第138話 大豆


 「出発しちゃったか」


 「ええ。もう少し何かあると思いましたが。サラの方は荷物を全て持っていってます。戻る気はなさそうですね」


 サラがペテス領を出たらしい。

 俺はかまってちゃんムーブを最後まで疑ってたんだが、そんな事もなく。

 本当にあっさりと出て行ったみたいだ。


 「勇者君の方は?」


 「遠くからの監視ですので詳細ははっきり分かりませんが、焦ってるのは確かのようですね」


 「ふむ」


 ほんと勇者君は何をやったんだろうね。

 焦ってるって事はサラが離れると思ってなかったって事だろ? 本人は自覚がないパターンか。これを無自覚系主人公と言ってもいいのか。『あれ? 僕なんかやっちゃいました?』つって。……ちょっと違うか。


 なんかやっちゃったんだろうけど。


 「じゃあサラの道中の安全を祈りつつ、今日も元気に頑張っていこうかね」


 「勇者の方はどうしますか?」


 「とりあえず監視は継続で。どう動くか分からんし」


 貴重な恩恵持ちだし欲しいんだけどね。

 サラに何をやらかしたのかが分からない。ロクでもない事をしたんならいらない。性格が終わってる奴はどうしようもないからね。どうにかして恩恵だけ回収とか出来ないかな。





 「ほう。ほうほう。ほうほうほう」


 思わずほうの三段活用をしてしまった。

 サラがデッカー領にくるまで暇だなと、秘密基地内を適当に歩いてたんだけど。


 「大豆じゃん」


 「家畜の餌らしいっす」


 情報部がとんでもないモノを持ち帰って来ていた。大豆さんである。俺が米と並んで探してた非常に重要な穀物である。


 どうやら、人間が食べるモノとして認知されてないらしい。それで発見が遅れたけど、結構安値で流通してるみたいだ。


 最近うちで家畜を飼い始めたんだよね。

 鶏みたいなやつだけど。卵をもっと確保したくて。秘密基地の農場の一角に鶏小屋を作ったんだ。


 で、家畜の餌を仕入れてみたらあら不思議。なんと大豆じゃありませんか。

 『クトゥルフ』の人員にはこんなのだよって教えてたから、慌てて報告にきてくれた。


 「素晴らしい。まずはちゃんと栽培出来るかが知りたい。生産部の奴らと良く話し合ってくれ」


 「やる必要ありやすか? いつでも手に入りますよ?」


 「これはとにかく数が欲しいんだ。もし、俺が知ってる調味料類を発明出来たら、今流通してる分じゃ足りなくなるのは間違いない」


 「了解っす」


 うししししし。

 マジで嬉しい。ここ最近で一番嬉しいかも。正直勇者やサラを見つけた時より嬉しい。それぐらい欲していたんだ。


 「うーん。本格的に量産するなら、この秘密基地内の農場じゃ足りないなぁ」


 岩山をぐるっと囲むように壁を建てて、結構広い大要塞みたいな感じにはしてるけど、それでもスペースには限界がある。

 どこかにどでかい農地を建てたいな。


 よし。カタリーナ達に相談しよう。

 こういうのは馬鹿が一人で考えてもダメなんだ。俺には優秀な側近が数多く居るんだし、しっかり頼らせてもらおう。



 「これがボスの探してた穀物ですか」


 「家畜の餌だったのねぇ。馬を育ててるのに気付かなかったのかしら?」


 「うちで育ててる馬は良いモノを食べさせてますからね。屈強な軍馬は良い値になりますから」


 はい。という事でやって来ました会議室。

 カタリーナ、アンジー、ホルト、他にも農業を任せてる人員が何人か。後は生産部からエリザベス。


 「とにかくこれを大量生産したい」


 「うちの農場にはもう空きがあんまりありませんぜ」


 議題は言うまでもなく大豆の大量生産。

 農場のまとめ役が申し訳なさそうに、空きがない事を伝えてくる。


 「まずはそれなりの数を仕入れて、味噌や醤油でしたか? それを作れるか試してみないといけないんじゃないですか?」


 「そうだな。発酵はかなり難しいらしい。これに関しては時間が掛かると思ってる」


 ホルトの言う通りだな。まずは出来るか試してみないと。それ用の場所も新しく用意しないといけないしさ。


 一応味噌と醤油の作り方はちょろっと知ってるんだ。小学校の頃、職業体験みたいなので実際に作ってみようみたいなのをしたから。でも幾分昔の事すぎてね。いつも通り、ふわっとした知識しかない。


 「ふっくらパンの時みたいにって事? あれは専門外だから苦労した」


 「まあ、一緒っちゃ一緒だな」


 エリザベスが顰めっ面だ。エリザベスの本業は魔道具を弄ったり、薬を作る事だからな。なんか薬とおんなじ感じで出来るのではと思って、安易に任せたんだけど、結構苦労してらっしゃった。

 ごめんね。瓶の中に果物と水を入れて放置してりゃ簡単に出来ると思ってたんだ。


 「大量に作るなら場所をどこかに用意しないといけませんね。それも商品になり得るなら機密も守れる場所にしないと」


 「この秘密基地を広げますか?」


 「え? 広げれるの?」


 びっくり。壁も建てちゃったし、拡張は難しいんじゃないかなと思ってたんだけど。

 この秘密基地の図案を考えたのは大体ホルトだ。そのホルトが広げますかって言ったんなら、出来るんだろうか?


 「今やってる作業が少し止まる事になりますが拡張は可能です。いずれ手狭になった時の事も考えていたので」


 ほわー。優秀でらっしゃる。

 じゃあ拡張しちゃいません? なんなら米を入手した時の事を考えて田んぼも作っときませんか? あれは水路とか色々考えないとだから、早めにやっておくに越した事はないと思うんだけど。


 是非ご一考下さいな。

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