第142話 チョロイン


 場所を移して食堂へ。

 サラに安心してもらう為に、なるべく表通りの場所を選んだ。


 でもその心配はあんまり必要なかったみたいだ。サラは食堂へ向かう道中で、サッキと仲良く話をしてる。

 乗り合い馬車の道中で信頼をガッチリ掴んだらしい。


 一種の吊り橋効果ってやつか?

 ピンチを救ってもらったらなんか惚れちゃうってやつ。そういうのは主人公っぽい勇者君の役目だと思うんだが。


 間違っても元スラムでゴロツキをやってた奴の役割じゃない。まあ、『クトゥルフ』に吸収されてからは真面目にやってる奴だし、そんなの関係ないか。


 スラムの人間って真面目な奴が多いんだよね。大抵は単純に働き方を知らなくて、仕方なくゴロツキをやってたような連中だ。


 ちゃんと教育して、その人に合う職を斡旋してやるとみんな真面目に働く。まあ、それに見合う報酬はあげてるつもりだしね。

 やっぱり教育は偉大だよ。


 「サッキさん! サッキさん!」


 ……サラちゃん完璧にサッキに惚の字ですよ。懐いた犬みたいにべったりだ。

 やっぱり幼馴染キャラはちょろい。まだ幼馴染か知らないけど。


 「それで勧誘の話なんだけどね」


 「えっと『ルルイエ商会』お抱えの冒険者になるって事ですか? まだ私Eランクでお役に立てないと思うんですけど…」


 サッキと隣同士で座ってにゃんにゃんしてるのを、アンジーと暖かい目で見守ってたけど、そろそろ本題に入りたい。

 もうちょっとで砂糖を吐きそうだった。サッキも満更じゃなさそうだし。


 「そこはちゃんと教育するよ。色々説明したい事、聞きたい事があるんだけど、機密情報もあるからね。まずはサラの意思を確認しないと、全部は話せないんだ」


 「私が『ルルイエ商会』お抱えになったらサッキさんと一緒に働けますか?」


 「そこはサラの頑張り次第だよ」


 もう完璧に惚れてるじゃん。

 勇者君が何をしたか知らないけど、なんか申し訳なくなってきた。本当に良かったんだろうか?


 「では、まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします」


 「あ、うん」


 あっさり。滅茶苦茶あっさり勧誘に成功しちゃった。もっと色々口説き文句を考えてたんだけど、給料とかの話をする前に決まっちゃったよ。


 チョロイン補正が入ってるな、これは。

 もし俺達がサラを騙してる悪徳奴隷商人とかならどうするんだ。

 簡単に勧誘に成功したのは嬉しいけど、この辺の教育はしっかりしないといけないな。


 喋ってる感じ、頭は悪くなさそうだし。

 ちゃんと教育すれば大丈夫だと思いたい。


 サッキが居て良かった。

 ボーナスを上げたばっかりだけど、更にボーナスを上げても良いくらいだ。


 サラが乗り合い馬車に予約した時に、こいつが予約してなかったら、護衛として付けようとも思わなかっただろうしな。


 あの街道は盗賊が居なくなってから安全だと思ってたし。サッキが居なかったら、サラが死んでる事もありえた。ファインプレーですよ。


 「じゃあとりあえず商会に行こうか。色々話を詰めないといけない事もあるし」


 「分かりました」


 契約もしないとな。

 サラは『ルルイエ商会』、『クトゥルフ』のやってる事をどう思うんだろうか。


 最近ちょびっと有名になってきた商会が実は裏組織も運営してますよっていうのは、真面目な人間には受け入れ難いんじゃないかな。


 「とりあえず秘密基地に飛ぶぞ」


 「? 秘密基地ですか?」


 商会に到着して、そのまま地下室へ。

 サラは不思議そうにしながら、サッキの服を摘んでる。あざとい。可愛いかよ。

 これ、無意識にやってるんだろうか?


 サッキは頼られてるって感じで、なんか嬉しそうにしてるし。


 「はい。到着」


 「わっ! 景色が変わりました…ちょっと気持ち悪いです…」


 転移酔いですね。

 すぐに治るから頑張って耐えてくれ。

 俺は最近慣れてきた。


 「レイモンドさん、ここは?」


 転移装置が置いてある部屋から出て、岩山をくり抜いた洞窟の中。

 そこを歩きつつ、執務室に向かう。


 「よし。じゃあ色々説明しようかな」


 「私はもう良いわよね。お風呂に入ってくるわ」


 護衛の役目は終わりとばかりに、アンジーは温泉に行った。サッキには残ってもらう。サラもその方が安心だろうし。


 生産部が作ってくれたふっかふかのソファに座って、紅茶を出す。

 最近料理人を取ったから、中々上手に入れれたんじゃなかろうか。メイドとか執事の職も補正が入るみたいだぜ。


 「何から聞きたい? サラにも聞きたい事は結構あるけど、まずはサラの疑問から解消していこう。あ、その前に」


 どの道全部説明する予定だけど、サラの聞きたい事から教えてあげる方が良いだろう。

 でもその前に契約だけはしておかないと。


 「わっ! 魔法ですか?」


 「それを了承してくれたらなんでも話すよ」


 サラはちょっと驚きながらも、普通に了承した。契約内容は結構キツイのにね。俺を裏切れなくなって、逆らえなくなるんだけど。

 やっぱり騙されやすいんじゃなかろうか。


 まっ、スムーズに進む分には問題あるまい。これでなんでも話せるようになったぞ。

 どんな質問でもどんとこいだ。

 

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