キャラクターズ

気が付くと私たちは少し霧の立った星のきれいな丘にいた。そこには建物は地方鉄道が止まるような駅と賽の河原の石がまばらにあるばかりだった。いつも元気なナナちゃんとゆめちゃんが手を繋いでぶるぶると震えている様子は少し滑稽だったが、ソラちゃんは相変わらずで、「そうこわがらんでもよいよい、わしが先頭に行くからの、後ろをぴったりついてくるんじゃよ」その一言でみんな少し落ち着いたようで駅に向かって歩くことにした。積んである石を崩すとまずそうな雰囲気があったので避けて歩いた。ソラちゃんはその石が気になる様で5つほどその積石を通り過ぎたあとついにこらえきれず蹴とばしてしまった。長く生きていてもまだ子供なんだなあなんてのんきなことを思っていた。すると次の瞬間、ソラちゃんの右足と左足、左手、右手は何かにちぎられたように切断され、地面に落とされた。その落ちた四肢でまた石を倒してしまい次は心臓をつぶされた様でソラちゃんは鼻と口から大量の血をごぽごぽと音を立てながら吐き出していた。心配させないよう強がって笑っていたがかなり苦しそうだった、べつの石の効果で肺を潰されたらしく息を吸う音が何だか普通じゃなく息を吸おうとすると血もすってしまうのでほぼ溺れているような状態で痛ましかった。顔色も悪く目もうつろで心配だった。でもソラちゃんはかすれた声で大丈夫だからといいしばらくふらふらと歩いたあと、気を失った。気を失ってからも脳と胃、腸、子宮、肝臓なんかをまとめてスムージの様にシェイクにされているらしくおしっこをする穴とおしりの穴からよくわからない色の液体が絶え間なくあふれてきて、私たちはパニックになりながらも泣きながら来ていた服やハンカチでソラちゃんの顔を拭いたりあふれてくる体液をふき取ってあげた。ふとナナちゃんがカッターナイフを持って「出てきてる液体が本当に内蔵なのか見てあげたほうがいいんじゃないかな」なんて意味不明なこと言ったので私たちはパニックだったこともありソラちゃんの腹にメスを入れた。ソラちゃんの悲痛な声に耳をふさぎたくなりながら。腹を切り開けると中は空洞の様になっており見たことのあるあの赤黒い液体がたまっていた。ゆめちゃんが「この液体出しちゃった方がいいよね」と言ったのでソラちゃんを仰向けにしてゆすってあげた。三人血まみれになりながら。空っぽになったお腹の中を覗いていると、少しずつ再生しているのが分かった。その間もソラちゃんはかなりつらそうにうなされていたが、三人はほっとして石を倒さないように静かに喜んだ。30分ほどたつと手足はすでに生えそろい、内臓も治り心臓の鼓動も弱弱しいが戻ってきた。切った腹の隙間から少し内臓が見えていたのでみんなで喜ぶと同時に本当に人間とは別の生き物だと思い知らされた。それを本人に伝えることは絶対にあってはならないが、少し怖かったのは事実だった。それから2時間ほどで腹の傷も完全に消えて、脳の損傷も完全に治ったらしくやっとの目覚めだった。

「ここはどこじゃ?おぬしらは誰じゃ」

「クウは蹴鞠をしておったはずじゃが、母上、父上どこじゃ」

今にも泣き出しそうなソラちゃんを3人で子供をあやすようにして落ち着かせて少し遊んであげた。遊び疲れて眠ってしまったこの子の状況を3人で話合った。おそらく脳をシェイクされたことによる記憶喪失だろうということでまとまった。


親指を吸いながら眠っているこの子は今はソラちゃんではなくクウちゃんなのでそう呼ぶことにして、また石を倒してしまうと大変なのでゆめちゃんがおんぶをして連れていくことになった。

ゆめちゃんが眠っているクウちゃんを起こさないようにおんぶして、また駅に向かう。ふと空を見てみると星の位置が変わっていないことに気づいた。ここはずっと夜らしく時間の流れからは隔絶された空間の様だった。駅に着いた頃やっとクウちゃんが起きた。

「ここまでおぶってくれてありがとう。あの父上たち、どこか知らんかのこんな烏帽子をかぶっとるんじゃが」手でジェスチャーをしながら説明してくれた。

「ごめんねみてないや。」

とゆめちゃんが答えた。

「そうか。ところでおぬしら名は何というのじゃ?」

「わ、私はなな。」

「ゆめ、よろしく」

「もえですよろしくお願いします」

「うむ!みなよいなじゃの」

ソラちゃんの素直さは生来のものなんだなあとひしひしと感じ、記憶喪失でも変わらないなと安心した。このまま記憶が戻らなくても4人仲よくしよう、そう思った。


「ところでこれは何をしとるんじゃ」

「待ち合わせをしているんだよ」

「何のじゃ?」

「電車」

「でんしゃとはなんじゃ。それとこの賽の河原のような風景はなんじゃ。ここは地獄か何かかの?」

「電車っていうのはね簡単に言うと人がたくさん載れるかごみたいなものだよ」

「そうか!そんなものがあるんじゃな」

少し疑いながらもクウちゃんは納得した。

「それとここは多分きさらぎ駅で電車が来てもその電車も何らかの怪異である可能性がある、さっきソラちゃんが死ぬことになった石も多分別の怪異だし、この空間のものはすべて怪異だと思ったほうがいい」

「そ、そうだね安心してたけどま、まだ安心するのは早いんだよね。」

「とりあえず電車には乗ろうここはさすがに危険すぎる」

「少し賭けだけどここにずっといるよりは希望があるよね」

そうこうしているうちに電車がやってきた。

乗客はおらず古びた車内は少しかび臭い。蛍光灯も一部切れかけている者もありなんだか懐かしさを感じる空気だ。

アナウンスで「きさらぎを超えますと次は“■■■■”です」ということを聞き本当にきさらぎ駅だった答え合わせがされた。


電車の中で次の駅に泊まるまで各人は少しの取り決めをしてからだべっていた。

それは絶対に終点まで乗らないということだった。怪異が重複していることもあるのでこの列車が何者でも終点まで乗るとさすがに危険だということで、降りれそうな駅があれば降りるということだった。ゆめちゃんとくうちゃんは短期間であったが親子の様に仲良くなってクウちゃんを膝にのせて話している。ナナちゃんはショックで独り言を言いながらリストカットをしている。かくいう私はこの列車の正体について、この空間からの脱出、ソラちゃんの事などを考えていた。

 アナウンスが聞こえる「まもなく切り裂き~切り裂きです。切り裂きに着きましたら次は■■■に止まります」

また次の駅が聞き取れなかったがそれは皆そうだった。

この怪異については有名過ぎてみんな知っているだろう。そうあれだ。これが夢だったら脱出することも叶っただろう。だがこれは夢ではなく現実だ。

駅に電車が止まり扉が開く。電車に80cmほどの鎌をもった猿が入ってきた。

ドアの方にいた私は左手と太ももを切り裂かれた。致命傷ではない。みんなは無事だろうかあまりに急な出来事で自分の事で精一杯だった。幸いどこも切り落ちてはいない。

痛みに耐えつつみんなの方を見るとななちゃんは右肩を怪我していたが持っていたカッターで一体仕留めることに成功していた。でかした!とガッツポーズをした。右手が痛んだ。

ゆめちゃんとソラちゃんに関しては心配する間もなく無傷で二体仕留めていた。鎌を三本手に入れた私たちは、次の襲撃に備えた。

ゆめちゃんが心配して「こっちに座ったほうがいいよ」と言ってくれた。私は足を引きずりながら席移動した。たまたま救急箱を持っていたナナちゃんと手当てをしあった。

ゆめちゃんは持っていた塩分チャージのラムネをソラちゃんにあげている。ラムネをもらってうれしそうにしているソラちゃんは年相応で私たちと変わらないように見えた。

またアナウンスが聞こえる「まもなく首絞め~首絞めです。首絞めに着きましたら、次は終点はいのまえに着きます。お乗り換えの方は4番線に到着の◆◆方面■■逝きにお乗り換えください。

終点のアナウンスが流れたが、まともそうな駅名で少し安心した。

駅に着くとまた先ほどの様に猿が入ってくると思いきや、違った。最初に乗り込んできたのは烏帽子をかぶったこの時代に似つかわしくない格好の男だった。次は私の両親、ゆめちゃんのおばあちゃん、ナナちゃんのお父さんだった。

一瞬、フリーズした。なんでこんなところに迎えに来てくれたの?パパママ。容赦なく襲い掛かってくるそれは私たちの頸を容赦なく締めた。あまりの苦しさに気を失いそうになる「パパママ、痛いよ」

それが本物でないことなどわかっていた。でも両親と同じ見た目の生き物を殺す事なんて私にはできなかった。「お、ばあちゃん」苦しそうなゆめちゃんの声「う、う父上はクウが嫌いなのですかやっと会えたのにこんなひどいです」ソラちゃんは結構余裕そうだったが精神的苦痛は計り知れない。

ナナちゃんは持っていた鎌で首を絞めてくる幻影を倒していた。ソラちゃんも手を少し強く降ったら退治できてしまったらしく泣き叫ぶような声で父上、父上と繰り返していて見ていられなかった。だらんと垂れるゆめちゃんの手足を見て私も気を失った。

心配そうなささやき声が聞こえる。

目覚めたのは灰の前の駅のベンチだった。肺の前は東京駅や京都駅、金沢駅のような巨大な主要都市の駅の様でさっきまで見ていた風景とは打って変わり、大都市らしかった。いきなりそんな都市に来たものだから私も、みんなも修学旅行みたいだねなんて呑気なことを言いながら駅から出ると、町の異様さに驚いた日本的な都市ではなくソウルや上海の様でまたタイムズスクエアのような広告がありどこか未来的な、かつ懐かしさも感じるようないびつな風景だった。

ゆめちゃんが言った。「町だしエレベータがあるかもね」「そ、そうだね」「えれべーたー?」

「あるといいね」

私はゆめちゃんの言っている意味が分かっていた。あれをやるのだなと、少し歩いていたがどうも異様だった目医者が少し多いそのほかにはここも少し霧がかかっているようで遠くの方が見づらい。お腹がすいていたので飲食店を探しながら、ソラちゃんが間違えて押すのを危惧してジャスト10回のビルを探す。飲食店は見つかった。懐かしい感じの定食屋で今時珍しい食券式だった。店員さんに食券を渡して待っていると、当たり前のことに気づく店員さんがいるのだ、駅から一人も見かけることのなかった生きた人間がここに。店員さんが頼んだ定食を持って来てくれた。お礼をいって声をかけた「ここって何なんですか」、すると目を細めて笑い「どこなんだろうね」と一言、「知らないほうがいいよ知ったら戻れなくなる」と言われぞっとすると同時に、写真が飾ってあるのに気が付いた。定員さんは移っていなくて顔の部分が黒い靄のかかった穴のようなものが開いた人が4人映っていた。一人は店長らしい男の人、もう一人はその妻らしい女、あと一人は私たちよりすこしうえくらいにみえるセーラー服の上にエプロンを着た女の子」

「これって何なんですか」

「知らないほうがいいよ」

「この人たち居なくてお姉さん一人ですよね」

「私が来た時すでにこのうち一人しかいなかったよ」

「このセーラー服の女の子、いい子でかわいかったし一緒にいて楽しい子だったなー」

なんて懐かしそうに話す。

「あなたみたいな質問をこの子にしたんだ、したらお父さんとお母さんが突然いなくなったって。そのあとにこの家族写真を見たら二人の顔に穴が開いていて、自分の顔にも開いてたもんだから泣いちゃってね、まあ私も怖くなって一緒に啼いたし、一緒に寝たよね。次の朝起きると一緒にねてたはずなのにいないの、慌てて外に出ると助けてって声がしたのよその声の方が路地裏の方から聞こえることに気づいた私は走ったねそれももちろん全力であの子のことは好きだったし、一人は嫌だったからでも見つけたときには手遅れだったよ。床に穴が開いていたんだけどね溶けていたんだよ、彼女、ドロドロすぎて一瞬理解できなかったよ。でも傍にスカーフが落ちてんのよもう理解するしかないよね。多分誘われるんだろうねその穴に彼女の両親もそこにいる、私もあぶない。今少し行きたくなってるよ。次に会うことはないだろうね。だから君たちも早くこの街を出たほうがいい。一刻も早く。」

「お姉さんも行きませんか。実はここのほかにも別の世界があって今帰る準備をしているんですよ」

「あーダメダメ君たちは同じ世界の住人でしょ私はここの世界の人だからね。やろうとしていることはなんとなくわかるよ。それは私といたら失敗する。もう穴に魅入られちまってるから。いけないごめんね」

なんてことを飄々とした様子で言った。そしてレジにある椅子に座りたばこをふかしていた。


みんな定食を食べ終わり、レジに向かう。

全員でおいしかったと伝え、最後に一つだけ聞いた。

「十階建てでエレベーターある建物知りませんか?」

「ついておいで。」とお姉さん

ついたそこは偉くさびれた色んなテナントが入っていたであろう雑居ビルだった、いかにもなビルを進みエレベーターを見つけた何とか動くことは確認できたが途中で止まったりしないかだけが心配だった。

「ありがとうございました」

「あ、ありがとうございます」

次に扉が開くとそこはもうよく知った町だった。

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