復讐は蜜の味、譚ジエンド

 量子はパイを、半分に切り分けながら、

 洋子に言った。


「シュレディンガーの猫ってあるじゃん。

 あれさ、かわいそうだと思うんだよね。

 ハーフアンドハーフの確率で、

 死んじゃうなんて。

 片方はチャオチュールにして、

 もう片方は、クーベルチュールにするとか、

 あっ、駄目か。猫にチョコは。

 私さ、半分に切るの、とっても上手いの。

 限りなく1/2に近づけられるの。

 でも、現実じゃあ、物理的に、

 完璧な1/2って無理じゃない」


 皿の上には、半分に切ったパイ。

 量子はそれを切った包丁を、

 洋子の方に突きつける。

 断罪する剣のように。


「愛子がね、あなたに、

 サインニブンノパイを、

 1を食べさせて、

 自分は、

 コサインニブンノパイ、

 0を食べてたのはね。

 あなたを太らせて、

 自分だけが美しいままいようとか、

 そういうことを考えてたんじゃないんだよ。

 あなたに、

 定義域の中で最大の愛を与えたくて、

 でも、自分は拒食症だから。

 まあ、あなたにこんなことを言っても、

 無意味かもね。

 その醜く太った腹の中で、

 何を考えているんだか?

 この部屋は、

 誰も観測できないから。

 助けは来ないよ」


 恐怖で何も口にできない洋子に、

 量子は選択を迫る。

 どちらを食べるか。

 タンジェントニブンノパイ。

 その極限の、右か、左か。


「えっ、何? 両方とも死んじゃうだって?

 そうね、

 右でも、左でも。

 私も、あなたも。

 だってこれは、

 愛子の復讐なんだから」

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