第129話 スラムの収入


 「やはり混乱してるようです」


 「そうだろうなぁ」


 商会にアンジーが首を送り届けた。

 警備がザルすぎて余裕だったらしい。

 アンジーからしたら大体の場所は余裕だと思うが。


 商会長はいらないから殺しても良かったんだけどね。簡単に殺したら面白くない。

 俺達に手を出したのを後悔して、絶望してから死んでもらわないと。


 「従業員は逃げる事を考えてるようですね」


 「ちゃんと見張っておいてね。優秀そうな人間は確保しないと」


 商会長はいらないけど、そいつを支えてた人間は欲しい。最後まで商会長に従うのか、それとも逃げるのか。

 どうなるか分からないけど、優秀な人間は逃しません。俺達に手を出したんだから、暴力も厭わず説得させてもらおう。




 「ただいまー!!」


 「お帰り。お疲れさん」


 「うっきゃきゃきゃ!」


 ローザが帰ってきた。俺に飛び込んで来たので、受け止めてわしゃわしゃと撫でてやる。報告ではちゃんと大人しくしてたらしい。戦闘もしっかり手加減が出来てたみたいだし、少しは成長したんじゃなかろうか。


 マーヴィンとチャールズを好きにさせてあげる権利はもう少し先になる。

 今向こうは事後処理で忙しいからね。


 「指揮出来る人間も育てていかないと、上の人間の仕事量がどんどん増えていくな」


 「職業指揮官の育成ですね。向き不向きもありますし、経験が必要ですから。時間が掛かるでしょうね。仕方ありませんが」


 やれやれだぜ。何をするにも時間が掛かる。

 俺がせっかちなだけかな。こういう時はドンと構えて待つべきなんだろう。


 早く結果を求めちゃうのは俺の悪い癖ですね。


 「師匠はー?」


 「多分温泉だろ。あいつは暇さえあれば、温泉に入り浸ってるからな。お肌のハリが云々言ってたし」


 アンジーの最近の主な業務は俺の護衛しかないからな。深層で狩りもしてるし、訓練もしてるけど、それが終わればほぼ温泉だ。

 まだ少ししか生産が出来てないお酒を持ち込んで楽しんでるらしい。


 「ローザも行ってこよーっと!!」


 で、ローザも師匠に似たのか、温泉が大好きだ。というより、意外にも綺麗好き。

 わふわふと吠えながら、温泉に突撃して行った。もはや狼じゃなくて犬なんだよな。


 「えーっと、スラムの縄張りの収入を考えるのと、もう少しデッカー領の見て回るのと…」


 「後はいくつかの商会がボスに顔繋ぎしたいと」


 「ああ、それもあったか」


 俺も温泉でゆっくりしたいところだけど、俺は俺でやる事があるんだ。


 特にスラムの収入ね。カジノを作るのは見送ったけど、あっちでもそれなりに収入になる事をしないと。赤字運営はいやです。

 まぁ、あそこは税金を払ってないから、あんまり難しい事考える必要はないけど。

 でも綺麗にしたら税金を払うべきかなー。向こうからのアクションがあったら考えよう。


 伯爵さんもあそこはわざと放置してるっぽいしね。そのうち孤児とか、食い扶持を稼げない奴らが流れてくるだろう。

 ありがたく吸収させてもらいます。


 「宿屋と酒場ぐらいしか思い浮かばん」


 「カジノではなく、小規模の賭場を作るのは良いんじゃないでしょうか? サイコロを転がす賭けは既に知られていますし」


 あ、そうか。それはありだな。

 トランプ系はすぐに真似されるから一気に広めたいと思って見送ったけど、チンチロみたいなのはありだな。それも候補に入れておこう。


 「で、街を見て回るのは暇な時にやるとして、商会が会いたいって言ってるんだっけ?」


 「はい。いくつかの小規模な商会がボスに会いたいそうです。流石にまだホルトに応対させる訳にはいきませんから」


 まだ子供だもんね。それは仕方ない。

 でも小規模な商会か。いつかは来ると思ってたけど、思ったより早かったな。


 「俺達のせいで売り上げが落ちてるからウカウカしてられないんだろうな」


 「ですね。『ルルイエ商会』は基本的になんでも売りますから。中規模以上の商会はまだ昔からの付き合いでなんとかなるかもしれませんが、小規模の商会はこれからどんどん淘汰されていくでしょう」


 だなぁ。そればっかりはどうしようもないよ。ちゃんとした所なら吸収してあげるよ。

 あこぎな商売をしてるところは知らない。大人しく潰れて下さい。


 「明後日以降なら会えるって言っておいて」


 「かしこまりました」


 話を聞いてまともそうなら吸収、クズなら放置。そんな感じでいこう。

 中規模以上の商会からのアクションはあるかな? デッカー領にはそんなにないし、一つはスラムのゴタゴタで潰れそうになってるけど。


 「こういうのって大きい所の方が動きが早いイメージだったんだけどな」


 初動が大事って言うもんね。

 情報をしっかり集めてるなら、俺達の商会が自分達を脅かすって分かるもんだと思うんだけど。


 「こちらから挨拶に来るとでも思ってるんじゃないですか?」


 「なるほど」


 傲慢でらっしゃると。いや、それがこの異世界での常識なのかな?新参者はその街で幅を利かせている商会に挨拶に行くみたいな。

 『ぐへへへ。我らを無視してこの街で商売出来ると思うなよ』ってスタンスなのかもしれない。


 まぁ、力のない商会ならそうなるんだろうけど。俺達は最悪暴力で解決する事が出来るし、伯爵さんとも知り合いだ。

 あの転送箱の為なら俺達を守ってくれるだろう。


 「伯爵が転送箱を独占しようと、私達を潰す為に他の商会をけしかける可能性はありますけどね」


 「やだ、怖い」


 そうなりゃ、暴力拷問契約の三点セットの出番よ。最終的にこれが出来る力があるってのが、俺達には大きいよね。

 

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