第120話 呼び方


 「おかしいと思うんだ」


 「? 何がですか?」


 秘密基地の執務室にて。

 俺は決裁マシーンになりながら、むすっとした顔で文句を言う。


 「チャールズとマーヴィンはローザからお兄って呼ばれてるのに、なんで俺はレイモンドって呼び捨てなんだろう」


 「はぁ」


 カタリーナのだから何ですかって表情が辛い。呼び方なんてどうでもいいでしょうってのが、表情だけで良く分かる。


 でもね。思春期の男の子って女の子からの呼び方は非常に気にするもんなんですよ?

 前世は大人だったけど、今のレイモンド君は15歳。思春期厨二病真っ最中だし、ちょっと気になっちゃう。


 俺の前世の青春時代が思い出されるぜ。仲良いグループで俺だけ苗字で呼ばれる疎外感。

 なんか心にグサッとくるもんがある。


 「ローザに言えばいいじゃないですか」


 「こっちから言うのはなんか違うだろ」


 分かってない。分かってないな、カタリーナさんよ。こういうのは自然と向こうから呼び方が変わるのが嬉しいんじゃないか。


 100年以上生きてるくせに男の子の心が理解出来てませんな。だから貧乳なんだ。


 「胸は種族のせいです」


 「心を読まない」


 胸に関する事だけは鋭いんだから。よっぽど気にしてるのかね。俺は大きくても小さくても気にしないよ? おっぱいに貴賤はないからね。俺は美乳派だし。


 「ボスは女性に男性器が小さくても気にしないって言われて嬉しいですか?」


 「やめなさい。惨めな気持ちになる」


 ぐうの音も出ない。嬉しい訳ないじゃん。幸いレイモンド君は立派なモノを持ってるが、もしなくてそんな事言われたら泣きたくなる。


 「ボスが言ってるのはそういう事ですよ。分かったら気軽に揶揄ったりしない事です」


 「心に誓います」


 一つ勉強になったね。感謝します。これで俺のモテ男への道がまた一歩進められた事になる。既に充分愛されてるなって思うし、これ以上は大丈夫なんだが。


 気が付いたらハーレムを形成してる。僕なんかやっちゃいました系主人公になっちゃってるな。まぁ、甘い雰囲気な感じでは無さそうなんだけど。ビジネスライクと言いますか。セフレとも違うんだけどね。良くわかりません。


 「そういえばローザだけ俺の事をボスって言わないよな」


 「まだその話は続くんですか?」


 いや、まぁ。俺もお兄って呼ばれたいし。

 模擬戦で勝ったら認めてもらえるみたいで、俺は何回も勝利してるんだけど。

 何故かレイモンドなんだよね。


 さっきも、デッカー領のスラムに行っておいでと送り出したんだけど、一緒にいたチャールズがお兄って呼ばれてて羨ましかった。

 お目付け役に任命されたチャールズは心底嫌そうな顔してたけどね。


 「アンジーですらボスなのにね。最初が肝心って事なのかな」


 「今更ローザにボスと呼ばれたいですか?」


 いや、レイモンドで大丈夫です。

 違和感しかない。ボスって呼び方もペテス領にいた時の情報統制をする為だしな。

 ローザがレイモンドって呼びまくってるから意味なかったけど。


 その流れで新しく入った奴もみんな俺の事をボスって言う。もしかしたら俺の名前を知らない奴もいるかも。


 「チャールズはチャル兄、マーヴィンはマブ兄。レイモンドならレイ兄かな?」


 「なんでも良いでしょう」


 だから良くないんだって。なんかあの二人だけお兄ちゃん面してるのは腹立つ。

 俺だってお兄ちゃんしたい。


 「大体カタリーナだってカタ姉じゃん。ズルいよ」


 「そう言われましても」


 分かってる。分かってるさ。俺が今かなりめんどくさい事を言ってるってのはな。

 でもやっぱりずっこいよ。しっかり姉の称号をゲットしちゃってさ。


 「ブリムリーだって愛称呼びだぜ?」


 「リバーシで勝ってるからじゃないでしょうか?」


 俺だって勝ってるんだが? お兄の称号じゃないとはいえ、愛称呼びも羨ましい。

 レイとかレッドとか。そういう風に呼んでもいいのにさ。


 「呼び捨てなのも特別なんじゃないでしょうか? ローザは今挙げた人物以外は歳上はさん付けですよ?」


 「え? そうなの?」


 それは知らなんだ。ローザの事だから、人類みな兄弟みたいな感じでフランクに接してるとばかりに。呼び捨てにも明確な区分があるのか。


 「それならまぁ良いか」


 「解決したようで何よりです。では手を動かしてもらえますか? ボスの決裁待ちの書類は多いので」


 「はい」


 ふむん。呼び捨ても悪くないと思ってきちゃったな。なんて単純なんでしょう。

 扱いやすく面倒なレイモンド君ですね、全く。

 

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