愛と金~プリズムアイのエンゲージリング~

神音色花

「愛している」

ひゅー、ひゅーと呼吸として機能していない息をしながらぼやける視界の先には、愛する彼が、彼女が横たわっていた。


雨に打たれすぎて冷えきった皮膚は全てが青白く、相反して鮮血で塗られた唇のちぐはぐさに胸が締め付けられる。


「フィー、フィー、、」


いつぶりだろう何年も呼んでいなかった二人で恥ずかしがりながらも決めた愛称を口にする。

少し焦点が合っていない瞳でこちらを見る彼女の胸には馬車の破片が胸に深々と突き刺さっている。仰向けに放り出された四肢は力無く投げ出されていた。

今すぐその体を抱き締めたいのに体が言うことを聞かない。上半身を無理やり動かして愛する彼女に這いずり寄る。


「ルー、、」


切り傷まみれの彼が腕だけでこちらに近寄っている。切り傷から止めどなく血が流れ、片足が折れているのが見てわかる。彼の為に用意したハンカチで応急手当をしたいのに体が動かない。

こんな悲しいことなんて無いわと涙が目にたまる。


あんなに憎んで、恨んで、勝手で、裏切られてもどうしようもなく愛していた相手。

嘘、今も愛している、恋い焦がれている、あなたというピースに当てはまるのは自分だけだと信じている。信じていたのにどうしてこんなことになってしまったのかと後悔が胸を苦しめる。

あの時あなたに聞けばよかった、言えばよかった、行動すればよかったことがたくさんある神の元に行くにはあまりにも悔しすぎる。




お互い当たり前だと思っていた。


言わなくても通じ合っていると思っていた。


最後には自分の元に戻ってくると信じていた。



終わりになれば分かる。



当たり前など無いのだと。


通じ合っていたのは言葉があったからだと。


自分の元に居て欲しいなら、努力することだと。



心は求めてたのに、感情で邪魔をして心を通わせなかったことを後悔してもしきれない。

お互いの左手が重なる。身を伸ばし額をくっつける鼻を擦り合わせて今度は口付けをする。甘い味がした口付けが今は血の味で夢見心地だったこの瞬間でさえ現実に押し潰されて、嫌で嫌で涙が溢れる。


「愛してる、言えなくて聞けなくてすまない。遅くなって本当にすまない。」

「私、も、、愛、してる。疑って、ごめん、なさい。ごほっ、ちょっと、、臆病に、なってた、のね。私たち、、」


「戻れるのなら二人で乗り越えたい」

「重荷にならないように」

「足手まといにならないように」

「そんなこと思わせないように、二人で」


寂しい森の中、冷たい体に対して燃え上がるほどの愛の灯火を持った二人は息を引き取る。

その時、二人の左手にはめられたエンゲージリングの宝石が暗闇の中でキラリと光った。


-・-・・ ・・ ---- ・・- ---・- -・--・


「お、じょう、、ま!…お嬢様!!」


「はぁっ…!!!」


うまく呼吸ができなくて、胸が苦しい、寂しいともがいていた体は、息を思い肺に入れて目が覚めた。


「お嬢様、大丈夫ですか?!」


どっ、どっ、どっ、と早く脈打つ鼓動と重力がのし掛かる重い体、胸に突き刺さった木片は心臓と呼吸を塞き止めて苦しかったのに、苦しかったはずなのに体からその痛みは消えていた。でも、痛い。覚えている痛烈な記憶と正常の体は混乱を極めていた。

ベッドの上で寝具を蹴りあげて腕をさまよわせ体を身動ぎ痛みから逃げようとする。


「お嬢様!お嬢様!!フィブイお嬢様!!」


優しく抱きしめるように体を押さえてくれる彼女に振り上げた手や足が当たる。それでも怯まず抱きとめる彼女のお陰で段々と落ち着きを取り戻す。


ここはどこ?

白を基調にミモザのような淡い黄色をアクセントにした私の部屋だ。春先だからか肌寒く火照った体の末端から冷めていく感覚がある。体から汗と好きな香油の匂いがする、、、


呼吸を整え終わった私の体に傷など無い、疲労と吹き出た汗でネグリジェや髪が張り付き不快だが何もない綺麗なままの体にようやく正気に戻る。


「お嬢様、落ち着きましたか?」


「ブリギッド…」


「はい、フィブイお嬢様。」


頬が赤く腫れている。痛いはずなのにそんなことを感じさせないような優しい微笑みを向けてくれた彼女に「ごめんなさい…」と言葉を溢したと同時に涙が溢れる。

ああ、ブリギッド。殺された私の親友。


お願い、夢なら覚めないで。

 神よ、祝福をありがとうございます。


二度とあんな思いはしたくない

 神よ、私はこの試練に打ち勝ちます。


まず、、

「手当てをしましょう。」

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愛と金~プリズムアイのエンゲージリング~ 神音色花 @KamineIr0ha

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