第122話 恩恵持ち


 ☆★☆★☆★


 「例の組織以外の取り込みは順調です」


 「よし。向こうの様子はどうだ?」


 「怖いぐらい何もありません。自分達の縄張りの見回りはしているみたいですが、それだけです」


 デッカー領でそれなりに大きな商会の商会長は、例の組織とコンタクトを取ったが、取り合ってもらえなかった。使者に出した人間がかなり怒っていたので、そう思ってるが実際は使者の態度が不味かった。

 まともな使者をよこしていたら、話を聞くぐらいはしたのだが。


 そんな事はつゆ知らず、手を組むのは無理だと判断した商会長はその組織を潰すべく、他の裏組織を取り込みにかかった。


 武具やポーションを流しつつ今回の騒動が無事に成功で終われたら、今後とも友好的な付き合いをするという餌を流しつつ。


 「これは逆に良い機会だったのかもしれんな。この組織の連合をまとめ上げる事が出来たら、前の組織より大きくなる。上手く使えば、この領地だけでなく他領にも進出出来るぞ」


 商会長はこれからの展開を予想してほくそ笑む。懇意にしていた商会が潰された時はどうなるかと思ったが、ここまではかなり順調に事が進んでいる。


 悪事の契約書を領主に見せられたりしたら危なかったが、向こうも闇組織という事もあって公に出来なかったのであろう。

 そう思って既に勝った気でいた。


 「私は今でも反対です。あの組織はどうも不気味なんですよ」


 「もう始めてしまったのだ。後には引けん」


 側近の何人かは今回の事について考え直すように何度も言っていた。大人しいのは以前の抗争の傷を癒してるのではなく、何か他の理由があると思ったのだ。


 しかし、商会長は強硬策をとった。以前懇意にしていた組織はこのデッカー領で最大だった。そんな組織と戦っておいて無傷な訳がないのだ。少なくとも傷を負ってるならせめるべき。


 数ではこちらが圧倒的に上である。

 情報では、以前の組織は皆殺しにされたのか、一人も元人員の姿がないらしい。

 多少強者が居ようと、数で押し潰す。そしてデッカー領で覇権を握り、ゆくゆくはフレリア王国で一番の商会になる。


 商会長は輝かしい未来を想像して、お酒を飲みながらほくそ笑んだ。



 ☆★☆★☆★


 「マーヴィンとチャールズは大丈夫だろうか」


 「そこまで心配ならローザを送らなければ良かったじゃないですか」


 ローザを送り出したのはいいものの、迷惑をかけてないか心配になってきた。

 まぁ、大人しくさせる為に二人を自由にして良い権利をあげて生け贄にしたから、俺が心配するのもお門違いなんだけど。


 お酒をたくさん用意して待ってるから頑張って欲しい。温泉で男三人仲良く飲み交わそうじゃないか。


 「ローザは対人戦の経験がほとんどないから。模擬戦だけじゃやっぱりね」


 デッカー領に来る前にちょろっと国境の兵士と遊ばせただけだからね。

 これから戦闘部を冒険者として『ルルイエ商会』お抱えの冒険者になりつつ、情報を集める部門と、深層の素材を集める部門、裏社会部門、傭兵部門って分けたいんだよね。


 ローザの適性は今のところ、素材を集める部門しかない。他に何が出来るのか見分けないと。因みに冒険者部門は却下ね。情報を集めれるとは思わない。


 出来れば傭兵部門を担って欲しいと思ってるんだけどなぁ。やっぱり一番戦力が必要そうだし。優秀な副官を二人ぐらいつけたら、なんとかならんもんか。


 マーヴィンは裏社会部門が向いてると思うし、やっぱり一人はチャールズかなぁ。出来ればもう一人はレベル456の猛者が良い。

 今回の抗争で掘り出し物の人材とか手に入ったら嬉しいんだけど。


 「帝国ってか、ペテス領を出てからまだアリーナしか恩恵持ちと出会ってないよね。ここまで偏りがあるもんなのか」


 「恩恵持ちとはどれくらいの確率で出てくるんでしょうね」


 それな。鑑定が多分ない世界だからそういうのも分からないんだろうなぁ。

 ペテス領では結構居たから、街に一人二人は絶対に居るもんだと思ってたぜ。

 あそこは当たり街だったのかね。


 カタリーナ、ローザ、エリザベス、ホルト、アンジー。ゴドウィンは帝都から来たからノーカウントとはいえ、五人も居たんだぜ。

 俺を合わせると六人だ。


 因みにゴドウィンの死体はまだ死んですぐのままアイテムボックスにしまってある。

 エリザベスが蘇生薬とか発明してくれないかなと。文献ではそういう薬が昔はあったみたいなんだよね。


 一回死んだら恩恵は無くなってるかもしれないし、レベルがリセットされたりしてるかもだけど、もし死んですぐのままなら貴重な戦力になる。


 蘇生させる前にゴドウィンより強くなっておけば、そのうち契約出来るんじゃないかと目論んでます。これぞ外道。死は救いではないのです。有能な人間には死んでも働いてもらいますよ。


 「ボスは秘密基地で暇を潰すのではなく、街をもう少し歩いて鑑定して回ってみてはどうですか? もしかしたら普通に恩恵持ちが居るかもしれませんよ?」


 「確かにな」


 ロクに街を見て回ってないのに、居ない居ないと愚痴を吐くのは早計か。

 俺しか鑑定出来ないのが痛い。鑑定メガネとか発明出来ないかとエリザベスと頑張ってるけど、中々取っ掛かりが掴めない。


 何か良いアイディアが浮かぶまでは地道に街歩きをして良い人材を探しますかね。

 

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