閑話 ラーメン


 「ラーメン食いてぇ」


 「前世の料理の話ですか?」


 そうです。なんか無性に食べたくなった。

 ペテス領に支店を出すぞって、みんなが忙しくしてる中、俺とカタリーナも人員の選出やらで秘密基地の執務室で仕事をしてたんだけど、ふと思ってしまった。


 前世では結構色んなラーメン屋さんに行ったりしてたんだよね。絶対体に悪い二郎系も好きだったし、あっさりした塩とかも全然好き。週一では絶対食べてたと思う。


 この世界に転生して…前世の記憶を思い出して三年ちょっとが経った。

 今までそれなりに忙しくしてて、忘れてたけどふと食べたいと思ってしまった。


 思ってしまったらこの気持ちは抑えられない。滅茶苦茶食べたい。


 「って事で食堂に遊びに行ってくる。完成したらみんなにもご馳走するからね。あれは、大体の人がハマると思う」


 「まあ、ボスの仕事はほとんど終えてるので構いませんが。楽しみにしてますね」


 任せろい。美味しいラーメンを作ってやらぁ!! 作るのは料理人の奴らだけどね。

 俺の適当な知識から、頑張って再現してくれた現代の料理は『クトゥルフ』のみんなにも人気だしね。気合いを入れて頑張ろう。



 「やほー」


 って事で秘密基地にあるどでかい厨房にやって来た。『クトゥルフ』のほとんどの人間が利用する食堂を一手に引き受けてくれる、中々ハードな職場だ。


 「お疲れ様です。何かありやしたか?」


 「新作料理を作りたくてね」


 元はスラムでチンピラをやってた、料理人の中で一番レベルが高い奴が声を掛けてくる。喧嘩をするよりこっちの方がよっぽど面白いと、毎日楽しそうに料理をしてる奴だ。


 「おっ。ウルファも頑張ってるな」


 「ええ。筋が良いですよ。やはり恩恵持ちだと違うんすかね」


 ウルファは基礎教育を受けつつ、空いた時間でここで仕事をしている。

 今は野菜の皮剥きをやってるところだ。下働きって感じだな。料理人っぽい。


 「ラーメンって言うんだけどね」


 声を掛けようかと思ったけど、俺が来たのに気付いてないぐらい真剣にやってるし、邪魔したら悪いだろう。

 って事で、早速ラーメンの話をする。


 と言っても、俺は詳しい作り方を知ってる訳じゃない。家で作った経験なんてカップラーメンか、袋麺しかないし。


 だから記憶を頼りにこういった味でとか、多分こんな感じで作るとか。ふわっとした事しか伝えられないんだ。


 でも『クトゥルフ』の料理人はこういう無茶振りに慣れている。俺が現代料理の再現をお願いする時は毎回そうだし。


 それでもこれまでにマヨネーズとか、ハンバーグとか、異世界に転生したらこれで知識チートドヤ顔わっしょいするよねって料理は再現してくれている。


 料理人も慣れたものとばかりに、俺のふわふわした説明をちゃんとメモしてくれている。後は定期的に見に来て、俺が味見をしてオッケーを出したら完成だ。


 俺も料理人の職業取っておこうかな。これからも頼むし、偶にはボスの手料理を振る舞うなんてのも良さそうだ。


 でも今回のラーメンは中々難しいかもしれん。麺を作るとこからだし、スープだって色々手順があったはず。骨から抽出したりするのにもかなり時間が掛かるだろう。

 気長に待つとしようかね。


 そこから試作しては失敗の日々。

 厨房が滅茶苦茶臭くなった時は、獣人連中から猛抗議された。嗅覚が鋭いので。


 アリーナからはにゃーにゃー言われたし、ローザからは近付かないでって言われた。

 温泉で必死に体を洗い流したよね。ローザに辛辣な事を言われたショックで、魔法で浄化すれば良いのにって方法をすっかり忘れていた。


 スープを骨から抽出する時にやたらと異臭を放つのがあったんだよね。とりあえず色んな骨を試そうと、ゴブリンで試したのがいけなかったか。悪ノリし過ぎたかもしれん。


 で、批判されながらも試作を続けた甲斐があって、スープはなんとかなったんだ。


 でも他が全然ダメ。

 トッピング系は醤油がないと話にならん。

 チャーシューも煮卵も。醤油で漬け込む必要があると思うんだ。俺の味の記憶では。

 醤油以外にも必要だろうが、とにかく醤油がないとトッピングが台無し。


 そしてラーメンでスープ並みに重要な麺。

 これがなんか違うんだよね。何が違うって言われたら分からないんだけど、なんか違う。

 多分何かが足りてない。それが分からん。


 「ダメだな。根本的に材料と調味料が足りてないんじゃ、どれだけ料理人が優秀だろうが作れん」


 俺はとりあえず出来たラーメン擬きを啜りながら、同じくラーメンを啜ってたカタリーナとウルファに不満をぶちまける。


 「これでも充分美味しいですけどね」


 「僕もそう思います。元を知らないので、なんとも言えませんが、食堂で出してもそれなりに人気が出ると思いますよ? 下準備さえしておけば作るのも簡単ですし」


 うむむむ。これで納得されるのは困る。

 俺からするとこれはラーメンじゃないんだ。ラーメン擬きなんだ。


 「これからも研究が必要だな」


 「ボスはいつも暇してますし、丁度良いんじゃないですか?」


 そうだな。良い暇潰しになる。

 スープだってまだまだ拘れるし、麺だって粉の配合が間違ってるだけかもしれん。

 もっと試行錯誤が必要だ。


 後は醤油だな。ってか米。絶対にあると思ってる。異世界転生モノで米がないとかありえん。絶対に探し出して醤油も開発してやる。


 

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