A-4話 可能性
アーサーとサラはペテス領から動けないでいた。理由は簡単でお金がないからだ。
村を出る時に少ないながらも、お金を貰ったが、日々の食事や宿代、日用品等で使い切ってしまった。
勿論二人は何もペテス領で何もしてなかった訳じゃない。冒険者として活動もしていた。しかし、ペテス領はとにかく魔物が多くて強い。少しずつ、本当に少しずつ強くなっていってるが、お金が貯まらなくて街から脱出出来ないのだ。
「だから私は帝都方面に行こうって言ったんだよ。アーサーがどうしてこの街に来たがったのか、今でも分からない」
「そ、それは本場の冒険者や強い冒険者ってのを見てみたくて…」
「そんなの帝都にも居るじゃない。噂ではS級冒険者も帝都に居るらしいし。ここには最高でA級よ?」
「ご、ごめんね」
アーサーはすっかりサラに頭が上がらなくなっていた。村を出てからサラはかなりアーサーに対して冷たくなっている。
同じ村出身という事でパーティは組んでいるが、このままでは解散もありえるかもしれない。
アーサーからするとそれは困るのだ。サラの戦闘力は将来的にかなり高くなるのは間違いない。アーサーは職業や、恩恵の都合上特定下でしかチートを発揮出来ない。
今サラに抜けられると、日々の生活すら怪しくなってしまうのだ。それにハーレムメンバーをこれ以上逃したくない。
ただでさえ誰かがシナリオを破壊して、主人公たる自分の思い通りに事を進められていないのだ。
そのせいでアーサーはサラのご機嫌取りに必死だった。しかし、サラはアーサーの下心を見透かしてるかのように、すげなくあしらう。宿も別々にするか検討しているほどだ。
「とにかく。早くお金を貯めてペテスから出ましょう。ここじゃあ、お金も貯まらないし、成長も出来ないわ。もっとじっくり自力を上げるべきよ」
「そ、そうだね」
一応ペテス領の森の浅い所なら、なんとか戦えている。しかし、とにかく数が多い。
今はなんとかなっているが、何かの拍子で大量の魔物に囲まれたりしたら死に繋がる。
そんな事を思いながら、今日も二人は細々と依頼をこなしていくのであった。
「これは?」
「隣国の商人から買ったんだ。なんでも向こうでは結構流行ってるらしいぞ」
アーサーとサラはいつもの様に依頼をこなして、冒険者ギルドに戻ると、併設されている酒場で冒険者が集まって何かをしていた。
二人は気になってそれを見てみると、アーサーには馴染み深いボードゲームだった。
「これってオセ◯?」
「リバーシって名前らしいぞ」
近くの冒険者に聞いてみると、やっぱり前世の記憶そのままのもので。ルールも同じだった。そしてアーサーは確信した。
(やっぱり俺と同じ転生者がいるな…。それにしても隣国? 帝国で騒動を起こして、隣国に行ったのか? 確かフレリア王国だっけ)
アーサーはなんとかゲーム知識を記憶の中から探り出す。ライト勢だった事もあり、完全に覚えてる訳ではないのだが。
(これはアリーナも取られてる可能性があるな…。あの街道を通ったなら、盗賊に襲われるイベントが発生するはず。ゴドウィンをなんとかした程の奴だ。盗賊なんて軽く仕留めてるだろう)
ハーレムメンバーの事はしっかり覚えていた。そしてもう先に取られてるだろうと思い歯噛みする。
(くそっ。戦闘力が違いすぎる。きっと俺と違って赤子の頃から記憶があって、努力して準備してたに違いない。不公平だ!!)
「アーサー? こんなの買ってる余裕はないよ?」
「あ、うん」
アーサーがずっと見ていたので、サラはこのボードゲームが欲しいと勘違いしたのか、無駄遣いは出来ないと言い含める。
「このリバーシを売ってた商会ってなんて言うのかな?」
「俺は行商人から買っただけだから分からねぇな」
このリバーシを販売してる商会が転生者と関係あるのは間違いない。アイディアを出しただけなのか、実際に商会を経営してるのか。なんとかその情報が知りたいところだったが。
(隣国に行かないと分からないか。でも次の目的地をフレリア王国にするって言ってサラは了承してくれるだろうか。…いや、待てよ?)
アーサーは転生者の情報が知りたい為に、隣国に行きたかったが、ふと思い留まる。
(これはチャンスじゃないか? 帝国にはまだハーレムメンバーが居る。それを確保してないとするなら、他国にいる今がチャンスじゃないか。なんとか俺が先取りしないと)
アーサーは天才的な頭脳をフル回転させて考える。もしかしたら自分以外の転生者が、帝国のハーレムメンバーを全て確保してから、隣国に向かったのかもしれないが、今から隣国に行っても間に合わない。
それなら僅かな可能性に賭けて、帝国でハーレムメンバーを探し回る方が良いのではないかと。
(それにフレリア王国はアリーナ以外はBLキャラばかりだ。サラの機嫌を損ねてまで行く必要はない)
冒険者ギルドから出て、宿までの帰り道で黙々と考えるアーサー。
これまでは他の転生者に先を越されっぱなしで、後手に回って来たが、ようやハーレムキャラを先取り出来る可能性が巡ってきた。
アーサーはいつもの様に鼻をぷくぷくさせながら、これからの展開を模索し続けた。
そしてその様子をサラは冷ややかな目で見ていたのだが、それに気付く事はなかった。
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