第144話 この世界は


 「うーん…。結構なろくでなしだったんだね」


 俺、カタリーナ、アンジー、ホルト、サラで話し合い。アーサーとはどういう知り合いなのか、なんでお別れする事になったのか。

 そういう事を聞いてみたんだけど。


 「転生者なのは間違いなさそうか」


 「そうですね。時期もボスと一緒ぐらいなのではないでしょうか」


 サラはアーサーに違和感を持ったのは15歳になる前ぐらいだったらしいけど、思い返してみれば、それ以前にもおかしいところは多々あったらしい。


 で、どうやら12歳ぐらいの頃に、アーサーが高熱を出して倒れた事があったみたいだ。

 キッカケはそれじゃないかって。


 「えっと、レイモンドさん…ボスもその転生者? なんですか?」


 「そう。こことは違う人間の記憶があるんだよね。レイモンドに憑依したのか、元からその記憶があって思い出したのかは分からないけど」


 「他人の記憶が…」


 「アーサーが俺の商会に突っ込んで来たのは、多分前世由来の商品とかがあったからじゃないかな」


 なんで突っ込んで来たのかは知らん。

 もしかしたら同じ世界の出身同士仲良くしたかったのかもしれん。


 それよりも興味深いのは、何故かアーサーはどうしてもペテス領に来たがってたって事だ。当初は帝都に向かう予定だったらしい。


 「やけにペテス領に詳しい事があったり、初めて街に着いた時は、なんかおかしかったんだよね?」


 「はい。相当焦ってたみたいだから、私も良く覚えてます。何か想定外の事が起こったような感じでした」


 サラが言うには物心ついた時から一緒で村から出る事なんて無かったらしい。

 それなのに迷いなく冒険者ギルドに行ったり、誰に聞いた訳でもないのに、安くて比較的質の良い宿に向かったり。


 「前にボスが言ってた感じの話かしらねぇ」


 「ありえるな。でも本当にそんな事ありえるのか?」


 物語の中の世界に転生しちゃうとかあるんだぜーってアンジー達に言った事があるんだ。小説のキャラになったり、ゲームキャラになったり。


 なんかやけにテンプレが多い世界だから、そんな事もあるんじゃねって思ってたんだけど。そういうのって、転生する奴はその世界の知識を持ってるのが当たり前なんじゃないの? 俺、こんな世界はゲームでも小説でも知らないんだけど。そこはテンプレを外してくるのかね?


 ゲームとか小説の中の世界に転生するって良く考えたら意味分からないよね。神様がそれを参考にして世界を創ったりしたのかな?


 転生とか不可思議な事が起こってる時点でそんな事を考えるのは意味ないかもしれんが。


 サラが意味が分からないって感じで、キョトンとしてるので、なんとか分かりやすいように説明する。


 「まあ、なんらかの知識があるのは確定だろうな。サラの斧って武器もアーサーが勧めてきたんだろ?」


 「はい。私も最初は剣が良いと思ってたんです。でも斧を使っていくうちに、妙にしっくりくる感触があって。アーサーが私の職業を知ってたって事なんですね」


 「多分な。じゃないと普通、斧なんて勧めない。女が使うには不似合いすぎる」


 弓とか槍とか色々候補がある中で斧って。

 よほどアーサーの性癖が拗れたりしてなかったらそんな事しないだろう。


 「って事はペテスに来たのはあれか。恩恵持ちをスカウトしに来たって事か」


 「私も今ではそう思います」


 カタリーナ、ローザ、ホルト、エリザベス、アンジー。人材の宝庫だもんね。あ、俺もか? ゴドウィンもそうなのかな? 


 「これはボスがその元の知識を破壊してる可能性があるのでは? 予想外の事が起こったような顔をしてたみたいですし、その後の行動に計画性がなさすぎます」


 ホルト君鋭いね。

 俺もそう思ってたところであります。

 知らない内に元の原作に沿う様に行動してる可能性もあるだろうが、アーサーの行動を聞く限りそうでもなさそう。


 どこからどこまでが原作通りだったのかね。もしかしたらカタリーナを拾った時点で歴史が変わってたり?


 「アーサーは原作通りに行動しようとしてたのかな。無理があると思うけど」


 これは常々思ってた事だ。

 ラノベとかでも原作通りに行動しようとして上手くいってる作品なんて、滅多に見ない。大抵どこかで破綻する。


 そりゃそうだよね。

 アーサーの知識がラノベかゲームか知らないけど、こっちの人間は生きてるんだ。

 原作では描かれなかった日常で、その主人公と同じ様な行動なんて出来る訳がない。


 ちょっとしたバタフライエフェクトで、人間関係もおかしくなっていくだろう。

 アイテムが隠されてる場所とかなら、先取り出来るかもしれないが、人間関係とかはシナリオチャート通りに行くわけがない。


 極端な話、セリフまわしも間違ったらダメだからね。


 「結論。サラには申し訳ないけど、アーサーは多分バカだ」


 「いえ。同意です。レイ…ボスの話を聞いて改めて思いました。バカなんだろうと」


 無理にボスって言わなくてもいいよ?

 言いやすい呼び方で。最初は名前を隠そうと思ってたけど、ローザが叫んでるし、商会にも登録してあるから。


 それはさておき。

 前世で頭の出来が良くなかった俺でもこれだけ問題点があげられるんだ。実際はもっと色々問題がある事だろう。


 でもアーサー君はそれに気付かず、原作に沿って行動しようとした。多分。原作を知らないから予想でしかないけど。


 これはまだ当分俺の知識チート(笑)は続けられそうだな。


 「そうなってくると、アーサーの原作知識が欲しいなぁ。人間自体はいらないけど」


 拷問とかして知識だけ抜き出すか?

 いや、アーサーは勇者だったか。

 勇者にしか倒せない敵とか居たら厄介だから、ある程度成長してもらわないと困るのか?


 うーん。ちょっと面倒だなぁ。

 

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