第7話 エルフ


 「俺の下水道マスターの称号も近いな」


 今日も今日とて朝から下水道探索。

 毎日通ってるから、構造も結構理解してきた。

 一応、角に短剣で壁を削りA-1とか印はつけている。


 「スライムとネズミじゃレベルが上がらんな。倒しても倒しても減らないのはありがたいけど」


 能力値も相変わらず変化無し。

 まっ、毎日おんなじ事をして成長するかって言われたらしないよね。いや、レベルはそのうち上がるだろうし、能力値も上がるんだろうけど。

 もっとハードな経験も必要なんじゃなかろうかと最近思ってます。

 ゲームじゃ、序盤にひたすら狩りをしてレベル上げして後半楽をするみたいなのがよくあるけど。

 ここは現実ですし。お寿司。


 「あ、寿司食いてぇ。今のままじゃ夢のまた夢だろうけど」


 米があるのか酢があるのか。それすらも知らないし。てか、まず文字が読めん。

 言葉はレイモンド君の記憶のお陰で、なんとかなってるっぽいけど。

 文字は少ししか分からない。誰か教えてくれる人を探さないと。


 「ビーム」


 指先から光魔法で光線みたいなのを出す。

 最近はこれにハマっている。なんたって、魔法スピードが速い。ネズミを確実に仕留められる。魔力量は規模に比べたらそれなりだけど、ネズミ相手にはこれが一番だ。

 スライムには極小のダークボールで仕留めてるけど。魔力節約。大事だと思います。


 「ん? 血?」


 最近ようやく慣れたネズミの解体をしていると、少し離れた所に血痕があった。

 薄暗くて見にくいけど、どうやら這って動いたように痕が続いている。


 「長い事地下水道探索してるけど、こんな事は初めてだな」


 ネズミとかじゃなくて、明らかに人っぽい痕跡。

 ここは匂いが酷すぎるのか、スラムの奴らですら近寄らない。って事はですよ。


 「厄介事ですかねぇ」


 こういうのは関わらないが正解。現に、今でも子供達には関わらないようにしてるんだ。

 大人には偶に会うけど。お互い不干渉。こっちも今は関わりたくないから助かっている。


 でも俺は何故か自然に足を動かしていた。

 後から思えばこの選択は大正解だと思うが、現状は悪手でしかない。


 「好奇心か? やめろよな。そんなの今は求めてないんだってのに」


 ヒソヒソと独り言を呟きながらも歩みは止めない。そして終着点で待っていたのは、横たわっていて今にも死にそうな大人の女性だった。


 「厄介事確定だろうなぁ。スラムには似つかわしくないそれなりの格好。そして顔面美。こんなのが居たら絶対噂になってるし、攫われるか奴隷になってるぜ。それになによりも」


 ☆★☆★☆★


 『名 前』 カタリーナ

 『年 齢』 101

 『種 族』 エルフ

 『レベル』 48/456 


 『体 力』 D/B

 『魔 力』 C/EX

 『攻撃力』 E/C

 『防御力』 E/D

 『素早さ』 D/A

 『知 力』 D/S

 『器 用』 D/B


 『恩 恵』 精霊眼

 『職 業』 指揮官

 『属 性』 無


 ☆★☆★☆★


 「エルフか〜」


 なんか能力値が凄い。でもそれは置いておく。

 今は種族に注目させてもらいたい。


 「知識があんまりないレイモンド君でも知ってるよ。エルフは自国から出てくる事も珍しいとか、出るにしても100年経ってからじゃないといけない掟があるとか、他種族を見下してるとか」


 そして奴隷人気No.1。エルフが奴隷に出るとなると大体はオークションになって高値がつく。

 酔っ払った娼婦の母からそんな事を聞いた覚えがありますねぇ。


 「ってか、今まで見た中で一番強いんだけど、なんで死にそうなの? あーだめだめ。考えたらドツボにハマりそう」


 仕方ない。とりあえず回復だけはしておこう。

 そして目が覚める前に逃げる。これでいこう。

 見てしまったからにはせめて回復ぐらいはするけど、それ以上は関わったらダメだ。


 「くそぅ。今まで面倒事は避けてきたのに、なんで今日は自ら関わろうと思ってしまったんだ。レイモンド君のせいか? 反省してよね」


 ぶつぶつと愚痴を垂れながら、ヒールを連打する。前は一回使うと魔力がごっそり持っていかれてたけど、今では結構使える。やっぱり能力値がワンランク上がるだけで全然違うね。

 だからこそ、このエルフは警戒しないといけない。


 「すべての能力が俺より上。目が覚めた時に近くに居たら攻撃されるかもしれない。他種族を見下してるらしいし」


 ふむ。傷は大体回復出来たな? さっきまで荒かった息も今は落ち着いてるし。

 後はそのうち目を覚ますだろう。スライムとかネズミに襲われてもしらん。

 その時は運が無かったと諦めてくれ。


 「よし! 今日の魔物狩りは中止! 隠れ家に退散だ!」


 荷物を物色してやろうかと思ったけど、どこで足がつくか分からんから諦めた。

 売ればいい金になりそうだったけど、俺には売るツテもないし。

 そんな事を思いながら俺は地下水道からそそくさと立ち去った。




 「あのエルフ殺せばかなりレベル上がったんじゃなかろうか」


 いや、でも流石に悪人じゃないとな…。

 未だに普通の人っぽいのを殺す度胸が出ない。

 いや、一般人を殺す必要はこれっぽっちもないけどさ。


 「よし! こういう日は早めに寝るに限る。明日は少し早めに地下水道に行けばいいだろ。あのエルフもその頃にはいなくなってるはず」


 地下水道から帰ってきて魔法の練習や筋トレをしてたけど全然集中出来ないので、まだ日が少し暮れたくらいだけど寝る事にした。

 考えるのを放棄したとも言う。そして翌日。


 「んあー。意外と長時間寝れるもんだな。微妙に日が昇ってるじゃん」


 「おはようございます」


 「ん。おはよ…う!?」


 声を掛けられて最初は普通に返事したけどすぐさま飛び退いた。

 何故なら俺の隠れ家に昨日助けたエルフが居たからだ。

 え? 何故に? バレたの? 逃げる? いやいや無理でしょ。ど、どうしよう。


 頭の中でぐるぐると色々な事が駆け巡り、普通に詰んでそうな事を確認。どうしようもねぇ。


 「よし。おやすみ」


 これはきっと夢なんだ。頼むから起きたら事態が好転しててくれ。それが無理なら寝てる時に一思いに殺してくれ。痛いのはもう勘弁なんです。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る