第8話 精霊


 「おはようございます」


 「うっ」


 二度目の睡眠から目が覚めてもやっぱり、例のエルフは存在した。

 夢であってくれなかったらしい。


 「ご安心を。命の恩人に手を出す事はしません」


 「そ、そうですか。……ん?」


 なんかおかしいな。うん。おかしいよ。

 まず、なんでここにいるのか。そして、なんで俺が助けた事がバレてるのか。


 「では、最初からご説明させて頂きます」


 エルフの人、カタリーナさんは俺が戸惑ってるのが見て取れたんだろう。

 ぼろ家の地べたに座ってたけど、居住いをすっと正して丁寧な言葉で説明してくれる。

 今は亡きマザー? エルフが傲慢で他種族を見下してるってのは、本当なのかい?

 こんなクソガキに滅茶苦茶下手に出てくるけど。俺が命の恩人だからってのもあるんだろうか。


 「まず自己紹介から。私の名前はカタリーナ。見ての通りエルフです。歳は101歳。100年経ってからエルフの国を追い出されました」


 「追い出された?」


 鑑定で見た通りだな。あ、いや、それよりも。


 「あ、俺の名前はレイモンドです」


 こっちも名前ぐらい言っとかないと。礼儀としてね。エルフがいつ癇癪起こすか分からんし。俺は未だに丁寧エルフを信用してませんよ。

 まぁ、逃げ場はないし、逃げれるとも思わないけどさ。


 「追い出された理由はまた後で。まずは、レイモンド様。助けて頂きありがとうございました。正直死ぬだろうなと思っていましたが、まさか生き延びれるとは思っていませんでしたよ」


 「いや、光魔法使っただけだし」


 その後は放置だからね。なんか微妙に居た堪れない気持ちになる。


 「それで私が何故ここにいるか、何故レイモンド様の居場所が分かったかですが」


 それね。気になってたよ。匂いとかだろうか? 一応地下水道から出たら毎回浄化はしてるんだけど。その前にカタリーナさんは気を失ってたはずだよね? 俺が分かるはずないと思うんだけどな。


 「実は私は生まれた時から精霊が見えるんです。この世界の至る所に精霊はいますが、本当に見える人は今まで私以外には知りません」


 む? それは言っていい秘密なのかね? なんか爆弾発言されてるような?

 厄介事の気配をひしひしと感じるぞ?


 「エルフ? って精霊が見えるのが当たり前なんじゃないの? イメージ的にだけど」


 「精霊信仰しているのでそんな風に思われがちですが、実際はどのエルフも見えていないらしいです。それゆえ、見える私は異端として追い出されたんですが」


 えぇ。ちょっと僕ちゃん言ってる事がわかりませんねぇ。

 なんで唯一精霊が見える人を追い出すんでしょうか。エルフ側からしたら諸手をあげて喜ぶところでしょうよ。巫女とかそういう存在になれるんじゃないの?


 「まず、私が本当に精霊が見えていたのかと懐疑的だったのが一つ。後は嫉妬ですね」


 分かりやすい。ほぼ後者が理由だろう。

 嫉妬で優秀な人間を追放か。世界が変わっても人間の本質は変わりませんね。あ、エルフか。


 なんでも、どのエルフでも幼い頃に精霊魔法の使い方は学ぶらしい。

 精霊魔法は精霊に魔力を渡して、代わりに魔法を行使してもらうらしいが、通常のエルフは得意属性、俺は鑑定で見えてるから分かるけど、適性属性の精霊からしかお願いを聞いてもらえないらしい。


 しかし、カタリーナさんはどの属性の精霊からもお願いを聞いてもらえる。凄いよね。精霊眼を鑑定したら精霊が見えて話せるぐらいしか分からなかったんだけど。属性も無属性だけだし。

 不思議。精霊は混じり気のない魔力が好きとかなのかな?


 「エルフの伝承に全属性使えるエルフはいたらしいです。そのエルフの方も精霊が見えていたとか。巫女として、王都に祀ってある世界樹に仕えるのが役目だと聞きました」


 カタリーナさんも当然そうなる筈だったらしい。最初はその方向性で進んでたらしいが、あれよこれよという間に国外追放。意味分かりませんな。


 「ん? 全属性使えるんだよね? なんで光魔法で回復しなかったの?」


 「光の精霊が近くに居なかったんです。というよりも、光の精霊と闇の精霊は滅多に見かけません。私は国で一度見て精霊魔法を使った事はありますが。しかし、ここに来て驚きました。レイモンド様の周りには光と闇の精霊がたくさんいらっしゃいます」


 俺は精霊が見えないから、そんな事言われても分からないんだけど。もしかして力を貸してくれたりしてるんだろうか。どうもありがとうございます。


 俺はとりあえず何も見えないけど、頭を下げておく。あ、俺が勝手にカタリーナを助けに行こうとしたのは精霊さんのせいでは? そんな事出来るのか知らんけど。


 「地下水道で目を覚ました後、精霊に話を聞きました。そしてレイモンド様が助けてくれたと知り、精霊に道案内をしてもらってここまで来た次第です」


 「精霊優秀すぎるだろ」


 無敵じゃん。人探し、落とし物なんでも来いじゃん。いや、これは恩恵の精霊眼があってこそだ。

 エルフの国はどえらい人材を手放したもんだね。


 「それで? まぁ、ここに来た理由と来れた理由は分かった。カタリーナさんはなんであそこで倒れてたの?」


 「カタリーナと呼び捨てでお願いします」


 あ、はい。101歳のおばあちゃん相手に呼び捨てか。日本人には難易度高すぎるだろ。

 見た目は10代後半〜20代前半ぐらいのスレンダーで絶世の美女って感じだけど。ムネタイラ国務長官なのが少し残念。俺、おっぱい星人なので。


 そんな事を思っていたら何故かジト目で見られた。なに? 心の中が読める感じ? 精霊さんも流石にそこまで優秀じゃないよね? 俺にジト目を向けたところでご褒美にしかならないぜ。

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