第141話 対面
「ん? 種麹って米が必要なんじゃなかったっけ?」
執務室で醤油とかの作り方をうんうんと思い出してると重要な事を思い出した。
大豆やら小麦を蒸したりとか、そういう工程も必要だけど、肝心の麹菌とかをどうするのか。
「小麦で代用出来るか? とりあえず実験してみるしかないか…」
まあ、何もかもが前世と同じ通りにいくとは限らん。ここは異世界ですし。何かご都合素材とかもあるかもしれない。
とりあえず試してから考えよう。時間はあるんだし、試行錯誤だな。
「ボス。サラがデッカー領に到着したようです」
「おっ。やっとか」
とりあえず覚えてる限りの工程を紙に書いて、生産部に丸投げしよう。
そう思ってかきかきしてたら、カタリーナがやって来て、サラがデッカー領に来た事を教えられた。
「道中オーガの群れに襲われたらしいですが、護衛につけてた者が対処しました」
「オーガ? あの街道に?」
「はい。介入しないと危なかったそうです」
いや、それは良いんだ。むしろ良くやったと言いたい。万が一の為につけといたけど、それが功を奏したな。後で特別ボーナスを支給しておこう。
「あの街道にオーガは危なくない? ペテス領の冒険者ならまだしも、デッカー領の冒険者じゃ群れは勝てないだろ。何か不自然な事があったりは?」
「そこまでは分かりません。調査させますか?」
うーん。なんか今自分で言ってて思ったけど、仮にその街道に異変があったとして、調査するのは俺の仕事じゃないよね。
領主とか冒険者ギルドの仕事だ。
転移で移動するから、あの街道は使わないし、俺達が貴重な人員やら時間を使ってやる事でもない気がする。
「放置でいっか。もし本当にやばいなら、そのうち噂でも流れてくるだろ」
「かしこまりました。サラの方はどうしますか?」
「見張りはつけてるの?」
「はい。街に到着後、冒険者ギルドに寄って挨拶をしてから宿を取って今は休んでるようです。交代で見張りをつけて、今は一緒に移動してきた者が秘密基地に帰ってきています」
ふむ。とりあえずそいつからもう少し詳しい話を聞くか。サラがどんな感じだったのかも気になるし、もし仲良くなってるなら、それ経由で紹介してもらって勧誘しよう。
「ふーむ。やっぱり分からんな」
「もう少し踏み込んだ方が良かったすか?」
「いや、良いよ。ご苦労様。ボーナスがあるから後でもらっておいてね」
「あざっす」
話を聞いたけど、馬車の中では終始考え事をしてるような雰囲気だったらしい。そういう相手にずけずけいくのはよろしくないからね。同行してた男は悪くない。
「一体何を考えてたのかね。アーサーが追いかけて来ない事に怒ってるのか。それとも別れられて、嬉しくて新たな門出について考えてたのか」
「人の心中なんてそんな簡単に分かりませんよ。直接聞いて見るしかないのでは?」
「だな」
そんな事言いますけど、カタリーナさんは胸関連の事になると俺の心の中を正確に読んできますよね。
まあ、それはさておき、とりあえずサラと接触するか。どうやって勧誘しようかね。
翌日。
アンジーとサラと同行してた男をお供にデッカー領へ。
サラは冒険者の依頼を受けるでもなく、街をブラブラしてるらしい。
「あ! サッキさん!」
そして偶然を装ってサラの近くを歩くと、サラが同行してた男、サッキに気が付いた。
「サッキ、知り合い?」
「ええ。乗り合い馬車で一緒になりやして」
ここからは白々しい演技の始まりだ。
既にサラの事は知ってるけど、初対面ムーブをかまさないといけない。
「えっと…?」
「『ルルイエ商会』の会長をやってるレイモンドです。あなたは?」
「あ! すみません! サラです!」
『ルルイエ商会』って言ったらびっくりしたような顔をしてたけど、慌てて自分の名前を言うサラ。
まあ、どこぞの勇者君が問題を起こしたところのボスだからね。俺はあんまり気にしてないけど。お陰で恩恵持ちを見つけられたしね。
サラはサッキと俺がどんな関係なのか気になってる様子。
確かに接点なんてなさそうだもんね。
「サッキは『ルルイエ商会』のお抱え冒険者なんだ。商隊の護衛とか、素材集めをしてもらったりしてる」
「そうなんですね」
とりあえず納得したように頷くサラ。
アンジーは普通に護衛だと教えて、いよいよ本題へ。
「そういえばサラっていうと、サッキが中々筋が良いって言ってた冒険者じゃなかったっけ?」
「ええ。オーガ相手にもなんとか戦えてやした。もっと鍛えれば優秀な冒険者になるでしょう」
「ふむ。サラさんは今日は時間ある? 良かったらどこかでご飯でもどうかな?」
「えっと…」
ちょっと強引すぎたかな?
とりあえずサッキから聞いてましたよってムーブから落ち着いて話が出来る場所に行きたいんだけど。
勧誘って一々面倒だなぁ。
契約しないと俺達の情報はあんまり話せないし。暴力で従わせる方がよっぽど楽だ。
短期的に見たらそれで良いんだけど、長期的に付き合っていくとなると、やっぱり穏便な関係構築は不可欠。面倒だけど頑張るしかあるまい。
「あ、無理にとは言わないよ。初対面でいきなりこんな事言われても困るってのも分かるしね。でも優秀な冒険者なら、とりあえず勧誘はしときたいなって」
「じゃあ少しだけなら…」
うむ。やはり初手善人そうなムーブは優秀だな。役者とかの職業補正もあるんだろうけど、中々どうして悪くない。
このままスパッとスカウト出来たら言う事なしなんだけどなぁ。
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