第46話十六夜の悪夢
でっかい熊の神獣(体毛に赤色が混じっているので神獣と判断)はゆっくりとこちらを向いてきた。
「...一応聞くだけ聞くけど二人はどうなっているの?」
『精神世界で足掻いているだろう』
「「喋れるんかい!」」
『貴様らも今送ってやろう《十六夜の悪夢》』
その瞬間私の視界は白い煙のようなものに包まれホワイトアウト状態になる。そして煙が晴れ。晴れたその先で見えたのは私が働いていた会社のフロントだった。
「ハーム!」
「っ! 咲、ここはいったいどこだい」
「ここは私が元の世界で通っていた会社。でもまさか帰って来たってわけじゃないわよね。さっきあのクマさん離兎達が精神世界とかどうとか言ってたし」
「そうだね。まず彼らを探したいのだがここは君の記憶の中って事かい?」
「まあそうね」
「だとすると急いだほうがいいね」
ハームが頭に片手を置いて何かを考え始めた。私は少し声をかけたが集中しているようで聞こえていないようだ。
「どちらもこちらの時間でどれほどたったのかはわからないが行くよ。空間の裂け目を探すんだ」
「お願いだから一度説明をお願い」
「走りながら行くよ。まずあのクマがやったのは《十六夜の悪夢》というスキルでこれは現実世界の32倍の速さで時間が進む精神世界に相手を閉じ込める」
「それの何が急ぐ理由になるの?」
「それは32日、現実世界だと半日程度だな。過ぎた時から悪夢を見ることになるからだ」
「それだけな「そうじゃない。精神の中で頭の中に永遠に心無い言葉を吐き続けられたり友達や家族、親しい人たちから追い詰められ続ける」
「...ならルナちゃんを優先したほうがいいわね」
彼女は配信者だった。その分カメラの向こうから匿名という力を持った屑共が心無い言葉を吐かれることもあっただろう。その時は大衆のファンにアンチはもみ消された。でも今回は守ってくれるファンはいない。その分彼女への心のダメージはとても入りやすいだろう。
「離兎の方はどうだい?」
「わからない。離兎自身があんまり昔の事を話さないから」
分かっているのは英語が上手なこと。電車に引かれてこっちに来たこと。それ以外は分からないし覚えてない。そう考えると私って全然離兎の事知らない。
「あった。ここだ」
ハームが何もないところを触り始めた。
「? あれ、これより先に行けない」
「君の記憶がこの先はないんだ。これは君の記憶をもとに作られているからね」
「なるほどね」
ハームが透明な壁を殴り始めた。
「え?」
「こうして時空を歪ますんだよ」
「なら巨大な質量ドーン!」
私は即座に大きめのトンカチの形なものを作り出し透明な壁にぶつける。と、同時に私は胸にとてつもない痛みを感じた。
「あが、「ダメだよ! 君が攻撃をしたら。僕以外が攻撃したらその人の精神を痛めつけることになる。だからここは僕に任せて」お、お願い」
ハームが何度も力を込めて透明な壁を殴ることで空間が歪んでどこか知らない場所の風景が見えた。私は反響しつづける痛みに堪えながらもその風景に跳び込む。
「ここ、は?」
「わからないよ。ただ今は彼らを探そう」
「ええ。でも、ちょっと休ませて。今のままじゃまともに動けそうにないの」
「分かった。じゃあ僕は少し探してくる。君はここで待っていていくれ」
ハームの後ろ姿が遠ざかっていく。私は近くの壁にもたれかかり休憩をとる。
それにしてもここはどこだろうか。どこかで見たことがあるようにも実際に行ったとかではなくネットで見たとかそういったものだ。恐らく日本じゃない。アメリカ? 周りの人たちは英語をしゃべっているように聞こえる。
「離兎、一体どんなところで過ごしてたの?」
思い出した。ここはアメリカのニューヨークだ。なんたらタイムズだったかスクエアだったかの名前があったと思う。離兎はアメリカに住んでいたという事が新たに分かった。
「...そろそろ私も探しに行こうかしら《飛翔》」
私は空に浮かび上がりハームのもとに行く。彼はかなり分かりやすい見た目なので早めに見つかってくれるとありがたい。
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