第119話 抗争の気配


 「馬鹿なの?」


 「馬鹿っすよ」


 どうも。相変わらず暇を持て余してるレイモンドです。俺専用の武器は大体方向性が定まったので、今は試作品を作ってもらっている最中。


 次は何しようかと考えていると、デッカー領のスラムを任せてるアハムとマーヴィンから報告があった。


 何やら偉そうな態度の使者がやって来たらしく、話を聞くとデッカー領での活動を支援してやるから、さるお方に仕えろとか云々。


 そのさるお方ってのが、このまえ潰した組織と懇意にしていた商会長らしい。

 さるお方でもなんでもない。ただの平民じゃん。当然拒否したら、断るのはお前達のためにならんとか、お前達を潰すのなんて簡単なんだぞとか、お決まりの捨て台詞を吐いて帰って行ったらしい。

 殺せば良かったのに。俺なら我慢出来てたか自信はないね。


 で、少ししたらスラムが活発に動き始めた。その商会が他の裏組織を支援して、連合を作ってるらしく、打倒『クトゥルフ』を煽っているらしい。


 「俺達が街一番の組織を潰して疲弊してると思ったらしいっすね」


 「1日で潰したのに疲弊も何もないだろ」


 「潰してからは大人しくしてたっすから。縄張りの見回りぐらいしかしてないっすし」


 ふーむ。勘違いさせちゃったか。潰してないのは教育の方に手が回らない可能性があるからなんだけど。一気に百人ぐらい契約したからね。指導員が足りてないんだ。


 だから、残りは落ち着くまで放置してたんだけど。それを俺達が弱ってると見たか。

 連合を組んだら勝てると思ったのかね。


 「街でも一部では噂になってるっぽいんだよねぇ。冒険者として活動してる奴からも報告があったし」


 情報統制が杜撰すぎる。

 これ、表沙汰になったら、芋蔓式にその商会の悪事もバレるんじゃないの?

 俺達が流してる噂と合わせて、かなり立場が悪くなっちゃうと思うけど。


 「うーん。面倒だなぁ」


 「どうするっすか? こっちから動くのもありだと思うっすけど」


 スラムの人間は出来るだけ有効活用したいんだよなぁ。あいつらは他に稼ぎ方を知らないだけで、ちゃんと仕事を用意しやれば、大抵は真面目に働いてくれるんだ。


 勿論馬鹿は間引くけどね。今の『クトゥルフ』をみてみろ。ほとんど元スラム出身なのに、きちんと教育すれば俺が暇になるぐらい優秀なんだ。だから、抗争になって人を減らしたくないんだけど。


 「流れに身を任せるか。放置してても向こうから喧嘩吹っかけてくるだろ。後はなるべく生け捕りにする感じで。戦闘部の人間を何人か追加で送るよ」


 「了解っす」


 チャールズとかその辺を送ろう。万が一にも負けは許されないからな。出来ればアンジーも送りたいところ。表で顔が割れてるのが気になるけど…。


 フードと仮面を付けてたらバレないか? イヴィレオンの皮を使った外套は優秀だしな。ローザも暇してるし送ろうかな。


 「過剰戦力っすよ。アンジさんかローザちゃんどっちかで大丈夫っす。てか、チャールズと他何人かで大丈夫っすよ?」


 「まだ見ぬ強者が隠れてるかもしれないだろ? お前達が情報を集めてくれてるけど、見逃しがある可能性があるからな」


 別にアハム達が集めてくれた情報を信頼してない訳じゃない。ただ、万が一バケモンみたいな奴が居て、人員を消耗するのが嫌なのだ。使える人間にするまでに、それなりの時間とコストを掛けてるんだしさ。


 「ローザをお目付け役無しで送り込むのは不安だしな…。チャールズとマーヴィンで面倒見てくれるなら、アンジーは送らないけど?」


 「うっ…。そうっすね。アンジさんかカタリーナの姉御が欲しくなるっす」


 カタリーナはダメだ。エルフは目立ちすぎる。フードを被ってても、耳がチラ見えしたら終わりだからな。なんか変装の魔道具とか作りたくなってきた。闇魔法でなんとかならないかしらん?


 「って事で、警戒だけはしておいて。いつ喧嘩になっても良い準備はしておいてくれ」


 「了解っす。商会の方はどうするっすか?」


 「そっちは抗争が終わったら潰す事にしよう」


 商会長は馬鹿っぽいから消すとして、それなりに大きい商会だし、優秀な人員を抱えてるのではと期待してます。あんな馬鹿な商会長なのに、栄えてるって事は周りの人間が優秀なんだろう。


 もう少しゆっくり進めたかったけど、結局一気に人員が増えそうだなぁ。教育部門も正式に作るべきか。マジで手が回らなくなる。


 恩恵持ちを探すのも頑張りたいし。

 暇してるから、街中でも歩いてひたすら鑑定しまくるか。鑑定の魔道具を作る事が出来たら、一番楽なんだけど。

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