第10話 レイジ 冷静に観察
先週のようにキョロキョロすることもなく部屋に帰った。むしろ、歩いているうちにスキップしそうになる自分を抑えたほどだ。まっ、それも傍から見れば怖いけどさ。
冷静になって考える。
エルとの時間は本当に心地よい。でも、どこか不安になるのはエルの本心や目的がわからないからだ。こんな関係にも、きっといつか終わりが来る。
その終わり方はどんなんだろう。
金銭かなにか要求されるのだろうか。それならそれでもいい。可能な範囲で応じても。でも、もしエルが犯罪に加担するようなことをしていたのなら、俺はこの体を張ってでも止めなければならない。
まっ、開き直ってしまえば単純な話さ。
でもね、エルは今まで俺に一度だってネガティブなことを言っていない。むしろ俺にとって、『有益』と言うと言葉が固いが、俺のためになる言葉、雰囲気で接してくれている。それは終始一貫している。それなのに、疑心暗鬼になって勝手に一喜一憂しているのは俺のほうだ。
理由はわかっている。
俺は偏差値50の平均男。それにひきかえ、エルはまるで天上人。『レべチ』からくる俺のコンプレックス。
それなら話は簡単さ。
俺がエルの前で言ったように、少しでもレベルの高い場所に自分の身を置いて、その中で偏差値50を目指せばいいのさ。
翌日、会社で仕事ができると言われている先輩の様子を観察した。
気遣い、心配り、しぐさ、表情、発声、それに身だしなみも。
以前からこの人のことはすごいなって思っていたけれど、改めてその理由がわかったよ。
なるほど。人への見かたや接し方を変えるだけでこんなにも世界観が変わるものなんだね。俺はこういう人の良さげな部分を盗んで自分のものにしてしまえばいいのさ。
(チャララ、チャッチャッチャ~ン♪)
脳内にファンファーレが鳴って『均のレベルが上がりました』なんて声が聞こえてきたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます