第4話 予定


 空腹からの脱却。異世界に転生してから一番の天国と地獄を一日目で達成したかもしれん。

 まさかご飯を食べて涙を流すとは。多分これは一生忘れらない経験になるだろう。


 「でも一時凌ぎなんだよなぁ」


 これからどうすれば良いんだよ。奪った食料だって保存出来て節約して食べるとはいえ長持ちはしない。早急になんとかしないといけないんだが。


 「冒険者になれるのは後3年かかる。いや、年齢詐称してなる事も出来るのか」


 親もいないガキがどうやって稼げと。絶対にシステム間違ってるだろ。この世界は子供に優しくありませんな。俺、子供好きなのに。


 「ふーむ。これを15歳で通すのは無理か」


 ガリガリヒョロヒョロちんちくりん。

 自分の姿を客観的に見て、15歳と言い張るのは無理そう。小学校6年生が中学3年生って言う感じだもんな。相当大きく成長してなきゃ厳しい。スラムのガキがそんな成長出来る訳ないね。


 「その場凌ぎで食料を持ってそうな奴を殺していく? 出来れば悪人を。まだなんの罪もなさそうな人を殺す度胸はない」


 そういえば、吐いたり空腹だったりですっかり忘れてたけどレベルが1上がっていた。特に強くなった感じはしないけど、人を殺してもレベルが上がる事は確認出来たな。


 「冒険者になって立身出世していくのが王道なんだろうし、俺もやってみたい気持ちはあるけど」


 現状は厳しい。人を殺して食料を奪うって考えしか思い付かないあたり、既に思考が異世界になってる。現代じゃ絶対考えない事だったのに。

 あ、後は光魔法を使ってヒールでお金を稼ぐって手段があるな。

 なんかラノベでは教会とかと揉めたりしてるから、やめた方が賢明かね?


 「ひたすらお店を回って頭を下げて下働きさせてもらうのもありか」


 職業を変えれるんだし。そのお店に合った職に就けばそれなりに働けるだろう。


 「果たしてスラムのガキを受け入れてくれる優しいお店はあるのかね? そんな仏みたいな人そうはいないと思うなぁ」


 それに働けたとしても奴隷みたいな環境で四六時中馬車馬の様に働かせられるのがオチだろう。

 それならスラムと大して変わらん。いや、安全な寝床があるのは良いかもしれんが。 


 やっぱりコソコソと隠れて人殺しする方が強くてなるし良いのでは? ゆくゆくはスラムを支配して裏社会を仕切るみたいな。


 「マフィアとかギャングみたいな感じか。それはそれで面白そうだけど」


 俺がスラムを仕切れると裏社会にはなるけども、孤児達の受け皿になれるんじゃなかろうか。

 それに。


 「15歳になるまでとりあえず生き延びれば良いんだ。それからなら、商会を立ち上げたりも出来るし、現代チートってのも可能になるだろう」


 俺が商会を作って孤児を雇うのが一番健全か。

 なら、今から3年後に立ち上げる時の為に、勉強もさせないと。

 読み書きと算数が出来ればとりあえずOKだろ。後は俺のなんちゃって知識を商品にしてくれる生産者の育成か。


 「おお! なんだか楽しくなってきたな」


 現時点では妄想だが、中々良い策なんじゃないかな。すると、今の問題は…。


 「やはり食料。俺だけじゃなくて、スラムの孤児みんなが食べられる量が必要になるな」


 孤児院とかないのかね? こんな馬鹿みたいに命が簡単に失われる世界だぞ? 絶対孤児やらで溢れてる筈なんだけど、少年の記憶にそれらしきものはないんだよな。


 「とりあえず食料を集める為には強くならないと。外に出て魔物と戦うか」


 レイモンド君は将来性抜群なんだ。強くなれば、こんなしみったれた街のスラムぐらいすぐに支配出来るはず。


 「やはり暴力。暴力は全てを解決する」


 とりあえず外に向かってみよう。食える魔物とか倒せたら万々歳だ。



 「外に出たい? ダメに決まってるだろう」


 ダメでした。外に出ようと門を通ろうとすると、門番の衛兵みたいな人に普通に止められた。

 どうやら、身分証的なのが必要らしい。街に入るのにも出るのにも確認を取れなければダメだとか。


 「出るのにも必要なのか。困ったな」


 初手で計画が破綻した。どうやって強くなればいいのやら。

 それにしても。


 「この世界の人は自分の適正職業を分かってないのか?」


 街を隅っこをこそこそと歩きながら、道ゆく人を鑑定してたんだけど、ほとんどの人は能力の上限値がDで偶にCがあるくらい。やっぱりレイモンド君は主人公だよ。


 それに、自分に合った職に就いてる人はほとんどいない。門番の人の職業欄は『商人』だったし、串焼きを売っていたおっちゃんの職業欄は『大工』だった。


 「ふーむ。俺の恩恵半端ないな」


 人材派遣業とかしたら一気にトップ目指せそう。

 育成にはそれなりに時間かかるけど。

 適正職業が分かってるんだもん。それに沿った教育をすればいいよね。


 「みんな職業について知らないのか? 俺は頭に直接情報を叩き込まれたんだし、みんなもそうじゃないの?」


 分からんな。俺が異世界人だからなのか。

 どの時点で職を得てるのかが分かれば…。


 「いや、生まれた時に職業が決まってたらどうだろ? 赤ちゃんの時に情報与えられても理解出来ないよね」


 赤ちゃんがあの情報量に耐えられるかどうかは知らないけど。まぁ、それなら自分の適正職業を知らないのも仕方ない。


 「おやおや? この世界ってわりと欠陥だらけでは? なんかシステムがチグハグすぎる」


 職業とかは神様の仕事だろうけど、子供に優しくない体制とかがさ。中世とかではこれが普通だったりしたのかな?

 これは貴族やら上の人間が利権を貪り尽くしてるんだろうなぁ。世界が変わっても上級階層の人間が支配するのは変わらないね。


 「まっ、とりあえずは良いか。職業とかの事は後回しにしよう」


 今はとにかく外に出たい。闇魔法で闇を纏って夜に抜け出すか。夜の外の世界。絶対危険だろうけど。

 

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