王女
救世主
私は、宮殿の渡り廊下から、中庭を眺めていた。噴水の水が、春の陽光をきらきらと反射させていた。
二人の少年が中庭を掃除していた。
始めは二人ともそれぞれの持ち場を黙々と掃除していたが、ふとしたきっかけで口論が始まった。遠いのではっきりとは聞こえなかったが、おそらく一方の少年が「自分の持ち場は落ちている枯れ木や枯れ葉の量が多いから、平等な割り振りじゃない」と不満を言っているらしかった。
口論は熱をおびていく。そして間もなく二人はエタ・ロンドで問題を解決することに決めたようだ。
二人は、黒い石と白い石を離れた位置に置き、そしてその間に十本の木の枝を等間隔に配置して、円を作った。
「プレタ!」
「プレタ!」
リズミカルな掛け合いが始まる。二人はゼンマイ仕掛けの人形のように、一定間隔で進んでは立ち止まるを繰り返す。
なかなか決着がつかなかった。
次第に二人の集中力は切れていく。リズムが早くなったり、遅くなったりする。――そして気がつけば、二人は石の周りぐるぐると走り回り、追いかけっこを始めていた。掃除なんてそっちのけだ。
私はそののどかな光景に思わず、くすりと笑った。
自分の幼少期を思い出す。エタ・ロンドは多くの場合、かなり時間がかかる。私自身も最後までやりきった経験は数えるほどしかなかった。始めたはいいものの、途中で言い争いのことなどお互いにどうでもよくなり、別の遊びが始まることが常だった。
「――姫様」
不意に声を掛けられ、私はそちらを振り向いた。侍女官が深々と頭を下げ、立っていた。子どもたちの
「セルヴピエダ、今日くらいは昔のように私を名前で呼んでくれないの?」
私は彼女に微笑みながらそう言った。セルヴピエダは物心がついたときから私の身の回りの世話を担当していた。
「姫様、お名前をお呼びするのは畏れ多いことですが、しかし御心のままに。――ヴォレト様、そろそろご準備を」
セルヴピエダは静かにそう私に告げた。私は小さく頷いた。
「行きましょう」
そう言って、石造りの渡り廊下を聖堂に向かって歩いた。一歩ほど置いて、セルヴピエダが私に従う。
「――このごろ、なぜかよく思い出すことがあるの」
「なんでしょうか、ヴォレト様」
「セルヴピエダ、覚えていない? 怪我をした小鳥のこと。――羽が片方、折れていた小鳥」
しばしの沈黙のあと、セルヴピエダは私に答えた。
「よく覚えております。六年前――ヴォレト様がまだ十歳のときでしょうか。ヴォレト様のお部屋のバルコニーにその小鳥は転がっていました」
「あまりに動かないから、二人とも、もう死んだのだと思って、一緒に土に埋めようとした」
「そうですね。――しかし、ヴォレト様が抱きかかえ、庭に出たところで、その小鳥は小さく鳴きました。とてもか弱い声です」
私は思い出に目を細めた。
「あの小鳥は今、どうしているのでしょう?」
「――まだ、眠っているのではないでしょうか?」
そのまま私たちは沈黙した。
間もなく、聖堂に辿り着いた。セルヴピエダが前に進み出て静かにその扉を開けた。
「あの男の子は誰だったの? ――小鳥を生き返らせる、と言って私から小鳥を預かったあの子」
私は、セルヴピエダの前を通り過ぎるとき、彼女に静かに訊ねた。セルヴピエダは何も答えず、ただ俯いていた。
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