第135話 また発見


 護衛が来たので軽く街歩き中。

 デッカー領と比べると荒れてるなーって印象だ。まあ、スタンピードみたいな事が起こったり、領主が急に死んで一族は辺境に左遷されたり、騎士団長さんが行方不明になったりと、色々あったせいだろうけど。


 一体なんでこんな騒ぎになったんだろうね。レイモンド君は不思議で仕方ありません。


 「スラムがまた出来そうな雰囲気だな」


 「ええ。ボス達が整備したって言ってやしたけど、結局荒れておりますな」


 それな。途中までとはいえ、スラムを表通りと変わらないぐらい綺麗にしたってのに。

 なんかその場所が既に廃れてる。早すぎるだろ。一年も経ってないぞ。いや、ギリギリ経ってるか?


 因みに護衛の奴はデッカー領のスラムでチンピラしてた奴だ。まだレベルが100を超えたばかりでちょっと心許ないけど、仕方ない。

 カンスト組は元々ペテスに居た奴らばっかりだから、ここでは表に出せないんだ。


 もっと年数が経ってれば気にする必要はないんだけどね。どこで顔見知りに出くわして面倒になるか分からないから。


 「ここのスラムも改めて制圧する必要があるな。とりあえず裏さえ支配しとけば、商会はどうとでもなる。出来ればここの新しい領主とも知己になっておきたいけど…」


 「帝国の貴族はがめついって聞きますね」


 がめついと言うより、権力闘争ばっかりしてるって感じ。強国だからなぁ。それに中立派の中心人物だったゴドウィンが行方不明になって争いが激化してる可能性がある。


 まあ、俺も詳しくないんだけど。

 ペテス領で執事をしてたジェイクの情報しかないし。そういう情報も欲しいから、帝国に拠点を一つ置いたんだけど。

 

 「なんとかして転送箱を売り付けたいな。なんならここの領主は無理矢理契約して支配下に置いておいた方が楽かもしれん」


 ここの領主がどういう立場かによるな。政治とは距離を置いてるのか。それとも、バリバリ野心がある奴なのか。


 ここは帝国にとって要所のはずだから、馬鹿は置かない筈なんだよね。他国との国境があって、魔物を抑える必要がある。


 前領主は馬鹿だったけど。あれは夫人がサポートしてたんだろう。先代は優秀だったって聞くしね。


 「課題が多いな。とりあえずスラムか。帰ったらまた人員を選出しないと」


 でもなぁ。武力で黙らせる人員はまだ育ってないんだよね。スラムだし、元ペテスの人間も使うか? 迷うなぁ。


 「ん? 恩恵持ち? だけど…」


 色々考えながら街を歩いてると、街の端まで来てたらしい。その間もひたすら鑑定はしてたんだけど、恩恵持ちを見つけた。

 ペテス領すげぇなって思ってたんだけど、あの子は何をしてるんだろう。


 ☆★☆★☆★


 『名 前』 サラ

 『年 齢』 15

 『種 族』 ヒューマン

 『レベル』 57/456


 『体 力』 E/B

 『魔 力』 G/C

 『攻撃力』 C/EX

 『防御力』 D/A

 『素早さ』 D/A

 『知 力』 E/B

 『器 用』 F/C


 『恩 恵』 万力

 『職 業』 斧師

 『属 性』 無 水 土


 ☆★☆★☆★


 「あの女ですか? なんか衛兵と揉めてますが」


 「揉めてるというか、女の方が頭を下げてるな」


 ふむ。アンジーみたいな恩恵が無くても分かるぞ。15歳でさっきピーピー言ってた勇者君と同い年。で、勇者君はさっき衛兵に連行されたときた。これは物語で言うところの、幼馴染というやつでは?


 恐らく無条件で主人公にベタ惚れしてる、非常に都合の良いキャラクターなんだろう。

 健気に衛兵さんにお願いして、勇者君を返して下さいって言ってるんじゃなかろうか?


 「うーむ。欲しいけど勇者の紐付きはなぁ。あっちはまだ保留段階ですし。それに俺は寝取り寝取られが好きじゃないんだ。愛し合ってるんだろうし、それを無理に引き離すのはなぁ」


 「監視だけにしときやすか?」


 「お願い。とりあえずあれも様子見しよう」


 そろそろ街歩きも引き上げないといけないな。あの恐らく幼馴染に衛兵が絆されて勇者君が解放されてしまうかもしれん。

 俺を探してるみたいだし、会うのはやめといた方が良いだろう。




 「へぇ。恩恵持ちがもう一人居たのね」


 「うん。とりあえず監視だけにしてる」


 「勇者が居るということは魔王も居るんでしょうか? セットなんですよね?」


 「まあ、大抵はね」


 秘密基地に帰って来ました。

 アンジーとカタリーナと温泉に入りながら情報を共有する。カタリーナ達には前世の勇者と魔王の事について話してある。

 あくまでラノベとかゲーム情報だけど、テンプレみたいな世界だし、こういう情報も馬鹿に出来ないからね。


 「勇者が俺を探してる理由はあれかね? 俺が転生者だと思ってるって事かな?」


 「恐らくそうでしょう。ルルイエも前世の神様の名前なんですよね? それに売ってる品も前世の知識由来のモノが多くあります。馬鹿でも気付くかと」


 ルルイエは神様じゃないけど、まあそれは良いか。俺も良く分かってないし。

 島の名前とかだった気もするけど、知らない奴が大半なんだ。俺達の組織をクトゥルフって名前にしたから、じゃあ商会の名前はルルイエにするかって感じで決めただけだし。


 「ふむ。前世知識を向こうも再現しようとされるとまずいな。独占したいのに。多分俺の方が馬鹿だから、向こうの方が正確に色々出来るかもしれん」


 困った。

 俺は自分が馬鹿って事を理解している。

 大体の現代知識がうろ覚えでしかない。

 天才さんが転生してたら、一気に市場のシェアを奪われてしまう。


 俺が勝ってるのは優秀な部下が居るって事だな。後レベルか。なんとかやられる前に俺が先に独占したいところだ。


 「あれがボスより賢いとは思えないけどねぇ」


 ……ま、まぁね。商会前であんな醜態を晒してる奴よりはマシだと思いたいけど。

 俺は前世で出来が良い方ではなかったんだ。だから不安なんですよ。


 

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