第140話 サラの旅の道中
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アーサーが衛兵に連れて行かれたと、聞いたのは冒険者ギルドで依頼を査定し終わった頃くらいの時だった。
冒険者として、それなりにペテス領に滞在してたから知り合いは少し増えた。
その中の一人が、最近出来た商会でアーサーが問題を起こしたと教えてくれた。
正直この時点でもう放っておこうかと思った。それぐらい最近のアーサーはもうダメだって思ってたんだ。
でも私の最後の良心か、同じ村で一緒に過ごした情がまだ残ってたのか。
見捨てるという事が出来なかった。
衛兵の詰所に行って事情を聞いて、本当にどうしようもないと思ったものの、衛兵のおじさんに頭を下げて、問題を起こした『ルルイエ商会』の従業員さんにも頭を下げて、なんとか減刑してもらった。
当初の罰金はとてもじゃないけど、アーサーだけじゃ払えなかったし、私のお金を出しても足りそうになかったのだ。
商会の従業員さんが優しい人で良かった。
次はありませんよと言われたけど、それでもかなり減刑してくれたのだ。
とりあえずアーサーは一日勾留される事になって、翌朝になって帰って来た。
これで少しはアーサーも反省して、馬鹿な事はしないと思ってたんだけど。
アーサーは自分の事ばっかり。
お金を貯め直さないといけないとか、全然寝れなかったから今日は休みたいとか。
そんなアーサーを見て、私の中の何かがキレた。もうダメだと、アーサーとはやっていけないと思った。
別にアーサーに感謝してもらいたくて、衛兵さんや、従業員さんに頭を下げた訳じゃない。それでも。それでも、何か一言あっても良いんじゃないか、なんで私がアーサーの問題で方々に頭を下げてるのに、なんでお前はそんなに能天気なのか。
色々考えると止まらなくなって、無性にイライラするので、とにかく依頼をこなす事に集中した。この時のモチベーションは、早くお金を貯めてアーサーから離れる事。
一日でも早くアーサーから離れたい。
隣国行きの乗り合い馬車を予約して、簡単にアーサーが追ってこれないようにして。
念の為実家の村にも手紙を出す。
アーサーが万が一村に戻ってある事ない事吹き込まれても困る。
こういう事情があって、アーサーから離れたとこれまでの事を事細かに書いて両親に送っておいた。
そして出発して今に至る。
隣国に行ってやって行けるかは不安だ。
でも今はアーサーから離れられた喜びしかない。貯金もそれなりにある。
フレリア王国に行って、冒険者を続けるか、それとも別の仕事を探すか。まだちゃんと決めてないけど、悩む時間を過ごすぐらいのお金はある。やっとアーサーから離れられたのだ。ゆっくり考えたい。
「魔物だ!!」
馬車に揺られる事数日。
もうすぐフレリア王国の国境があるというところで魔物の襲撃があった。
この乗り合い馬車には護衛が勿論いる。
魔物や盗賊対策の為にそれなりの実力者、冒険者として一人前と認められるC級のパーティを雇ってると野営をしてる時に御者さんに聞いた。
私もそれを聞いて安心していたんだけど、今回は出て来た魔物が悪かった。
「オ、オーガの群れだと!?」
オーガ。
身長2mぐらいで筋肉隆々。
単体でCランク、群れともなるとBランクの危険度があるって冒険者の先輩に聞いた。
ペテス領の森の中でも中層辺りで出てくると聞いていて、なるべく近寄らないようにしてたんだけど。
護衛の冒険者人達は慌てつつも、なんとか馬車を守ろうと奮闘している。
しかし、魔物の方が優勢だ。
「私も手伝います!」
護衛の人達が戦ってるのを見て、居ても立っても居られなくなった。私はまだEランクだけど、少しは役に立てるはず。
そう思って戦線に参加してから数分。
自分の見込みが甘かったと思い知った。
普段浅い場所で戦ってる魔物と、速さも力も段違いだ。正直力にはちょっと自信があったんだけど、そんな自信はすぐに消え去った。
私が参加しても戦況は変わらない。
ここまでかと諦めそうになった時だった。
「念の為着いて来て良かったって事か」
馬車で私の隣に座っていた顔が怖い冒険者の人が何かを呟きながら、参戦してきた。
その人はとても強かった。
C級の冒険者の人達や私が苦戦していたオーガを槍でどんどん薙ぎ払っていく。
そしてあっという間にオーガを討伐してしまった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
御者の人は泣きながら槍を持った冒険者の人にお礼を言っている。御者の人だけじゃない。他に乗っていた一般の人や、護衛の冒険者の人も。
「護衛の邪魔しちゃ悪いかと静観していたんだがな。どうにも危なそうだったんでお節介させてもらった」
「いや、俺達じゃどうにもならなかった。本当に助かったよ。ありがとう」
強面の冒険者さんは苦笑いしつつ、これからの事について話している。
オーガの素材の事についてや、今回の救援の報酬について。
そして落ち着いたところで私もお礼を言いに行った。死を覚悟してたところを助けられたのだ。お金やらを要求しても良さそうなのに、この人は最低限の報酬だけで良いと言っていた。
顔は盗賊みたいなのに。
人は見かけによらないという事だろう。
それはアーサーで嫌というほど理解しているつもりだ。
「あの! ありがとうございました!」
「良いって事よ。後ろから見てたが、嬢ちゃんは中々筋が良いな。このまま精進すれば俺なんてあっという間に追い抜かれちまいそうだ」
「そ、そんな…。私なんて全然お役に立てなくて」
その冒険者の人とはフレリア王国に着くまで色んな話をした。なんと最近冒険者になったばかりらしい。
オーガの群れを簡単に討伐してたからA級冒険者ぐらいだと思っていた。
どうやら最近まで修行してたみたいで、ようやく合格したと言っていた。
この強さでようやく合格って、一体どんな師匠なんだろうと思ったけど、流石にそこまでは聞かなかった。
そして国境を通って、隣国へ。
フレリア王国デッカー領に到着した。
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