第121話 チャールズとマーヴィンの苦悩


 ☆★☆★☆★


 「それでボスはなんて言ってたんだ?」


 「放置で良いらしいっす。向こうが手を出してきたら応戦する感じで。一応抗争に備えて戦闘部の人間を送ってくれるらしいっす」


 ボスに報告に行っていたアハムが戻ってきた。何やらスラムが騒がしくなってきたので、どうするか指示を仰ぎに行ったんだが、放置で良いとはな。

 てっきりレーヴァンを嵌めた時みたいに、悪辣な手を使うのかと思ったが。


 「あの時はクトゥルフとレーヴァンで戦力差があったっすから。アンジさんがどうしても厄介でしたっすからね。策を使わざるを得なかったんすよ。俺も途中から参加で全部知ってる訳じゃないっすけど」


 確かに。今でもクトゥルフ内では姉御の戦闘力は頭一つ抜けている。ボスやカタリーナの姉御もかなり強いが、あの時なら姉御一人でなんとかなっただろう。


 「追加で送られてくる人員は?」


 「それが…」


 「やっほー! マブ兄久しぶり!!」


 「ローザが来るのか」


 思わずため息を吐きそうになったのをグッと堪える。ああ。後ろから哀愁が漂うチャールズも来てる。世話はあいつに押し付けよう。


 「久しぶりだな、ローザ」


 「えへへ。私また強くなったよ!! 早速手合わせしよう!!」


 ローザの事は嫌いじゃない。マグレで一本取ってからは兄と呼んでもらえて嬉しいし、俺も妹のように接してる。


 でもローザと関わると、まぁ疲れる。

 今言った事からも分かるが、ローザはとにかく体を動かす事が好きで、同じ所にジッとしてられる性格じゃない。


 温泉に入ってる時か、ご飯を食べてる時以外は常に動き回っている。

 訓練所でボロ雑巾にされるのは当たり前。深層に付き合わされた時には、その日は何もやる気が起きなくなる。


 ローザや姉御みたいにレベルが456まである奴ならまだしも、俺達凡人はもう200まであげ切って限界なのだ。

 当たり前の様に深層で狩りをしてるが、レベル200組は毎回死と隣り合わせ。

 気軽に行ける場所じゃないのである。


 「悪いがこの場所は手合わせする場所がないんだ」


 「ええー!? そうなの!?」


 ペテス領は屋敷に庭があったり、ボスが縄張りを整備して訓練所を作ってたみたいだが、ここにそんな上等なモノはない。


 「せっかくマブ兄をギタギタにしようと思ったのにー」


 怖い。ギタギタってなんだ。少なくとも味方に向ける言葉ではないと思う。

 これが比喩じゃないって分かるのも恐ろしい。ローザは純粋ゆえに。

 俺達なら死ななきゃ何しても良いと思ってるんじゃなかろうか。


 ボスに少し言っておかないとな。

 いつか加減を誤って殺されそうだ。


 「ローザちゃんは敵が来るまで大人しくしておいて欲しいっす。ここは秘密基地じゃないんで、気軽にフラフラと遊びに行かないくださいっす」


 「えー。暇だよー」


 ローザが外をふらつくと、何かしらのトラブルに持って帰って来そうだから、アハムの意見には全面的に賛成だ。

 しかし、果たして大人しくしていられるか…。


 「約束を守ってくれたら、チャールズとマーヴィンと好きなだけ手合わせしても良いとボスから許可をもらってるっす」 


 「ほんと!?」


 「「え?」」


 アハムのあんまりな言葉に思わずチャールズと声が被る。あいつも知らなかったのか。

 思わず、ローザを外に出した時の後始末と手合わせ。どっちが面倒になるか考えてしまった。


 「えへへ。エリーちゃんにいっぱいポーションを用意しておいてもらわないと」


 ローザ恐ろしい事を呟きながら椅子に座っちまった。

 私、大人しくしてますって事だろう。

 恨みやすぜ、ボス。


 「勿論、チャールズとマーヴィンにも言伝をもらってるっすよ」


 アハムが懐から手紙を出す。

 俺とチャールズはひったくるようにして手紙を読む。


 『ローザのお世話はお前達に任せた。褒美は例のお酒だ。まだ大量生産は出来ないけど、それなりの量は用意してある。スラム制圧までお願いします』


 むむぅ。例の酒か。一度だけ飲んで感動した。今まで飲んでた酒が泥水に感じるぐらい美味しかった。

 あの時は試作品だったけど、今回はちゃんとそれなりの量は用意してくれてあるらしい。


 「仕方ない…か」


 「頑張りやしょう」


 俺とチャールズはガッチリと握手した。

 なんとかしてローザを大人しくさせておこうと。二人で協力して頑張るのだ。


 「ねー! 見回りとかはしなくて良いの?」


 「他の奴らがしてるから心配しなくて大丈夫だ」


 「お手伝いとかはー?」


 「大丈夫だ」


 ローザは座ったはいいものの、早速暇になってしまったみたいだ。色々口実を作って外に出ようとしている。仕事なら外に出ても仕方ないからな。


 「ローザは戦いになった時に出張ってくれればいい。あ、なるべく殺さないようにな」


 「分かった!! 最近手加減も上手になってきたんだよ!!」


 その上手になるためにどれだけチャールズが犠牲になったのか。でも、チャールズはローザと付き合ってるお陰で、技術がメキメキ上がってるんだよな。ボスが常々レベル200で限界なのがもったいないと言っている。


 「とりあえずリバーシでもして時間を潰すか」


 「これもブリーと特訓してるよ!! そう簡単には負けないからね!!」


 リバーシで時間を稼ごう。これで何日持たせられるか。もうさっさと攻めてきてくんねぇかな。

 

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