第6章 支店

第134話 支店オープン


 「ボスは行かない方が良いわよ」


 支店を出す準備が出来たって事で、ペテス領に行こうかと思ったんだけど、アンジーに止められた。


 「確かに。デッカー領にいるのに、俺がペテスに出現したらおかしいか」


 「それもあるけど…。それだけじゃない様な気がするのよね。死の危険がある訳じゃなさそうだけど、なんか面倒事が起こりそうな感じがするわ」


 「ふむ?」


 アンジーの勘は無視出来ん。

 まあ、土地を買って店舗を用意するぐらいだし俺が行く必要もないな。

 じゃあ別の人間にお願いしますか。



 そう思って二週間。

 無事に『ルルイエ商会』の第二店舗をオープンさせた。特に何か面倒事があったような報告はない。既にあった商会跡地を買い取り、ちょろっと現代風に改築して、転移装置も設置してと至って順調。


 「ボス。出掛けるわよ」


 「あ、はい」


 なんか滅茶苦茶順調だなーと思いながら、書類に判子をカタリーナカタリーナ…間違った、ぺったんぺったんしてると、アンジーが執務室に入って来た。


 急に出掛けるぞって言われて、なんか服まで用意されてる。ボスの威厳なんてあったもんじゃない。どこに行くとも知らされず、着替えて転移装置へ。

 そして着いたのはペテスでオープンした商会。


 「急に何? アンジーが近付くなって言うから、ここには来ないようにしてたんだけど?」


 俺だけじゃなくて、ホルトもダメって言われたんだよね。まあ、元からホルトまだ子供だから表に出ないようにしてるんだけど。

 ホルトはどんな感じか確認したそうにしてたけど、アンジーが万が一があるって言って説き伏せていた。


 「私も分からないわよ。急に良い事がありそうな気がしたから、慌ててこっちに来たの」


 「ふーん?」


 まあ、アンジーがそう言うなら何かあるんだろう。せっかくだから、商会を見て回ろう。そう思ってたんだけど。


 「ここの商会長はどこだ!?」


 「ですから。商会長は隣国にいらっしゃいます。すぐに会わせろと言われましても…」


 なんか店先で揉め事がありそうな雰囲気。

 アンジェリカさん? 良い事があるって言ってませんでした? 明らかに面倒事なんだけど?


 そう思いながら、騒いでる方をバレない様にチラッと見る。おやおや。随分男前な顔をしてらっしゃる。


 ………は?


 「アンジーが言ってたのはこれか」


 「何があったの?」


 鑑定してびっくりした。

 居るのかどうか半信半疑だったけど、まさか本当に居るとは。


 「勇者だ」


 「へぇ。ボスが言ってた作品によって評価が分かれるけど、結局大体は最強の存在ってやつよね?」


 「そうだな」


 ☆★☆★☆★


 『名 前』 アーサー

 『年 齢』 15

 『種 族』 ヒューマン

 『レベル』 32/999 


 『体 力』 E/S

 『魔 力』 G/S

 『攻撃力』 E/S

 『防御力』 E/S

 『素早さ』 E/S

 『知 力』 F/S

 『器 用』 F/S


 『恩 恵』 限界突破 超成長

 『職 業』 勇者

 『属 性』 無 光


 ☆★☆★☆★


 恩恵が二つあって、職業は勇者。

 レベルは999。


 「こいつ、転生者か?」


 「ボスと一緒って事かしら?」


 いや、まだ分からんけど。

 なにせサンプルが俺と騒いでるあいつしか居ないので。まだ決め付けるには早いか。


 「それにしても迷惑だな。なんであいつは騒いでるんだ?」


 「ボスを出せって言ってるみたいよ。なんでかは知らないけど」


 イケメンが台無しになるくらい顔を真っ赤にして、ぎゃーぎゃー騒いでる。

 普通に迷惑なんだが。営業妨害じゃん。


 「あ、衛兵が来た」


 既に店員が衛兵に連絡してたらしく、捕まえられて連れて行かれた。

 なんか捨て台詞も吐いてたけど、良く聞こえなかったな。


 「ふむ。これが良い事? まあ、情報が手に入ったのは嬉しいけど」


 「どうするのかしら? ボスが探してた恩恵持ちよ?」


 うーん。欲しいっちゃ欲しいけどなぁ。

 なんだろう、あの姿を見ると仲間にしたくないって言うか。すっごい馬鹿っぽいよね。

 頭が悪い奴なら教育でなんとかなるけど、頭が痛い奴ってのは、矯正出来るか分からないからなぁ。


 「とりあえず保留。見張りつけといて」


 「分かったわ」


 なんでかな。いつもならあんな有能な能力を見つけたら飛び付くはずなのに。

 なんか嫌。この気持ちはなんだろうか。


 とりあえず様子見してみよう。この嫌な感じの事も分かるかもしれん。


 「ボス。街を歩くなら今のうちよ。あの男と会うのはロクな事にならなそうだけど、今なら衛兵に連れて行かれてるからチャンスだわ。私は行けないけどね」


 「ほう」


 なら街歩きをさせてもらおう。

 あの男に会うのはアンジーも反対らしい。

 だから衛兵に詰められてる今が街歩きのチャンスだと。ペテス領は既に恩恵持ちがいっぱい居たから期待は出来ないけど、職にあぶれてる優良な職業持ちが居たらスカウトしたい。


 「じゃあ行こうかな」


 「別の護衛を呼んでくるわ。後、念の為フードは被ってなさい」


 そう言われたので大人しくフードを被って椅子に座って護衛を待つ。

 ここはデッカー領じゃなくてペテス領。決して街中でも油断出来ないんだよね。そこそこ腕が立つ人間も居るし。


 アンジーがついて来てくれるのが一番安心なんだけど、あのお姉さんは帝国で結構有名だから。ペテス領に長く居た事もあって、顔見知りに会うかもしれない。

 ちょびっと不安だけど仕方ないね。俺もそこそこ強者の部類に入るけど、油断だけはしないようにしよう。

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