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毎日泊って大丈夫と僕が聞くと君は当たり前のように大丈夫と笑った。
僕らは、似た者同士だった。だからこうやって心地いい関係を築けたのだと今では解る。心臓の脈動と蝉の声が響く、病室で僕らは眠った。
僕の命はあと一週間、そのことは彼女。さやかには伝えていない。僕らは、部活の先輩後輩で、帰宅部だらけの美術部の唯一の生き残りだ。半年前僕が倒れてから毎日お見舞いに来てくれている。部活の代わりみたいなものだと笑っていたけれど僕はそのおかげで卑屈にならずに済んだ。もう足もまともに動かなくなって、すっかり車椅子も体の一部になりつつあった。いつもさやかは車椅子を押しながら今日あったことを話してくれる。その思い出の隣に僕がいられないことに酷く嫉妬と悔しさを覚える。これから先もずっと一緒にいられたらなあという思いが彼女と触れ合うたびに込み上げてくる。
死の恐怖からかこんな夢も見た。アイスピックで心臓を突き刺される夢、それも後輩ちゃんに病気で死ぬくらいならさやかに殺されてしまいたいなんて一瞬でも考えた自分に嫌気が刺したのを覚えている。
ある夜さやかは頸を絞めてくれないかと懇願してきたことがある。そうすればよく眠れるらしい。それがあまりに必死だったから断ることなんてできなかった。彼女の頸は細く、白く力をこめればすぐに折れてしまいそうなほどに未発達で未熟だった。精神的な弱さももちろん目立つ、同じ病院のカウンセリングの後来ていて毎日来ることができているのはこれのおかげだろう。本当、僕がいなくなった後のさやかが心配で心配でたまらない。ああもっとずっと一緒にいたいなぁ。
看護師に押され、売店に来た。買うものは決まっている、いつも通り枝豆とタコの入ったバジルソースのサラダとエビマヨおにぎりこれがコンビニでは一番おいしい、病院の売店にこんな高カロリーのものがあるのはどうかと思うが。こいつらがいなければ早々に病院を抜け出していただろう。
不意に、日記を部屋に置きっぱなしにしたままだったことを思い出す。もうさやかが来る時間だ。早く部屋に戻らなければ。車いす初心者の僕に急ぐことなんてできずに、部屋に着いたのは彼女が遺書ともとれる日記を読み終えてからだった。
「先輩の病気って治らないんすか、一週間って、あの時わたし先輩のこと考えずに、」
大粒の涙を流し、立っていることすらままならない様で僕の服で涙を拭くかわいい可愛い後輩を目の前にして僕は胸が熱くなった。
あの時というのはきっと彼女の死生観に触れた時だ。実際僕もその通りだと思ったし気にしてはいないのだけれど、サヤカにとっては一大事らしい。
その詳細はこうだ。
「若いうちに死ぬ人ってなんか羨ましく思っちゃいます。だって自分がおばさんになって醜く老いていく様子を周りにも、自分自身にも見せなくてすむじゃないすか。どう思います?先輩。」
いきなりそんなこと言われたときはもちろんムッとした。だけど少し納得しかけたけれどそんなのはやっぱり間違ってる。
「それはまあ一理あるかもだけど僕は醜く老いてもいいから長生きしたいなあ、世界中の食べ物を食べ尽くすことが夢だからね。」
それを聞いた思い出の中のサヤカは見たこともない変な顔をしている。それを見て僕は確かに笑えていた。
酷い顔で泣いているサヤカに思い出に浸りながらも伝えるべきか迷っていた言葉を投げつける。
「その日記書いたの実は一週間前なんだ。」
それを聞いたサヤカはよりいっそう縋りついて、周りの目なんて気にせずに泣きついてきた。
「じゃあもう、すぐ死んじゃうってことっすよね。嘘ですよね。嫌です。一人にしないで。やっと親友ができたのにそんな酷いですよ。先輩一人勝ち逃げなんて。」
「ごめん、言えなくって。言えないよそんなの、悲しんでる顔見たくなかったし、楽しい話だけしてたかった。まあもう遅いか。」
ぼくらは結局心のどこかで孤独でどこか満たされないやるせなさをいつも感じていた。そう感じていたのは彼女も同じだった。
そのあと日付が変わった直後0:00分に先輩の心臓は止まった。私はまだ先輩を感じていたくてその場でナースコールもせずに先輩の綺麗な寝顔を見つめながら、止まった鼓動に耳を傾けながら静寂に塗れた病室で、私は眠った。
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