今度は罰金を払えないからだ。


 (どうする? まずはサラを追いかけるべきなんだけど、どこに行くにしてもお金がない。最低限旅に出れるくらいには稼がないと…)


 アーサーは現在、生活するのにもギリギリなお金しか持ってなかった。このままでは三日後には宿を追い出されてしまう。


 幸いそれなりに長くペテスで活動してるだけあって、浅層の魔物なら自分一人でも狩れる。アーサーは生きる為に、そしてサラを探しに行く為に、翌日から冒険者活動を再開した。





 「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ! なんでこんな所にオーガが!!」


 冒険者活動を再開したアーサーはなんとかその日暮らしを続けていた。宿代とご飯で依頼料が消えていく毎日。自分がどれだけサラに助けられていたのかを痛感した。


 それでもほんの少しずつ貯金が出来てきて、稼ぎも安定してきた頃。

 いつものように浅層で活動して、ゴブリンを倒して一息ついてると、オーガが突然現れた。


 アーサーはびっくりして逃げ出す。

 自分の今の実力ではオーガに勝てない事など百も承知なのだ。持っていた荷物や、採取した薬草、ゴブリンの素材などを放り出してとにかく逃げる。


 しかしオーガのスピードはアーサーより断然速い。あっという間に追い詰められ、絶体絶命のピンチに陥ったその時だった。


 「大丈夫か!?」


 飛び込んできたのは二人組の冒険者。

 二人はあっという間にオーガを片付けると、アーサーに駆け寄る。


 「ふぐっ…うわぁぁああん!」


 アーサー助かった安堵で大号泣した。




 「落ち着いたか?」


 「す、すみません…」


 アーサーは赤面しながら二人組の冒険者を見る。男二人組で、武器や身に付けてるモノを見ると、自分のより段違いに良い。


 (戦闘風景はほとんど覚えてないけど、オーガをあっさり仕留めていたな…。B級冒険者ぐらいなのかな)


 「救援のお礼はいらねぇからよ。あのオーガの素材は貰っても良いか?」


 「も、もちろんです。本当にありがとうございました」


 アーサーも命の危機を助けてもらったとあればしおらしくなる。本当にあの時は死んだと思ってたのだ。


 更に冒険者はピンチを助けてもらうと、お礼をするのがマナー。二人がいらないと言ってくれて助かった。お金なんてほとんど持ってないし、荷物を放り出して逃げたのもあって、お礼を出来る状況じゃなかったのだ。


 「おい。これはお前の荷物か?」


 「あ、そうです! あ! ありがとうございます!」


 「気にするな」


 その場を離れていたもう一人の冒険者がアーサーの荷物を回収してきてくれたらしい。

 アーサーにその荷物を渡して、冒険者の男の隣に座った。


 「しっかし、こんな場所にオーガが出てくるのか。ペテス領は魔境と聞いていたが、本物だな」


 「い、いえ。いつもは出てきません。僕もそれなりに長くここにいますが、ここにオーガが出て来たのは初めてです」


 「そうなのか? 俺達二人はペテスに来たばっかでよ。良かったらそこら辺の事を詳しく教えてくんねぇか?」


 こうしてアーサーは二人の冒険者に出会った。命の危機を助けられたアーサーはあっさりと冒険者に心を許し、街に戻るまでにすっかり意気投合したのであった。


 

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