第3話 職業


 とにかく体を回復させて移動したいので魔法使いを選択。ステータスの職業欄が魔法使いになった。

 あ、魔力と知力がGからFになった。就いた職によって能力値も変わるのか。ゲームみたいだな。


 「痛い…。けど、記憶が逆流してきた時程じゃない。これなら耐えられる」


 魔法使いの情報が頭に叩き込まれる。

 もう痛覚が麻痺してるんじゃないかね。

 痛みに鈍感になってきた。これが良い事なのか悪い事なのか。現状は楽で助かってるけど。


 「なるほど。魔力操作。体内にある魔力を操作して魔法を使わないといけないのか。じゃあ、まずそれの練習からかな」


 とりあえず使い方は分かった。後はとりあえず動ける程度まで回復させて逃げるべし。

 俺は寝転びながら、魔力操作の練習を始めた。




 「魔力って一回知覚すると分かりやすいな。体内に血液以外の何かが流れてる感じ。現代人からしたら違和感しかないけど、熟達したら気にならなくなるのかね」


 練習を始めて1時間程が経過した。

 とりあえずは魔力を自分の意思で動かせるようになったと思う。


 「ヒール」


 おお!? 魔力がごっそり無くなった感覚。

 中々気持ち悪いな。燃費が悪すぎる。


 「治ったか、これ? 微妙なラインだな」


 なんか折れた骨が繋がったような繋がってないような。中途半端に治った感じだな。体の痛みも微妙にマシになったように思える。


 「後何回かヒールをかけたらとりあえず動けるようにはなりそう」


 魔力がなくなる気持ち悪い感覚を何回も体験しないといけないけど致し方なし。

 俺は気持ち悪さと戦いながらもなんとか動ける体になった。




 「体はマシになったけど腹がやばい。ぼーっとするぞ、これ」


 少年の記憶から安全な場所を思い出し移動した後。次の問題は空腹だ。


 「残飯を漁らないといけないのか」


 記憶の中では残飯漁りをしていた。だが、現代人に残飯を漁って傷んだ食べ物を食べるのはかなりの抵抗がある。


 「となると…奪うとかの選択肢になるんだけど」


 果たしてレベル1のひょろひょろの少年が泥棒やらを出来るのだろうか。

 勿論、現代でも盗みとかをした事はない。


 「盗賊とか暗殺者とかそういう職に就いた方が良かったかな。いや、でも回復しないとやばかったし」


 職を変えたり出来ないもんなのか。ん? あ、出来るんじゃん。


 「でもこれ、職に就いたところでどうなの? スキルを覚えたりする訳じゃないし」


 魔法使いになったからってスキルとかを覚えた訳じゃないしな。気配察知とか気配遮断とか便利スキルを覚えたりはしないだろう。

 その職業行動に補正がかかる感じなのかな。


 「って事は魔法使いを辞めても魔法を使えるのかな? やり方は覚えたわけだし」


 やっぱり俺の恩恵強すぎでは? 色んな職に就けて、情報を得られるんだから。

 マジで主人公みたいな能力だな。異世界に来て主人公が調子に乗っちゃう気持ちも分かるよ。

 こんな能力を持たされるとその全能感に酔っちゃいそうになるよね。


 「遠距離から魔法で誰かを殺して身ぐるみを剥ぐか」


 考え方が現代人じゃない。レイモンド君と記憶が混ざって物騒な事になってるな。


 「生きる為。生きる為。生きる為。割り切れよ、俺」


 俺は自分に言い聞かせるように呟きながら、倒せそうな人を探す。

 出来ればくそみたいな人間が良い。殺しても心が痛まないような感じの。


 コソコソとスラムを歩く事15分。

 空腹でフラフラになりながらも、なんとか倒せそうなクソ人間を見つけた。


 「少年の記憶にあるぞ。あいつはスラムの子供が必死に集めた食料を掻っ攫って行く奴だ」


 レイモンド君も何度か取られてるらしい。

 今も手に食料を持ってゆっくりと裏路地を歩いている。


 俺はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいない事を確認。そして鑑定してみる。


 「え、よわい。いや、今の少年よりは強いけど」


 ほとんどの能力値の上限はDだった。それも上限ってだけでそこまで上がってないし。

 レベル8と低いし、魔法でなんとかなるかもしれない。


 「大丈夫。俺はやれる。やれば出来る子って昔から言われてたんだ」


 俺は手を震わせながらも、指を銃の形にして狙いを定める。一応、ヒールと攻撃手段の練習は軽くだけどした。狙いさえ外さなければ殺せるだろう。


 「やるぞやるぞやるぞ」


 2.3回深呼吸してから、魔法を行使する。


 「ダークボール」


 指の先から黒い球が放たれる。

 震えた指からは想像も出来ないほど綺麗に男の頭を捉えて破裂した。


 「やった。やっちゃったよ」


 既に胃の中に何もないだろうに、何かが込み上げてくる。俺はその場に蹲りとりあえず吐いた。


 「ふーっ。殺しちゃったな」


 落ち着いたらさっさと撤収。俺は殺した男の元へ行き、持っていた食料とお金、短剣を回収する。


 「うへぇ。グロいグロい」


 顔の上半分が無い男を見てまた吐きそうになる。

 俺はなんとか堪えてその場から退散する。


 「早く隠れ家に戻らないと。こんな食料とお金を持ってる所を見られると取られちゃうぞ」


 俺は来た道を引き返し、コソコソと隠れ家に帰還した。


 「干し肉に携帯食料に新鮮な水か。保存が出来そうなのはありがたい。欲を言えば野菜も食べたいけど」


 とりあえず携帯食料にかぶりつく。飢餓状態が長く続いた時に急に食べるとやばいらしいけど。

 なるべくゆっくりと水をチビチビ飲みながらお腹を満たしていく。


 「味はとても美味しいとは言えないけど…」


 なんか涙が出てくる。現代で当たり前に食べてたご飯のありがたみを痛感させられる。


 「うぅ。食べられるって幸せだなぁ」

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