これからどうしよう
あの夏の事は今でも覚えてる。いや忘れられるわけがない、花火の音もまだ耳に残ったままだし、あの子のこともきっとこの先一生忘れない。私をまた独りぼっちにしたあの子を、私の心に絶対に埋まらない穴を勝手にあけて独り勝ち逃げしたあの子を、私を救ってくれたあの子。いなくなった今やっとわかったよ、私、一緒に罪を犯したあの子がどうしようもなく好きなんだ。会いたいよ
あの日私は生まれた。その日まで私は死んでいた。
ママは私が小学校に上がるくらいに、自殺した。それも家のお風呂で理由はわからなかったけど、今ならわかる。私も今、同じ気持ちだから。
パパは私の頸をしめるのが好きみたい。頸を絞められると頭がぱちぱちしてぼーっとする、酸素が脳みそに行ってないかららしい、それからすぐ私は気を失う。いつものそれが始まる前に前もってお守りを飲んでおくことで苦しみなんてない。それどころか気持ちいいくらい。ほんとはまりそうなくらいに。あのまどろみの感覚は脳みそが解けるような感じがして、途方もない眠りと快楽に落ちる。
朝、身体を見るといつもびっくりする。
よくもまあ自分の娘にここまでの仕打ちができるモノだと。でもこの痣のどれもがパパからの愛の証だとわかると嬉しくなる。体も何だかよくわからない変なにおいの液体で汚れていることがあるのでシャワーを浴びて、洗濯機を回して、眠っているパパを起こさないようにこしょこしょ声で「いってきます」といって学校に向かう。
学校まではそれほど遠くなくて、10分ぐらいでつく。その10分間が私はたまらなく好きだ、だって里香ちゃんに会えるから。里香ちゃんは私の二つ上の3年生だけど小学校からの友達でいつも私のことを引っ張っていってくれる。
そんな里香ちゃんの事が私は好きだった。
里香ちゃんには、彼氏がいるから両想いではないけど。
一緒にいられたらそれで幸せだった。妹扱いで十分だった。
「うつむいてどうした?顔暗いぞ!朝なんだから元気だしな」
「そんな元気なんて出ないよ。朝だし。」
というと里香ちゃんは私を抱き上げて学校へと走りだした。
放課後に家に遊びに行くとだけ言われ分かれる。いつもなら幸せな今日はここまでだけれど今日は家に里香ちゃんが来る。それだけで一日が明るくなった気がした。
教室ではいつも一人で、雲を数えたり、持ってきたあまり明るくない小説を読んで過ごしている。
つまらない6時間が終わり家に帰る。
一緒に帰ろうなんていってくる人もいないのですんなり帰れるので楽だ。
家に帰るとこの時間にいないはずのやつがいた。奴は私を見るなりただでさえ大きな目を猛禽類みたいに鋭くして私の方を見つめている、その目が、口がくしゃっとなる。
この顔はいつも夜中に見る顔だ、私はまるで蛇に睨まれたみたいに体が動かなくなった。震える私の両手をパパはひもで縛る、こんなことを毎晩されていたのかと思うとさらに動けなくなった。今お守りはない。病院に行かないとなんて思い私はただ震えるばかりだった。縛り終わると。そのひもで私の頸を絞めてきた。いつものような多幸感はない、ただ痛くて苦しいだけ、息を吸おうとするがうまくいかない。気が遠くなることもなくて、私は気絶せずに初めてパパから愛される。ただその愛は泥の様に汚く気持ち悪いものだった。パパの性器が私に入る。感じたことのない嫌悪感でいっぱいの脳みそを吐き気が襲った。この匂いは、毎朝私についている謎の液体の匂いだ。遊園地に一緒にいったときよりも、水族館に行った時よりも幸せいっぱいみたいな顔したパパとたった今地獄に落ちた娘の顔は綺麗な対比になっているんだろうななんて考えながら。そういえば里香ちゃんが来ることを思い出したが、こうなってしまってはどうしようもなかった。しゃべろうと声を出すと、腹を思い切り殴られて、胃液とドロドロになった給食があふれ出てきて止まらなかった。ふと玄関の方を見ると、里香ちゃんはすでにきており、立ち尽くしていて泣いて震えていた。
あんなに頼もしく見えたあの子がこんなにも弱く見えたのはこれが初めてだった。
私がその少女に助けを求めるとこの男はそれに気づいたようでまた私を殴る。誰がいたと聞かれたが答えない。これが私にできる精一杯の抵抗だった。口の中は血の味がした。
その時が来るまで私はこの人の皮をかぶった化け物に殴られ続けた。やがて意識は飛んだ。
人を殺したのは初めてだった。殺したのは、妹みたいに思っている、親友のさえのお父さんさえはそいつに虐待されていて、私は最初その場で見ていることしかできなかった。さえが助けを求めるまでは、すぐに私は走り出した。自宅から、玄関にあったトンカチをもちその場に戻った。あのクソおやじはまださえに夢中でまだ首を絞めていた、手を力なくぶらぶらさせているさえが目に入ると私の中で何かが切れた、奴の頭めがけてトンカチを振り下ろした。当たり所が良かったらしく気絶してくれた。気絶したこいつを私はキッチンにあったさえのものかと思われる包丁で刺した、初めて人を刺した。気持ちの悪い感覚だった。
首をさすがまだごぽごぽとしていて息があったので何度も刺した。
気が付くとあたりは真っ赤ですぐに罪の味が口いっぱいに広がった、気持ち悪さに耐えきれずに血だらけのフローリングにぶちまけた。吐いていると、さえが目を覚ました。
気が付くとあたりは真っ赤だった。フローリングの隙間をアリが這うように血が流れた。ちいさく何かぶつぶつ言う声が聞こえた、ぐちゃぐちゃに汚れた里香ちゃんが包丁を持ってうなだれていた。フローリングを這う血の始発点には、パパだったものが転がっていた。
私は泣いた。
包丁を持っている里香ちゃんにすり寄り抱きしめてまた泣いた。
その包丁を取り上げて私はパパを刺した。
「これからどうしよう」
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