第128話 後処理


 ウルファにとりあえず勉強からねと、送り出してから二日。

 秘密基地に大量の人間が送られてきた。


 「うわぁ。すげぇ人。鑑定と契約が面倒だなぁ」


 秘密基地に居た人間が整理してくれてるけど。しかもほとんどボロボロだし。

 回復もしないとじゃん。


 「ボス。準備出来ました」


 「じゃあやるかー。俺の数少ない仕事だしね」


 面倒だけどもやらねばなるまい。戦闘部が手加減して頑張って確保してくれたんだ。

 一応マリクも呼んでおくか。素直に契約を承諾しない奴は、マリクの公開拷問を見せると、大抵は喜んで契約してくれる。


 今回はほとんど手負いばっかりだから、幾分か楽だろうけど。




 「こんだけ居るのに恩恵持ちは無しか」


 「街に一人居れば良い方なんじゃないですか?」


 「ぎゃーっ!! もう許してくれー!!」


 一人を除いて鑑定契約回復が終了した。

 カタリーナが契約と回復は代行出来るから俺の負担が少し減って助かるね。精霊魔法マジチートで草。


 で、一人を除いてってのは公開拷問でも屈せず、最後まで契約を承諾しなかった奴だ。

 何やら今回の連合の実質的なまとめ役をしてた奴らしい。そんなに強くないけど。


 丁度良いからこいつは殺して首だけ、商会に送り付けてやる事にした。

 だから、マリクには好きなだけ遊んでも良いよと許可を出した。


 「うふふふ。良い声で鳴く玩具ですね。もっともっと聞かせなさい」


 「な、なんでもする! なんでもするから! もうやめてくれ! ぎゃっー!」


 なんでもするってさ。それならマリクの気が済むまで付き合ってあげて下さい。

 体中の皮を剥いでは針でツンツンして、死にそうになったらポーションで回復して。


 エリザベスや生産部が作った薬品の効果チェックまでやってらっしゃる。マリクも喜んでレポートを書いてるぞ。『この薬は次の拷問でも使えます!』って鼻息が荒い。


 なむなむ。ロクに情報も調べず俺達に喧嘩を売った罰だとでも思ってくれたまえ。

 素直に大人しくしとけば、穏便に吸収してやったのにさ。やっぱり情報は大切だよ。


 いつか帝国に喧嘩を売る為にも、帝国の情報を集めたいなぁ。ペテス領だけでも支店を出すべきか。元々ペテスに居なかった人間を使えば、バレないだろう。


 転送箱も向こうで流通させておきたいし。デッカー領で確保した人員の教育を急がないとな。ちょっと、今回人手を確保し過ぎてキャパオーバーになってるから、いつになるかは分からないけど。


 「あ、縄張り維持の為の人員も追加で送らないとな」


 「かなりギリギリになりますね」


 そうだねぇ。こっちの深層を見回る人員も居るし、戦闘部は大忙しだな。

 情報部もとうとう、伯爵さんが転送箱をまともに使い出したから、ここから一気に広がっていくだろうし。


 やっぱり人手不足。今回500人近い人間を確保したから、こいつらがモノになればそれだけ余裕が出来るんだけど、一体いつになることやら。



 ☆★☆★☆★


 「ぎゃぁぁぁぁああー!」


 「ど、どうなさいましたか!?」


 抗争が終わった次の日の朝。

 裏で糸を引いていた商会長の枕元に一人の男の首が届けられていた。


 商会長は直接会った事がないので、顔を知らなかったが、この男と繋ぎを取っていた一人が知っていた。


 「こ、こいつは裏組織の連合を取りまとめていた男です!!」


 「なんだと!?」


 商会長は昨日から抗争が始まったと報告を受けていた。残念ながら戦いの様子は確認出来なかったそうだが、近いうちに勝利の知らせが来るだろうと有頂天だったのだ。


 「も、もう決着がついたのか!?」


 「か、会長」


 首を処理しようとしていた男が、青白い顔で声を掛けてくる。


 「あ、頭の中に手紙が…」


 首を持っていた男はそう言うと、首を床に落として気絶した。近くにいた別の男が慌てて頭付近を見てみると。


 「おげぇぇぇぇ」


 確認した男はその場で嘔吐した。

 頭の脳みそがくり抜かれてそこに、手紙が仕込まれていた。血塗れの頭の中なのに、何故かその手紙は綺麗で。


 なんとか取り出した手紙を商会長は恐る恐る読む。


 「『次はお前だ。覚悟しておけ。クトゥルフ』。ひぇっ…」


 簡潔に書かれた手紙。むしろ長々と書かれてるより恐ろしい。クトゥルフとは組織の名前だろうか。聞いた事がない。


 「ど、ど、ど、どうするのだ!!」


 商会長は恥も外聞も捨てて慌てふためく。

 失禁もしているが、そんな事を気にしてる場合ではない。


 「な、な、なんとかしろ!!」


 側近達は止めたのだ。それでも強行したのは商会長である。それなのになんとかしろと言われても困る。


 策を考えてきますと一旦部屋を出た側近達はこれからの身の振り方を考える。

 このままこの商会に所属していたら巻き添えを食らってしまうのではないかと。


 今からクトゥルフとやらに詫びを入れに行って許されるのか。

 自分達は止めたのだと言って信じてもらえるのか。


 「どうする?」


 「会長と心中するか、死を覚悟で詫びを入れるか、逃げるか。どれも苦難の道だぞ」


 やはりなんとしてでも止めるべきだった。

 後悔してももう遅い。優秀な側近達の苦悩は続く。

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