これは、網元のところへ奉公に出た娘『みよ』が体験した、世にも畏ろしい物語である。 海辺の網元屋敷を舞台にした怪奇譚は、とある 言い伝え を背景に、息を呑む臨場感を以って進んでゆく。彼女の明るく前向きな行動が軈て底知れぬ恐怖を齎すのだが、その体験は、あまりにも悍ましい。 正体の定かでない『何か』に名を覚えられる恐怖。魅入られた彼女の心情に、読み手の感情が重なる。そして彼女同様に思うのだ。望みが叶う皮肉を。ひとは人であればこその者であると。