第09話 レイジ 更に登り詰める

「本当に我儘なお願いなんですけれど、来週も会っていただけませんか?」

「へっ?」


思わず変な声が出てしまった。


「ご迷惑でなければ、映画館とか連れて行っていただけませんか?」

「俺が?」

「はい。お忙しいですか?」


俺はブンブンと千切れんばかりに首を振った。


「ぜひ、ぜひ、是非。こちらこそお願いします」


エルの言葉は、俺が恐れていたような内容ではなかった。どういう理由かわからないが、俺はエルから映画に誘われた。すぐにスマホで近隣の映画館の上映スケジュールを確認する。


「どんな映画が観たいですか?」

「具体的にこれといったものはないんですが、均さんにお任せします」


具体的に観たい映画がないのに映画館に誘うって、だよね。


(いや、勘違いするな、舞い上がるな、冷静になれ、とにかく落ち着け)


オカルト、ホラー、アニメ...これはないな。

アクション、ラブストーリー...微妙。


「このコミカルな邦画はどうですか?」

「えぇ、楽しそうですね」

「では、また来週、ここで待ち合わせでいいですか?」

「はい、楽しみにしています」


そう言って、最高の笑顔を俺に残しエルが去って行った。

しかも、自分のジュース代をテーブルの上に置いて。



いったい、俺になにが起きているんだ。大きく息を吸い、自分を落ち着かせる。ふと目の前を見ると、彼女が飲んでいたジュースの空きグラス。ストローに薄っすらとピンクの口紅の跡。


思わず手を伸ばしそうになるが、ここから先に進んだら変態の領域。絶対にダメなやつ。俺は自分が過ちを犯す前に店員にグラスを下げてもらい、ランチを頼んだ。



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