4-2 一騎打ち
大通りにはいつの間にか人だかりができており、一騎打ちをするための円形空白領域ができあがっていた。
事前告知があったわけでもなしに、昼休みなのをいいことに多くの見物人が集まってしまっているようで。
その中心にはリナとスナク。
リナは武器を持たず、スナクは大剣を引き抜いている。
「本気で来ていいわよ。気にしなくていいわ」
この茶番試合に対して、含みを持たせてそう言う。
一騎打ちでどちらを勝たせるかはすでに決められているが、予定調和というのも面白くない。
ここからは完全に個人の趣味の世界となるが自信はある。
「ほぉ。今度こそ、度胸があるな」
いいえ、とリナはまたも不敵の笑み。
「どの仮説の確度が高いかだけよ」
レフェリーを勤めるスナク側の兵士の開始の声が響く。
その瞬間、石段が砕けた。
スナクの踏み込みの強さのあまり、通りを形成していた石のレンガが砕け散ってしまったのである。
同時にリナとの距離が消え去る。
魔法攻撃を主体に戦うリナに対して、近接戦闘へと持ち込むために要した時間はまばたき一つ分。
上段からの大剣による剛撃がもう目の前。
受けてもリナの小さな体ではそのまま叩き潰されてしまうであろう。
では避ければどうなるか。
二の太刀の軌道を脳内で描くが、いずれの場合もリナの敗退が見えている。
つまりこの攻撃への対処は、開始合図とともにリナも攻撃を放ってスナクの一撃を打たせないようするしかなかったのだ。
負けが確定したように見える攻撃に対し、リナは構えたまま何もしない。
スナクも違和感を覚えているようだが、そのまま剣を振り下ろす。
そしてその大剣がリナの体を――。
切り裂いた……!
「なっ!」
驚愕に目を見開く一同。
対するリナは、
「私の勝ち」
スナクが気付いたときには、リナは彼の斜め後ろに立っており、光剣を彼の首筋へとあてがっていた。
切り裂いたと思っていたリナの体は光の礫となって消えていく。
みな何が起きたのか理解できないと言った表情だ。
「無詠唱光学偽造魔法。私はそこにはいない」
それを聞いてスナクの口元が緩む。
肩の力を抜いて武器を取り落した。
「ふっ。俺の負けだ」
両手をあげて、レフェリーへとそう告げるのだった。
一瞬の出来事ながら、周囲では拍手と感嘆の声が上がる。
そんな中でリナは光剣の魔法を解除し、彼の元へと寄って声を潜める。
「予定通りね」
「わざとお前に勝たせるための演出まで考えていたのに、無駄になったな。いろんな意味で合同演習が楽しみになった」
「即興でよく乗って来てくれたわね」
今度はスナクがリナのように不敵に笑う。
「どの仮説の確度が高いかを考えただけさ」
そう、とリナも破顔するのだった。
一騎打ちの終了とともに野次馬たちは徐々に霧散していき、悔し気な表情を浮かべる熊人と再び対面することとなる。
「残念ながら一騎打ちは俺の負けだ。この少女は一時的にリナ・レーベラが預かることとなる」
「ふざけるな! こんなの認められないぞ! 家族がかかっているんだ!」
「安心しろ。万が一お前の主張が正しかった場合は改めて返還を要請できる。相手はカナルカの小隊長で身分も居所も知れている。逃げようがない」
「身分も居所も捨てて逃げるかもしれないじゃないか!」
「仮にこの少女を売り払ったとして、身分を捨てるリスクに見合うほどの対価が得られると思うか? 彼女が逃げることはないであろうよ」
その言葉にブーブー言いながらも、熊人は引き下がるようだ。
リナを睨むのはやめないようだが……。
「では、これにて失礼いたします」
「ああ。手間をとらせた」
その顔には安堵半分、これから訪れる苦難への
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