第6話 しばらくして


 「やべぇ。スラムの匂いが心地良く感じる」

 

 スラムも結構きつい匂いしてるんだけどな。

 地下水道から脱出し、すぐに光魔法で浄化を使った。使えるか不安だったけど、問題なく俺の思った効果通りに使えたな。

 魔力はほとんど空になったけど。


 「とりあえず隠れ家に戻ろうか。ポケットがジャラジャラだ」


 俺が着てる服は貫頭衣みたいだけど、下半身にはポケットが二つついている。

 そういえば、この世界の季節はどうなってんだろうな。今は過ごしやすい感じだけど、もし寒くなるなら冬支度とかも考えないと。


 「ふむう。昼を少し回ったところかね」


 時計なんて上等な物があるわけもなく、太陽の位置を見て判断。

 さて、これからどうするか。


 「これからの一日のルーティンとしては、朝に地下水道でレベル上げ。午後は魔法の練習やら職業の確認。後は情報収集って感じかな」


 とりあえず食料は一日一食で耐えれば、1週間は持つと思う。携帯食料が腐らなければだけど。


 「その後はどうしよう。コソコソ盗むかまた誰かを殺さないといけないのか」


 情報収集に倒せそうな悪人も追加しよう。出来れば殺すのは最終手段にしたいところ。

 スラムでは人の生き死にが珍しくないから、そこらに死体が転がったりしてても、不思議には思われないけどさ。大人が何人も殺されていれば、警戒もされるかもしれない。


 「盗みをしても一緒だけどさ」


 俺の心情的にも、まだ盗む方が罪悪感は少ない。

 まぁ、自己満足ってやつだね。死にそうならなりふり構ってられないけど。もしかしたらいつかネズミを食う事になるかもな。






 「いよし! やっとレベルが上がったぞ!」


 初の魔物狩りから三ヶ月が経過した。狩りもスムーズに行えるようになり、今では隠れ家に魔石が溢れ返っている。まぁ、小さな石ころが散らばってる感じだけど。


 ☆★☆★☆★


 『名 前』 レイモンド

 『年 齢』 12

 『種 族』 ヒューマン

 『レベル』 5 


 『体 力』 F/S

 『魔 力』 E/S

 『攻撃力』 G/A

 『防御力』 F/A

 『素早さ』 E/S

 『知 力』 F/S

 『器 用』 F/A


 『恩 恵』 鑑定 複職

 『職 業』 盗人

 『属 性』 無 光 闇


 ☆★☆★☆★


 やばくない? 三ヶ月毎日午前中に休む事無く戦ってやっとレベル5なんだぜ。

 能力値が上がったのがあるのは良い事なんだけど。


 「能力値のランクが一つ上がるだけで、全然体感が違う。これは相手の能力値が低いからって油断は出来ないな」


 現に魔力と素早さが上がってから、狩りの効率は段違いだ。継戦能力はだいぶ向上した。

 ネズミには相変わらずスピード負けして苦戦してるけど、魔法の練習をしてるおかげで前ほど無駄撃ちせずに済んでいる。


 かといって、俺の能力値はまだ底辺も底辺。

 まだ大人相手に正面きって戦える程強くはない。

 俺がまだ子供のせいなのか、大器晩成型なのか、レベルは俺より低い大人でも能力値が高い人が結構いる。

 戦闘してるような人じゃなかったら、レベルは上がらないしね。

 でも能力値は上がったりするのかも? 俺も毎日魔法の練習は続けてるけどまだ三ヶ月。魔法の使い方や効率は良くなったけど、能力値はレベルが上がった時にしかランクアップしていない。


 「他の子供とかを見て比較するべきなのか。でもなぁ」


 俺はこの三ヶ月。スラムから出ていない。人目につかないようにコソコソと地下水道を往復する毎日だ。

 そして意図的に子供がいそうな所は避けている。困窮してる子を見たら絶対助けると思う。

 でも、今の俺の現状は自分の事で精一杯。とてもじゃないけど助ける余裕がない。

 だから意図的に見ないようにして現実から目を背けている。助けようとして、共倒れとか勘弁だからね。


 「すまぬ。見た事もないちびっ子達よ」


 想像しただけでメンタルブルーになるから、考えないようにして少しでも早く強くなれるように奮闘中だ。


 俺の食料問題はどうしてるかというと、スラムにある酒場やぼったくりの食堂から少しずつ盗んでいる。騒ぎになってないから多分バレてない。

 バレてたら絶対騒ぎになるから。あれから、結局人も殺してはいない。悪人のリストアップはしてるから、いざとなればやるだろうけど。


 「職を変えても魔法使えて良かったなぁ」


 実験の結果、職を変えても普通に魔法は使えた。でも効率や威力は下がってる。やっぱりその職につくと補正とかがあるのだろう。

 因みに今、魔法使いに変えると魔力と知力はワンランク上がって素早さと器用は下がる。

 就いた職によって能力値も増減するから、ちょっと体の変化が面白い。


 「名前通り盗む事に関して補正がかかってるっぽいんだよな」


 斥候てきなシーフ的職業かなと思ってたんだけど、叩き込まれた情報はピッキング技術だったり、いざ盗む時にビビらないようになったり。

 実際、初めて朝方に酒場に盗みに入った時は、直前まで結構ビクビクしてたのに、いざピッキングを始めると自分でも驚く程落ち着いていた。

 そして、長持ちしそうな食料と水をパクって店を出るとまたビクビクする。


 「職業は奥が深い。もっと生活が安定したら、色んな職を味見するのもありだよな」


 とりあえず情報だけ叩き込んでもらって、触りだけでも理解出来るようになっておきたい。

 今は生きるのに必死だし、一気に情報をもらっても使いこなせないだろうと自重している。


 「とりあえず大体能力がDぐらいになるまでは、レベル上げと練習を頑張らないと」


 一応隠れ家でなんちゃって筋トレはしている。

 まともなご飯を食べれてないから意味があるかは分からないけど。トレーニングは食事も大事って前世の筋トレマニアから聞きました。


 「安穏とした生活や、孤児の受け皿になるのはまだまだ遠いなぁ」


 そんな事を思っていた一ヶ月後。

 俺は地下水道で一人の女性と出会った。

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