エタ・ロンド
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罪人
エタ・ロンド
「あれはなんだ? 何をしている?」
俺は手錠が掛けられた腕を伸ばし、城の中庭を指差した。円を描くように等間隔に並べられた石の周りを二人の子どもが掛け声とともにぐるぐると回っている。
「なにって、エタ・ロンドだろ? プルコ、お前やったことがないのか?」
俺の腰紐を握っていた兵士があくび混じりそう答えた。プルコは俺の名前だ。裁判はなかなか始まらず、俺たちは待ちくたびれ、暇を持て余していた。
「知らない。エタ・ロンドとはなんだ?」
俺が説明を求めると、兵士は、エタ・ロンドについて語り始めた。
「エタ・ロンドは子どもの遊びだが、言うならば占いの一種だろう。
エタ・ロンドには石が全部で十二個必要だ。そして種類は三種類。一つは黒く、そして一つは白い。残りの十個はレンガの破片を用いられることが多い。黒い石と白い石以外は特徴がないものであればなんでも良い。
黒い石は、時計でいうところの六時の位置に、そして白い石は十二時の位置、その他の石はそれ以外の数字を埋めるようにして置かれる。
エタ・ロンドは二人の子どものうち一人が黒い石の横に、そしてもう一人が、白い石の横に立つところから始まる。黒い石の横に立つ子どもは円の外側に、白い石の横に立つ子どもは円の内側に立たなければならない。
最初の掛け声は『プレタ』だ。白い石の横に立つ子どもが『プレタ』と言い、少し
テンポを崩さないよう、次の発声が行われる。それは二人同時に行われ、二人には三つの言葉を選ぶ選択権がある。その三つの言葉は〝シュトノ〟〝トンディロ〟〝パペロ〟だ。
〝シュトノ〟は〝トンディロ〟に勝り、〝パペロ〟に劣る。〝トンディロ〟は〝パペロ〟に勝り、〝シュトノ〟に劣る。〝パペロ〟は〝シュトノ〟に勝り、〝トンディロ〟に劣る。このように、それぞれの言葉は三すくみの関係にある。
要するにじゃんけんだ。
『プレタ』『プレタ』のあと、例えば、黒い石の子が『シュトノ』と言い、白い石の子が『トンディロ』と言った場合、黒い石の子の勝ちとなる。この勝敗によって、次の動きが決定される。
じゃんけんで勝った子どもは、三つ分、石を移動する。つまり、黒い石の子が勝者であれば、六時の位置から、九時の位置に移動することになる。
一方で負けた子どもの移動は石、一つ分だ。先の例の場合、敗者は白い石の子なので、白い石の子が十二時の位置から、一時の位置に移動することになる。
もしあいこだった場合は、二人とも二つ分石を移動する。
次の石に移ったら『セクヴァンタ』と声を上げなければならない。但し、最後の石では『セクヴァンタ』の代わりに『ハルティス』と言うことになっている。
つまり、じゃんけんに勝った者は、石を渡り歩きながら『セクヴァンタ』、『セクヴァンタ』、『ハルティス』と言い、負けた者は隣の石に移って『ハルティス』と言うわけだ。
あいこの場合は、双方隣の石に移り『セクヴァンタ』と言ったあと、さらに隣の石に移り『ハルティス』と言ってその石にとどまる。
二人とも移動が完了したら、白い石の子が再び『プレタ』と唱える。そして黒い石の子が『プレタ』と答え、じゃんけんが行われる……――このようにじゃんけんと移動を何度も繰り返し、円の周りをぐるぐる回るのがエタ・ロンドだ。
基本ルールは以上の通りだが、例外が三つある。
まず一つ目は、二人の着地点が重なるときだ。その時はあとから来た者が、――すなわち、じゃんけんで勝った者が――ひとつ多めに石を移動し、二人が同じ石で止まる事態を回避する。要するにこの時だけは、勝者は四つ分の石を移動しなければならない。
次に二つ目。白い石の子は、最初の一周では黒い石を飛ばすことになっている。黒い石を横切る時はひとつ分移動を増やし、黒い石で立ち止まってはいけない。繰り返すがこのルールは一周目の時だけだ。
そして三つ目の例外は、移動の最後の石に止まったときの掛け声だ。先ほどは『ハルティス』と言わなければならない、と説明したが、黒か白の石で止まったときだけは『ハルティス』ではなく『フィノ』と言う。そして二人ともが『フィノ』と言ったときエタ・ロンドは終わる。どちらかの掛け声が『ハルティス』であれば、エタ・ロンドはそのまま継続する。
ところで、エタ・ロンドには二つの終わりがありうる。
一つ目は黒い石からスタートした子が、黒い石の横でエタ・ロンドを終える状況だ。その場合、白い石から始まった子は白い石の横に立っている。
二つ目は逆に、始まりは黒い石だった子が、白い石にたどり着き、白い石から始まった子が黒い石にたどり着く状況だ。
いずれせよ、黒い石にたどり着いたものが〝勝者〟だ。
エタ・ロンドが行われる状況は多岐に渡る。
子どもが彼らだけで争いの解決をするために行なうこともあるし、明確な目的などなく、ただ漠然と吉凶を占ったりするためにエタ・ロンドを用いることも少なくない。もちろん、凶を示す結果となったところで、それを行った本人たちを含め、結果を真に受けるものはいない。初めに言ったようにエタ・ロンドなんて、所詮はただの子どもの遊びだ」
説明を終えると、兵士はつまらなさそうに大きなあくびをひとつした。
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