第147話 二回目の潜入


 「まだ早い話ですが、そろそろ考えておいた方が良いかと」


 「うむ。前回は流れで出したけど、今回はちゃんと計画したいね」


 カタリーナとホルトと一緒に次の支店を出す場所を決める。

 まだ人員は育ってないけど、準備だけは進めておきたい。


 「港街がある場所を押さえておきたい」


 「海ですか」


 次に出す場所は海がある場所が良い。

 海鮮類を食べたいとか、わがままな理由もあるけど、『クトゥルフ』にいる船乗りと船大工の職業持ちが暇してるのが問題だ。


 港があるどこかの街に支店を出して、船乗り、船大工に仕事を与えたいんだ。


 勿論迷宮がある街とかにも出したいけどね。


 「それに『クトゥルフ』か『ルルイエ商会』で船をいくつか所有しておきたい。いざという時に役に立ちそうだし」


 「別の大陸との貿易ですか」


 まあ、俺たちには転移があるけども。

 一回は別の大陸になんらかの手段でいかないといけないし、海運業ってなんかマフィアのフロント企業みたいでカッコいいから。

 『クトゥルフ』でも『ルルイエ商会』の事業の一つとして手掛けたい。


 はい。結局俺のわがままですね。


 「フレリア王国には一つ港街があるみたいですね。そこにしますか? それともまた他国に?」


 「出来れば他国だな。とりあえず国に一つは商会を出しておいて、少しでも情報を集めたい」


 「では、まずどこの国の港街が良さそうか検討しないといけないですね」


 そうだな。まだあんまり情報がないから、簡単には決められないけど、少しずつ準備していこう。





 「ここに忍び込むのも二回目か」


 真夜中のペテス領。

 俺は今、情報部の人間達と一緒にペテス領の領主の屋敷に忍び込んでいる。


 ここの領主と契約しておこうと思って。

 新しくここに赴任してきた領主は、野心バリバリの人間ではなく、どちらかというと政治からは距離を置いてる人間だ。


 でも、お金は大好きらしい。

 政治に関わるぐらいなら、商売でお金を稼いで贅沢な暮らしをしたい。そんな人間みたいなんだよね。商売の邪魔になるようなら、政治の手段も使うらしいけど。


 それなら『クトゥルフ』と良い感じに共生関係を築けるんじゃないかと思ったけど、やはりそこは貴族。どうやら『ルルイエ商会』に目を付けて強権を発動しようとしてたみたいなんだよね。


 昼間に領主の使者がやってきて、俺達が売ってる魔道具と娯楽を作ってる職人を全部寄越せとか言ってきたみたいだ。


 情報では商売の事に関しては頭が切れそうな人間って聞いてたから期待してたんだけどね。やっぱり帝国の貴族は平民を下に見過ぎてる。


 とりあえず商会長に連絡しますって言ってその場は帰したみたいだけど、これからも面倒事が起こるに決まってる。それなら先に領主とその周りの人間を契約して傀儡にしておこうと思ったんだよね。


 ついでに転送箱も帝国内で流行らせてもらいたい。こいつに売買させればあっという間に広がっていくだろう。


 現にフレリア王国でも伯爵さんの勢力内で出回りだしてる。これで俺が伯爵さんの敵対勢力にも売り込んだら、後は一気に広がっていくはずだ。


 死聖と絶影の職業補正もあって、すんなり忍び込めた。情報部の人員も高位暗殺者だったり、幻影だったり、こういう仕事をするのにピッタリだ。もちろんカンストもしてらっしゃる。


 一人だけ高位拷問官のマリクがついてきてるけど、そこはご愛嬌。

 普通に優秀な人間だし、それに久々の拷問チャンスにマリクを除け者にしちゃうのは可哀想だ。俺も虐殺者の職業を試したい気持ちもあるけど、部下のメンタルケアも重要だと思いまして。


 見張りの人間や、夜警してる人間を首トンであっさりと気絶させて領主の寝室に侵入。


 「この魔道具置いといて」


 エリザベスが作ってくれた防音の魔道具。

 異世界では結構お馴染みだと思うんだけど、こういうのすら存在してないっぽいんだよね。どれだけ生産者を軽視してる世界なんだ。


 魔道具の設置もバッチリ。

 これで叫ばれても問題ない。

 という事で、気持ち良さそうに寝てる領主を叩き起こす。文字通り顔を往復ビンタしました、マリクが。


 「ふぁっ!?」


 領主はびっくりしたように飛び起きて、目をぱちくりしながら周りを見渡す。

 なんか可愛いな。寝起きで頭が働いてないんだろう。それにこんな起こされ方なんて、貴族ならほぼされないだろうからな。


 ラノベとかでは主人と気安い感じのメイドが偶に雑な起こし方をしてるのとかを見るけど。帝国ではそういうのはないだろう。

 貴族こそ至高って考えだからな。


 「どうも。『ルルイエ商会』の商会長をやってます、レイモンドと申します。どうやら、サムスさんはうちの商会に興味があるとか。お話を伺いにきました」


 「は、はぁ?」


 ダメだな。完全に混乱してらっしゃる。

 まあ、そりゃそうかって感じだ。黒い外套を被ったいかにもよろしくない雰囲気を醸し出してる人間に囲まれてるし、領主のサムスの一番近くにいるマリクは満面の笑みだ。


 混乱して発狂するか、意味が分からなくて思考停止するかの二択だろう。

 ここで相当肝が据わってるなら、冷静に対処したりするんだろうが。


 流石にサムスは無理だったみたいだ。

 因みに職業は高位商人。お金大好きなだけあって、商売してるからか、それなりにレベルも高い。


 そこそこ役に立ってくれそうだな。

 

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