崩壊少女
軍鶏酉蘇傀
崩壊少女
バイクと一心同体になった俺は今、風になっている。
最高の気分で高速道路を走り続ける。
ふと、左を見ると桜が見えた。
桜は風に吹かれ花びらを散らしていた。
「はぁ、」
その時、切ない記憶が奥の引き出しから引っ張り出された。
高校二年の春。
教室で誰もいなくなるまで待っていた。
「ねぇ?誰もいなくなるまでって言われたから待ったけど、何の用なの?」
「実は伝えたいことがあるんだ!」
「う、うん。」
その時風が吹き少し空いていた窓から桜の花びらが風につられ入ってくる。
「好きなんだ!」
「え、え?私?」
「それ以外誰がいるんだよ。」
「そ、うだよね。……ごめんだけど、友達としてしか見られないかな。」
そこで、俺の一世一代の最初で最後であろう告白は失敗に終わった。
こういう時は一度休むか。
そう思い、近くのサービスエリアに入る。
バイクを止め、ヘルメットを脱ぎ、自販機でコーヒーを買う。
「はぁ、」
またしてもため息をついてしまった。
ダメだ今から会いに行くんだから。
「どうしたんだ?兄ちゃん。おっと言わなくてもわかるよ。あれだろ?失恋だろ?」
なんだ、このオッサン。
「いえ、大したことないので。」
妙に馴れ馴れしいオッサンが嫌でコーヒーを飲み干しバイクの方に行こうとすると、
「おいおい、冷たいこと言うなよ。兄ちゃんあのバイクのライダーだろ?俺は兄ちゃんの隣のバイクのライダーなんだよ。同じバイク仲間なんだし少し話そうや。」
何気なく隣にとめてあったバイクを見ると、CB1300/ホンダが置いてあった。
「これ、おじさんのですか?」
「あぁ、そうだよ。カッコいいだろ。」
カッコいいに決まっている。俺もいつかは乗り回したいと思っているバイクなのだから。
しばらく見惚れていると、
「話してくれたら、そうだな一周してきてくれていいぜ。それと、兄ちゃんのバイクも乗らせてな。」
そんなこと言われたどうするかは決まっている。
「実は、今でも好きな人と今日ご飯行くんですけど、一回振られてて。自分が行っていいのかなって不安でいるんですよ。」
正直に言うと、オッサンはバイクのキーを投げ渡してきたので、俺も自分のバイクの鍵を投げ渡した。
お互いのバイクに乗り、サービスエリア内を一周した。
流石CB1300!
最高に乗り心地が良い。
いつか自分でも買ってカスタムしたい。
そんなことを思っているとあっという間にお試し期間は終わり、元の位置にとめた。
「兄ちゃんどうよ、うちの相棒は。乗り心地最高だろ?」
「はい、最高でした!」
「そうよ、その心意気よ。自分が思ってるより世の中そんな複雑じゃないのよ。風になると全部ちっぽけなんだよ。だから、そんな考えなくていいんだよ。」
「そうですね、おかげで気持ちが楽になりました。ありがとうございます。」
「お礼なんていいんだよ。頑張って行ってこいよ!」
オッサンと別れ、風になった。
あの、オッサン最初はウザかったけど、趣味も合うしなんだか親近感を感じた。
また、会えればいいな。
その時は自分のCB1300に乗って欲しい。
数時間走り続けると、今日泊まるホテルに着いた。
今日は飯を食い、次の日は駅で合流して買い物に付き合わされる予定だ。
チェックインをし、早くついたため少し仮眠を取ることにした。
すぐ寝っ転がり、いつもと同じ大きさくらいのベットなのか安心感もあり、すぐに寝てしまった。
「今日から転校してきた子が来ます!みんな仲良くするように!」
高校にしては珍しい転校生。
一体誰なのだろうか?かわいい子だったらいいなという期待を持ち、扉の方を見た。
その時、教室に入ってくる姿にはなんだか見覚えがあった。
「初めまして、八雲奈月と申します。みなさまよろしくお願いいたします。」
自己紹介でそれは確信に変わった。あれは幼馴染の奈月だ。
小学校の頃に引っ越してから、手紙のやり取りをしていたが中学二年の秋パタリと手紙が来なくなりいつしか、繋がりがなくなった。
それなのに、今になって会うことになるとは。
奈月は俺の隣の席に座ることになった。
「久しぶりだな。」
「?そうですね。お久しぶりです。」
どこか、喋り方が冷たい奈月だった。
そのあと奈月の周りに人混みができたが、皆すぐにどいていった。
そのあと先生に頼まれ、学校案内をすることになったり、小学校の時みたいに話しかけると、やはり向こうも久しぶりで緊張しているのか、ずっと敬語でタメ口でいいといってもタメ口とは?と不思議なことを聞いてきた。
先生に奈月の様子がなんだか変だと言ってみると、
記憶喪失。
そう答えてきた。
記憶喪失と言っても誰もが知っているそんなことも忘れるのか?っと思ったが、
記憶喪失になったこともないため分からず、家に帰ろうと昇降口まで行くと、奈月が近寄ってきた。
「家が近いので一緒に帰りませんか?」
「いいけど、一つ質問に答えてくれるか?」
「なんでしょうか?」
「記憶喪失って聞いたけど、どこまで覚えてるんだ?」
「それは、、、」
その時、揺れが起こった。
急な揺れに驚いたのか、奈月はその場に立ちぱっなしだった。
奈月の手を引っ張り、座らせ揺れが収まるのを待った。
数秒間で揺れは収まり、地震かと思いスマホを見てみると、地震速報の通知もなく、地震速報音も何もなかった。
ピピピピ、ピピピピ。
「ん?」
スマホの設定してあったアラームが鳴った。
時間を見てみると、18時半。
奈月のバイトが終わる時間が、19時なのでそろそろ向かわなくてはならない。
支度をし、相棒と一緒に走り始めた。
バイクを数分走らせ奈月のバイト先である、服屋に着いた。
いや、服屋というより大手アパレルメーカーなど少し、横文字を使った方が良いのだろうか。
バイクを駐車場に止め、待っているがなかなか来ない。
lineも送ってみたが全く既読にならない。
試しに店内を覗いてみると、明かりはついているが人影が見当たらなかった。
おかしいと思い、バックヤードの方に行ってみると、人影があった。
その人影は自分より高くスタイルも良く、まるでモデルの様だった。
そんな人この店では店長しかいないだろう。
近づいてみると、店長がタバコを吸いながら腕時計をチラチラみていた。
「こんばんわ、春さん。」
「ん?あぁ、史人くんか、悪いが奈月ちゃんはここにはいないよ。」
タバコの火を消し春さんはそう言ってきた。
「それは、どういうことですか?」
あからさまに顔を背け、新しいタバコを出しては、火をつけた。
「いや、史人くんならいいか。実は奈月ちゃんが急に倒れたんだ。声をかけても一切返事がなくてね。それで、さっき救急車が来て運んでもらったんだが、意識がないみたいなんだ。」
奈月が倒れた?突然のことで頭が追い付かなかった。
「な、なんでですか?」
「すまないが、私にもわからない。本当に突然だったんだ。」
一旦心を落ち着け、考えてみるが心当たりはなかった。
「様子を見にいきたいので病院の場所を教えてください。」
「あぁ、教えよう。ついでに奈月ちゃんの荷物を持っていってくれ、住所をすぐに書いてくるから待っててくれ。」
待っている間も、菜月のことが心配でたまらなかった。
「すまない、待たせたな。これが病院の住所で、荷物も頼んだ。それと、病院には付き添いで谷川がいる。苦手だと思うが、よろしく頼むよ。」
「わ、かりました。では、ありがとうございます。」
荷物を受け取り、相棒の元に戻ろうとすると、
グラっと視界がなったため、すぐにその場に座り込むが、まだ、直らなかった。
その時視界の問題ではないとすぐにわかった。
地震だ。
でも、緊急地震速報は反応しなかった。
自分のスマホだけでなく店長のスマホも。
少し考え事をしながらその場にしゃがんでいると揺れはおさまった。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとか。俺、奈月が心配なので病院に行ってきます。」
「待ちたまえ、自分の身を優先にするべきだ。それに、また、いつ地震が起こるかわからない。避難しよう。」
普通の地震だったらそうするだろう。
でも、この地震はあの日起きた地震と全く同じ現象だ。
それに、こんなにも大きい地震は初めてだ。
急がなくてはならない。
「店長は避難しててください。自分は後から避難するので!」
走ることも考えたが、今は急がなくてはいけないので、バイクに乗ることにした。
ナビをつけ急いで出発した。
ナビをつけている間店長は止めてくれたが、菜月のことが心配だった。
そう言い聞かせ店長を無視してバイクを走らせた。
が、しばらく進むと渋滞が起きていた。
「クソが。」
どこかに駐車場を探すしかない。
早く、早くしないと!
辺りを見まわし、渋滞から抜け駐車場を見つけ相棒を置いていった。
その時二回目となる地震が起きた。
先ほどよりも揺れが大きかった。
やっぱり地震速報は鳴らない。
人生で一番起きてほしくなかったことが現代進行形で起こっている。
もっと早く菜月のもとにいれば!
そう心が叫んだ。
この地震が奈月によるものだということに未だに納得がいかない。
地震が収まり、すぐに走り始める。
目的地まで5kmもあり、ここからだと一時間はかかる。
足を止めることをやめず、スマホのナビを見ながら走り続けた。
日頃から運動していないせいか、すぐに体力が限界を迎えたが、それでも走り続けた。
全ては、奈月のために。
「なんで、記憶喪失になったんだ?」
「それが、お父様が教えてくれないんです。」
話していて違和感がある。
こんな喋り方だったか?こんな口調だったか?
記憶喪失は人格まで変えてしまうものなのか?
家から学校までの距離は近いためすぐ着いた。
「ここが、私の家です。わざわざ、ありがとうございました。」
「あぁ、じゃあな。」
不気味さを覚えてすぐに帰ろうとしたことを覚えている。
走ってその場から逃げようとすると、
「やっぱり待ってください!お願いがあるんです。」
奈月は俺の手を掴んできた。
手は冷たすぎて人間かと疑うレベルだった。
「冷た!なんだよ、お願いって。」
両手で手を握ってきた、その手はなんだか硬かった。
「私の、記憶を取り戻すのを手伝って!」
その時の奈月は自分の記憶にある奈月と一致していた。
「わかった。」
思わず了承してしまい、自分でも驚いた。
それから、仕方なくか毎日のように、奈月の家に行き、奈月と一緒にいた頃の記憶を話した。
奈月はまるで、他人の話を聞いている感じだった。
それ以外にも、奈月に話し方の練習をさせた。
他の人とも仲良くなれるための練習だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
息が苦しい。でも、今は走らなければならない。
ここで、三回目となる揺れが起きた。
一回目や二回目より揺れが大きい。
どんどん揺れの規模が大きなっている。
そう理解すると、後ろの方で高層ビルが横に倒れ始めた。
ものすごい風が起こり、体が飛ばされた。
もう一度見る頃には、完全に崩壊していた。
急がないと、早く病院まで行かないと。
揺れが収まるのを待っていられず、すぐに走り始めた。
揺れがある中、走っていると倒れそうになるが、それでもなんとか持ち堪えて走り続けた。
病院到着までまで後40分、距離は3.4km。
いつものように奈月と一緒に帰っていると、
「やぁ、いつも奈月くんが世話になっているね。」
黒いスーツを着たいかにも怪しい人物が話しかけてきた。
奈月の方を見ると、どこか怯えたような感じだった。
「おっと、自己紹介を忘れてたね。私はスペード。悪いが本名は教えられないから、そう呼んでくれ。今日来た理由は、奈月くんについてを君に教えておこうと思ってなんだ。」
「やめて!…史人には何も教えないでください。」
「ふーん、いい信頼関係を築いているようだね。まぁ、奈月がそういうなら仕方ないが、史人くんかな?君にも真実を知る権利がある。これが私の電話番号だ。気になったらかけてくるように。では。」
受け取ると、男は車に乗り去っていった。
「なぁ、奈月。俺に隠してることがあるのか?」
思わず出た言葉に奈月は暗い表情をして、
「今日は一人で帰る。」
そう言って菜月は走り去っていった。
その日から奈月は俺を避けるように過ごした。
どうすればいいんだ。そう考えていると、男がまた現れた。
「いやー、悪いね。しばらく見ていたが、私のせいで二人の中を引き裂いてしまって。」
「あなたは、何者なんですか?」
「それを知ることは真実を全て知ってもらうことになるな。それでもいいなら、車に乗りたまえ。全て説明しよう。」
「そ、それで、奈月はどうなるんですか?」
男は笑い始めた。それは、腹を抱えるほどだったらしい。
「あの、」
「あ、あぁ。大丈夫だ。あまりにもおかしな質問でね。どうなるかだって?どうなるかは君次第だ。真実を知ってどうするかで彼女の行先が決まるのさ。さぁ、少年。どうするんだ?」
男が車のドアを開けて待っている。
真実を知らないとずっとこのままだとしたら嫌だ。
決心し車に乗りこんだ。
男はドアを閉め運転席に移動した。
「すまないが、全てを知ってもらうためにはある建物に移動しないとならない。まぁ、それほど遠くもないから少しこの資料に目を通しておくと良い。質問は着いてから受け付けよう。」
資料には
『 人間(死体)兵器改造化計画
八雲奈月』
と書かれた紙が一番上にあった。
「はぁ?」
思わず声が出てしまったが、紙をめくるとそこには、奈月のプロフィールが書いてあり、三年前、中学二年の秋に死んでいたことが書かれてあった。
殺人によるもので母親と共に殺されたそうだ。
奈月の父親からは母親とは離婚してこっちに戻ってきたと言われていた
次にページをめくるとそこには事件の真実が書かれてあった。
殺人を起こしたのはとある有名な政治家の息子。
俺でも名前は聞いたことあるくらいの人だった。
その息子は、むしゃくしゃしていたそうで、たまたま目についた奈月を殺したくなり家まで尾行し母親を刺した後、奈月に性的暴行を加えた後に殺したそうだ。
それ知ったその息子の親はマスコミを買収し、ほんの一部の人間しか知らないこととして事件は幕を閉じた。
息子は牢獄にはいるらしいが、二年後に釈放されるそうだと資料に書いてある。
そんなこと可能なのか?疑問に思うが、資料を読む手は止まらなかった。
次のページには奈月の兵器としての運用方法などが書かれてあった。
そこには人工的に地震を起こし、相手を混乱させる装置を搭載してあると書いあるのと、人格が昔とは若干違うが、記憶を継承してあることが書かれていた。
目を疑っていると、車が止まった。
「よし、ここだ。質問は移動している時にも受け付けるから、遠慮なくいうと良い。さぁ、付いてきたまえ。」
そこで俺は、今の奈月の状態について聞いた。
今の奈月の脳には人工知能を使った脳みそで活動しており、本来記憶が残らないはずなのだが、なんらかの現象で残ってしまった。しかも、能力の発現が現れないことから失敗と思われていたが、先日起きた不可解な地震は彼女が原因と考え、菜月が寝てるうちに脳を調べたが、制御が不可能となっていた。
地震が起こるきっかけはわからないらしい。
説明を聞いていると、部屋に案内され座って待っているようにと言われた。
まだ、病院到着までは30分もあり、距離は約三km。
横断信号が赤になり今どのくらいだろうとスマホの地図を見る。
何のために走ってるんだ?
どうして自分の身の危険を冒してまで走っているんだ?
疲れた体と共に精神まで疲弊しきっている。
奈月はいつかは地震を制御できず不定期に地震が起こる。
いつかは、こうなるはずだったんじゃないのか?
信号が青になるが体が全く動かない。
俺はどうすればいいんだ?
奈月を起こしてどうするんだ?
もう十分やったんじゃないのか?
自分だけでも逃げれば助かるんじゃないのか?
でも、もしここで諦め一人で逃げたら奈月はどうなるんだ。
奈月を守るとあの男と約束したが、破ったところでどうかなるのか?
そう考えながら辺りを見渡した。一部の建造物はもうすでに崩落していた。
こんな終わりのような世界でどうなるんだ。
なぜあの時約束をしてしまったのだろう。
部屋に案内され待っていると、奈月が入ってきた。
目が合うが奈月はすぐに逸らして部屋を出ようとするが、扉には先ほどの男が立っていて、戻ることができなさそうだった。
仕方なくなのか、奈月は俺の前の席に座った。
「資料見たの?」
「……うん。一応全部見たよ。」
しばらく無言が続くと、
「気持ち悪くないの?私死んでるんだよ?」
奈月は俺が教えた喋り方を使いながら言ってきた。
「だからさ、私もうここの研究所にいようと思うんだ。それが一番安全だと思うし。今日はその、お別れの言葉を言いたかったの。今までありがとうね。」
奈月はそう言うと、立ち上がり扉の方へ向かおうとした。
そんな、奈月の顔を見ると涙が溢れそうだった。
「待って!」
奈月の手を掴み引き留めた。
「奈月はそれでいいのか?だって起こる原因はわからないんだろ?それだったらここにいたって、地震は起きるかもしれないだろ!それだったら、今まで通りに暮らそうよ!俺は、まだ少ししか奈月のことを知らないから、ほとんどエゴだよ。それでも、奈月と友達でいたいんだ!」
そう言うと、奈月はゆっくりと俺の方を向いた。
菜月からは涙が。
「いいの?私死んでるし、史人が知ってる私とは違うんだよ。一緒にいていいの?」
「そんなの関係ないだろ!それに、死んでたら涙なんか出ないだろ?奈月は生きてるんだよ。」
「泣いてるの?私?」
菜月が涙を拭いても拭いても涙は溢れていた。
ハンカチを持っていたので渡して、使っても涙はまだ溢れる。
「泣いているところすまないが、君たちの決断は、今まで通りに暮らすでいいかな?」
奈月と共に頷いた。
そう、あの時菜月の近くにいると、死んでいようが、兵器になっていようが関係なく。
あんな感情が豊かなのは生きているからだろう。
死んでいたらできない。
俺は菜月を守りたいと思ったから、走っていたんだ。
そうだ、守りたいんだ。一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり、そんな当たり前の日常を過ごしたいんだ。
そう、走るしかないんだ。あの時からもう決まってる。
信号が再び青になると走り始めた。
先程までとは比にならないくらいの速度で。
まるで、風のように。
「そうか、では奈月くん。少し席を外してくれないか?少年と話さなくてはいけないことがあるんだ。」
扉が開き奈月は部屋の外に出た。そこには奈月の父親がおり、そっちのほうに向かったことを男が確認すると扉を閉めた。
「では、少年。もしもの話だが、奈月くんのせいで地球が崩壊するような地震が起きたとしよう。そうすると、我々は奈月くんを殺さなくてはならないのと、その地震の責任を君はとる覚悟があるか?」
男は一枚の紙を取り出した。
「これは、契約書だ。彼女のために全てをかける気はあるのか?」
「……約束したんだ。前みたいに過ごすって。」
「そうか、ならサインをしたまえ。」
男からボールペンを渡され、サインをし拇印を押した。
「これで契約完了だ。君たちは自由に暮らしていいが、先ほども言った通り日本いや、世界が崩壊するような地震の予兆が起きた場合は直ちに奈月くんを殺し、君に責任を取ってもらう。それで、一つ助言だが、我々の推測では一度地震が起きたら、奈月くんが死ぬまでそれは止まらないものだとそう見解している。きみは世界の人々と奈月君を天秤にかけ奈月くんが大切だと判断したら、彼女を連れて逃げろ。1日捕まらずにいたら、おそらく君たちの勝利だろう。私から言えることはこれだけだ。」
「なぜ、あなたがそんなことを?そうなったら俺たちを殺しに来るんじゃないんですか?」
「なに、殺すのは我々ではない政府だ。我々はただの雇われものだよ。では、少年、行きたまえ。」
そうだ、あの時からもう運命は決まっていたんだ。
地震が起きてもバランスを取りながら走った。
さっきまでは座るしかない地震に耐えながら走った。
病院まであと少し、もう見えているんだ。
ビルが倒れるのも気にせずに走り続けた。
周りの悲鳴、助けを求める声、それを引き離して走り続けた。
もう、あの時未来を決めてしまったのだから。
病院に着くと、看護師さんたちは患者たちと一緒に避難の準備をしていた。
その中の一人冷静でいた、看護師に、
「先ほど救急搬送された、彼女。八雲奈月はどこにいますか?」
「あっちです!506号室!彼女を避難させるの手伝ってください!」
「任せてください。そのために来ましたから。看護師さんは他の人をお願いします!」
看護師さんが指を指していた方向に進み、奈月がいると言う病室に向かい走った。
到着して病室に入ると、奈月は眠っていた。
あれから数年後。
世界は崩壊した、一人の女性いや、少女によって。
俺はあの後奈月を連れて相棒の元まで戻った。
そうすると奈月は目を覚まして、一緒にバイクに乗って走った。
どこでもいいから、人に見つからないのように走り続けた。
それで、今はこの世界ではまともな屋根付きのボロ屋敷で暮らしている。奈月が倒れる心配がないと言うのだから今のところは無いのだろう。
今は食料を探しに、サービスエリアを回っている。
まだ動く自販機などがあるかもしれないからだ。
今日は世界が崩壊したあの日訪れたサービスエリアに戻ってきた。
バイクを止めて辺りを見渡すと、一人の男が自販機の近くでタバコを吸っていた。
「あの、その自販機ってまだ動きます?」
「あぁ、これか?これは動かないが、飲み物なら保存してある。案内するよ。」
男に案内されるまま向かうとそこにはキャンピングカーがあった。
「ほら、持てるだけ持っていけ、、、って、あの時の兄ちゃんか?!いやー、まさかこんなところで会えるとはな!」
「どこかで会いましたっけ?」
男の顔を見るが思い出せない。こんな人いたっけ?
「兄ちゃんひどいよ!俺だよ、俺!大地震が起こった日にCB1300に乗せてやっただろ?」
「あ、あぁ〜!あの時の!無事だったんですね!」
「当たり前よ!ほら、兄ちゃんなら全部持っていっても構わないから、持っていきな!」
それからオッサンと、今まで会ったことを話した。
もちろん地震の原因は言っていない。
「いいんですか?こんなに。」
「いいんだよ!面白い話も聞かせてもらったし。それじゃあな!元気でやれよー!」
オッサンに背中を押され、バイクを出した。
こんなことあるんだな。そう思い、奈月の元に帰った。
早く、奈月の元に帰らないといけない。
腹を空かせているだろから。
本当に、精神年齢はまだ少女なのだから。
「お前があの罪人の罪を肩代わりするんだな?」
「あぁ、兄ちゃんいや、あいつの父親なんだ。最後くらい父親らしいことさせろよ。ほら、早く行こうぜ。」
「伝えなくてよかったのか?少年の父親ということを。」
「いいんだよ。あいつの前では赤の他人で。」
「わかった。本部にはこう伝えておこう。世界を崩壊させた少女は、その場で処分し、責任者を捕まえたと。」
「あぁ、任せたよ兄ちゃん。」
崩壊少女 軍鶏酉蘇傀 @Toorii
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