第131話 面会


 エリザベスに素材回収を早くして欲しいとお願いされた翌日。

 俺は商会の応接室でひっきりなしにやってくる小規模の商会や、行商人と顔合わせをしていた。


 「ご一考下さい」


 「はい…」


 小規模の商会は穏便に吸収するしかない。どうあがいても『ルルイエ商会』が成長していくと、淘汰されていってしまうんだ。

 何か専門的な分野だけの商会だったら、そんな事無かったんだろうけどね。


 武器専門だとか、薬専門だとか、食料専門だとか。うちはその全部を売ってるから。

 前世のショッピングセンターみたいなもんだ。急にドンとでかい店が出来て、商店街が廃れていく感じ。


 小規模の商会は『ルルイエ商会』の商品を、うちの商会でも販売させて欲しいって許可が欲しかったみたいだけど。

 うちから買ってその商品を別の商会で売る。


 値段が上がるじゃんね。俺は庶民でもそれなりの暮らしが出来るようにしたい。

 庶民の生活レベルが上がれば、孤児も少しは減るんじゃないかと。

 でも値段が上がったら庶民に行き届かないかもしれない。それは困る。


 だから拒否だ。申し訳ないけどね。

 で、うちの商会が潰れてしまうって泣き落としされたら『ルルイエ商会』で吸収しますよと言う訳だ。


 小さいながらも自分の店をやってきて、雇われになるのには抵抗があるだろう。

 だが、こっちにも夢がある。それなりの生活は約束するから、是非良い決断をして欲しいもんです。


 とまぁ、小規模の商会はこれで良いんだ。

 中には俺が若いからか、上から目線でやいやいと言ってくる奴も居たし、勝手にリバーシを真似てるところもある。


 上から目線野郎はアンジーさんの殺気でお帰り頂いて、勝手にリバーシを真似してるのは放置だ。


 多分量産体制でうちに勝るところはないと思う。生産者を軽視してる世界だし、俺達の作ってるクオリティには遠く及ばないだろう。


 うちの名前を騙って売ってるのは今の所ないが、それをやったら手を出そうと思ってる。『ルルイエ商会』の名前を汚されるのは黙ってられない。


 「行商人がだるいな」


 「まぁ、間違いなくよそで高値で売るでしょうねぇ」


 本日の面会は終了って事で執務室に戻って、アンジーと紅茶を飲みながら一息つく。

 コーヒーが飲みたい。この世界では見た事が無いんだよね。作り方なんて全く知らないんだけど。カカオが必要なんだっけ? それはチョコレートか?


 「ここにしか拠点がないからなぁ。規制のしようがない」


 「今は泳がせておくしかないんじゃないかしら?」


 だなぁ。ムカつくけどね。支店をもっと増やせるまでは黙認かなぁ。

 世界中に情報部の人間を散らす事が出来たら見掛けたら殺しといてって言えるんだけど。


 一応行商人に輸送費以外での高値販売はやめてねってお願いしたけど。

 守る訳ないよな。高く売れる商品をわざわざ安く売る道理はない。


 「魔道具なんかも解体して、自分達で作ろうかと頑張ってるらしいぞ」


 「出来るのかしら?」


 さあ? 適正職業ならレベル30もあれば出来るんじゃないかな?

 今俺達が売ってる魔道具はそんなに難しいもんじゃないし。新人達のレベルアップ用だからね。


 まずは『ルルイエ商会』の商品を良く知ってもらわないと。その為に安く売ってるんだ。原価が安いってのもあるけど。


 そこから便利な家電魔道具を売っていく。

 その頃には人も揃ってきてるだろう。

 値段も出来るだけ抑えたいけど、そこはどうなるかまだ分からない。もしかしたら貴族とか富裕層向けになるかもね。

 前世でも昔は家電高かったし。


 「はぁ。前途多難」


 「ボスはもう少しゆっくり構えるべきよ。まだ商会を出したばかりじゃない。不老薬の目処もついたんでしょう? 焦らない事ね。時間はあるんだから」


 そうですな。自分でも分かってるんだ。

 どうしても早く結果を欲しがっちゃってるなって。今が一番時間が掛かる時期だからかな。どうしてももどかしく感じちゃう。


 「焦っても良い事ないな。流石年長者。貴重な意見助かるよ」


 「斬るわよ」


 おお。こわっ。これもだめなのか。

 普通に感謝したんだけど。アンジーの為にも不老薬は早めに確保してあげないとね。

 まずは竜の目撃情報を探しますか。

 

 

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