第3話 引っ越し

 新しい家に一番早く引っ越していたのは、カルロス・ロックハートとアンドルー・ロックハート、ラウロ・ロックハートの兄弟だった。三人は、それぞれに一部屋を使っていたが、そこは彼らの父親がこの家の出資者なのだから、仕方がない。


はるちゃんは、お兄ちゃんと一緒の部屋で良いよな?」


 母が死んでからは、ずっと達也と同じ部屋だったし、達也がそう言うので、僕は頷いた。ロックハート家の兄弟三人の次に、僕たち朝倉家が引っ越してきて、その後に翔子さんのところの渡辺家の二人、十八歳の孝介こうすけ、十七歳の智樹ともきが引っ越してきた。最後が、香奈さんのところの近藤家の三人、十七歳のれん、十五歳のみなと、十四歳のりょうだった。とりあえず、最初に部屋割りを決める必要があったが、すでにロックハート家の三人が三部屋を使っていたため、残りの七部屋をどう割り振るかが問題だった。


「ロックハートさんのところにいる千春の子供は、二十一歳と十九歳の二人だと聞いていたんだが。カルロスくんとアンドルーくんは、双子なのかな?」

「まあ、そのようなものです。アンドルーと俺はなんというか、どっちがという事でもないので、母さんの子供であることには、変わりありません。」

「兄貴は、二人で一部屋で十分だろ。なんで二部屋も使ってんだよ。部屋が足りなくなるだろ。」


 父の質問に対して、どことなく歯切れの悪い返答をするカルロスに、ラウロが文句を言うようにキツい言葉を投げた。話から察するところ、カルロスとアンドルーが二十一歳で、ラウロが十九歳ということのようだ。三人は、僕たち朝倉あさくら家が来ると、初対面だったため自己紹介の挨拶をして、引っ越し作業を手伝うと言ってくれた。


「部屋が足りないんだったら、遙人は俺の部屋に来てもいいし。」


 ラウロの言葉を受けて、カルロスが言う。そこに、カルロスと全く同じ顔をしたアンドルーが視線を向けた。


「そういうのは、どっちかっていうとカルロスじゃなくて、俺の役目だろ。」

「そんなことはないさ。俺にだって、弟を可愛いと思う気持ちくらいある。お前こそ、女と遊んでればいいだろうが。」

「はいはい、兄貴たちは二人とも失格ということで、まだ歳が近い俺の部屋に来たほうが、マシだと思うのだが。」


 勝手な話をし始めるロックハート家の三人だったが、そんな三人を相手に達也が言った。達也は、僕の肩に腕を回す。


「遙人は、俺と一緒の時間が長かったから、俺が面倒を見るので大丈夫です。遙ちゃんは、お兄ちゃんと一緒の部屋で良いよな?」


 僕は、その達也からの問い掛けに頷いた。僕にとっては、カルロス、アンドルー、ラウロの三人も血の繋がった兄弟ではあるかもしれないが、僕が十一歳になる今の今まで、一度も会ったことがなかった人たちだ。三人は、見た目が完全に外国人だし、急に兄弟だと言われても、いきなり狭い部屋で二人で住むというのは、嫌というか怖いような気がした。


 そういった事情から、僕は達也と一緒の部屋になった。カルロスとラウロは三階の二部屋を、アンドルーは二階のそれほど広くない部屋を使っていた。


 父と達也とで相談をして、近藤家の三人には二階の二部屋繋がっている部屋を使ってもらって、渡辺家の二人には二階の少し広めの一部屋を二人で使ってもらうことに、とりあえず決めた。父は、一階の和室を使うことにした。あとは、全員が揃ってから要望や意見を聞いて、決定しようという話で纏まった。


「お兄ちゃん、僕たちの部屋はどうするの?」

「遙ちゃんは、どこの部屋が良い? 一階の部屋でもいいし、二階もまだ二部屋あるし。もう一度、見に行こうか?」

「僕が選んでもいいの?」


 これまで住んでいた家も決して狭くはなかったが、今までよりも数倍の大きさがある家にワクワクしていた僕は、達也の手を引っ張って、いろいろ見て回った。そんな様子を、カルロスたちは物珍しそうに見ていた。


「遙ちゃん、そろそろ決めないと、引っ越し屋さんが荷物を持ってきちゃうから。どこにする?」

「んー、じゃあ二階の階段に近いほうの部屋が良い。」

「ベランダと繋がっているほうの部屋?」

「うん、そう。」


 南側の三部屋の内、二部屋はベランダで繋がっていた。階段の正面にまっすぐ伸びた廊下の奥からも、ベランダに出られるようになっている。そのベランダで繋がった二部屋のうち、階段を右側に進んだ奥の一部屋は渡辺家の二人が使う予定になっている。そうして、階段の正面の廊下を挟んだ左側に、一部屋だけある角の日当たりの良さそうな部屋と、一階の一部屋が、空き部屋ということになった。


 渡辺家の孝介、智樹も、近藤家の蓮、湊、諒も、部屋割りについては、何も文句は言わなかった。十一人で、一つ屋根の下で暮らさなければならないことを考えると、贅沢は言えない。それに、これまでの彼らの暮らしと比べると、むしろ今回用意された部屋の方が恵まれているということだった。

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