第125話 給料


 アンジーにぶっ飛ばされたチンピラ三人を無理矢理契約して転移で秘密基地に送った。

 カタリーナがなんとかしてくれるだろう。使い物にならなかったら、マリクのおもちゃにして良いと伝えてあるし。


 が、それをウルファの前で見せたのが良くなかった。契約する時に無理矢理叩き起こして、了承させて黒いモヤみたいなのが体に溶け込んでいくのを見ちゃったからね。


 かなり怯えられてしまった。次からはこういうのも気を付けないといけないな。

 普段からやってる事がパンピーに受け入れられるとは限らないってこった。



 場所を変えてとある食堂。ほんとは商会に連れてって話をしようと思ってたけど、丁度昼時でお腹が空いていたので。


 何かの肉やらが入ったスープと硬いパンを頂く。秘密基地で食べた方が美味しいなぁ。

 酵母の生産に成功してからは、フワフワのパンも食べれるようになったし、肉も深層産だ。全然味が違う。俺の現代料理知識も教えてあるし。


 そんな事はさておき。

 ご飯を食べて一息ついたらお話開始だ。

 結構客はいるけど、それが騒がしいお陰で俺達の話を聞かれる事はないだろう。

 そこまで機密の話をする訳じゃないし。


 「えーっと、まず名前から聞こうかな。俺はレイモンド。『ルルイエ商会』の会長を一応やってる。こっちは綺麗で麗しいお姉さんはアンジェリカ。俺の護衛」


 「よろしくねぇ」


 アンジーは結局同じ席に座っている。俺の契約の所業を見たからか、近くにいても同じだと思ったらしい。


 「『ルルイエ商会』って、最近出来た大人気の!? あ、ご、ごめんなさい。僕はウルファって言います」


 まぁ、名前も知ってるんだけど。

 こういうのは自己紹介から始めるって前世で習いました。友好関係を築く第一歩です。


 「そ、それでお話というのは…」


 「君をスカウトしようと思って」


 相変わらずオドオドとビビりながら探る様に聞いてくるウルファ。こんなんで良く冒険者やってたな。絶対向いてないだろ。

 あのチンピラ達にもその辺に目を付けて御しやすいからパーティに誘ったんだろうな。

 その割にはちゃんと言い返してたけど。


 「スカウト? ど、どういうことでしょうか?」


 「俺のところで働いてくれないかなって思ってね。ウルファをスカウトするのは深い深ーい理由があるんだけど、それはおいおい。まずは働いてみたいかどうかを聞こうかなと」


 これでOKしてくれたら話は早いんだけど。ウルファには将来的に秘密基地の総料理長でもやってもらいたい。付与料理が俺が思ってる能力バフ系の恩恵なら、かなり有用だと思うんだよね。疲労回復とかそんなんでもかなり使える。


 深層ではそういう自強化系も必要なんだ。

 456組はいつか更に奥に進みたいと思ってるしね。些細な効果かもしれないけどね。


 「え、えっと、その…」


 「あ、冒険者に憧れてるとかそういうのがあったり?」


 若者あるある。俺が裏社会のボスに憧れてるように、冒険者に憧れる層も一定数いる。

 誰にも縛られずに自由にやれるってのが良いんだろうな。実力がついてきたらしがらみは増えるだろうが。


 「いえ、そ、その給金はい、いくらでしょうか…?」


 「なるほど。一番重要と言っても過言じゃないね」


 給料は大切だよね。我が『クトゥルフ』や『ルルイエ』の下っ端は月に金貨二枚スタートだ。これは家族で一月暮らすなら充分の額。金貨一枚十万円だと思ってくれたら良い。


 月二十万。下っ端でも充分な額だろう。実力や役職に応じて更に給料は上がるし、秘密基地に住んでるなら食と住は無料だ。

 秘密基地の外に出てる連中は別途手当てが付きます。


 なんてホワイト商会。こんな好条件の商会は他に存在しないね。自信を持って言える。

 それに下っ端ってのは勉強中の奴らの事を言うわけで。無事に勉強が終わったらその時点で給料がアップだ。


 勉強中の奴に給料払うかどうかは、悩んだんだけどね。勉強してない時は雑用とかしてもらってるし。頑張れば給料が上がるって事を分かりやすい形で知ってもらいたかったから。まぁ、研修期間が終わったって感じで。


 「金貨二枚!? 本当ですか!? ぼ、僕騙されてませんか!?」


 「それを俺に聞くのもどうかと思うけど」


 騙してるかもしれない張本人に聞いても騙してるなんて言わないよ。

 強いて言うなら働く場所が『ルルイエ商会』じゃないかもって事だな。


 いつかは料理店も作りたいと思ってるけど、それはまだ先の話。まずは商会を広げていってからと思ってます。


 「し、仕事内容は…?」


 「主に料理になるかな」


 「料理?」


 ハッとした表情で仕事内容を聞いてくるウルファ。良すぎる条件にろくでもない仕事をさせられるのではと思ったんだろう。

 料理と聞いて首を傾げてるけど。そりゃそうだよね。冒険者を誘っておいて、仕事内容が料理だもん。訳が分からないだろう。


 「あ、あの料理なんて野営の時ぐらいしかした事ないんですけど…」


 「俺のところで働いてくれるなら、後で詳しく説明するけど、ウルファには料理の才能があるんだよね」


 俺には才能を見抜く目があるんだと堂々と言ってやる。実際そうだし。詳しく説明するなら契約が必要だ。俺の鑑定は部外者には知られたくない。


 はてさて。ウルファはどうするかな。出来ればOKして欲しいんだけど。穏便な交渉って難しいな。暴力の方が全然楽だわ。

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