報い
荒れ地に囲まれ、崖を背にした掘っ立て小屋が俺の住まいだ。今は俺一人で住んでいる。周囲に人の住む家はなく、一番近い村はここからだと歩いて半日はかかる。
そんな俺の住まいに客が訪れた。珍しいことだ。
俺は扉を開け、客人を出迎えた。客人は目が合うと眉を潜めた。
「俺は王の使いだ。――プルコはいるか?」
「プルコは俺だが?」
男が一瞬驚きに目を見張ったのを俺は見逃さなかった。彼はしかしそれを誤魔化すように咳払いをした。
「あの日、お前は何をした?」
「
「ここでいい。質問に答えろ」
男は冷たくそう言うと俺を睨んだ。
「俺は棺を押し、そして橋を渡った。そして向こう岸で、前回の棺と交換し、引き返してきた。全ては命じられたことだ」
「それだけか?」
「それだけだ。王の名に誓う」
男は探るように俺の目を覗き込んだ。俺は身じろぎせず、その視線を受け止めた。
「
「俺はそもそも何も知らず橋を渡った。あそこはなにもかもが不自然だった」
「それもそうだ。質問を変えよう。――
「いない。あの日、橋を渡ったのはサマイノと魔術師と俺だけだ。俺は重い棺を運ばねばならず、サマイノは視界を完全に妨げられ、歩くことすらままならなかった。魔術師は深い眠りについていた。――なにか余計なことを企む余裕があるものなど一人もいなかった」
俺が邪険に言い放つと、男が小さく舌打ちをした。
「その他の人間は見なかったか?」
「見ていない」
俺の言葉に、男は大きなため息をついた。沈黙が流れる。
「一体、何があったんだ?
俺は沈黙を破り、男にそう訊ねた。男はめんどくさそうにまたひとつため息をつくと、口を開いた。
「
「どういうことだ?」
「戻ってきたのは……――ヴォレト王女だ」
俺は絶句した。
「馬鹿な。そんなはずは……」
言葉に詰まった俺をじっと男は見据えた。俺は肩をすくめた。
「魔術師は確かに蘇生した。しかし……」
「――俺と一緒に城に来てもらおう」
「逮捕か? この一件について俺に過失があると責めるのか?」
「もちろん違う。――お前に
男は淡々とそう言い放つと、顎で外を指し示した。俺は素直にそれに従った。
*
「ゆっくり歩いてくれ。身体が思うように動かせないんだ」
数歩先前をいく男の背中に俺は声を掛けた。男は無言で立ち止まった。
「――あれは……?」
男に追いつくと、遠くに見える城郭都市を指差し、俺は訊ねた。一角で白い煙が数筋ほど上がっていた。
「暴動だ。――ただでさえ、前の時代は天の祝福から遠く、王国とその国民は苦境に立たされていたのだ。今回の
「――俺は殺されるのか?」
「言っただろう? お前は逮捕された訳ではない。誰もお前を裁こうという者はいない」
「お前たちはそうかもしれない。しかし、
男はじっと俺の方を見た。そして
「心配するな。今のお前をあの時の棺持ちだと気がつく者はいない。――いずれにせよ、お前はもう十分な報いを受けている」
男の声の調子には、どこか同情めいた響きがあった。俺は無言で、自分の節くれ立った両手を見た。
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