第5章

第29話

「思いのほか順調に飛行しているな」


 ホッとする艦長。

 最初は、海面から2~3メートル浮上するのがやっとだったが、改良の結果50メートルで安定した飛行をしフルパワーで1000メートルまで上昇するデータが取れた。


「ケケケ」


 ほくそ笑むペ・ギル博士。


「艦長 !!」


 双眼鏡で、前方を見ていた兵士が叫ぶ。


「どうした?」


 なにか、トラブルかと思う艦長。

 あせって、声が上ずる。


「人です

砂漠に人がいます」


 棒に、Tシャツをくくり付けて振っている人がいる。


「そりゃあ人くらいどこでもいるだろ」


 つまらないことで、ビックリさせるなと肩をすくめる艦長。


「デッ

デカい船が来てる !!」


 Tシャツを、付けた棒を振っていたザイルピックが叫ぶ。


「ザイルピック

飛行艇の荷物は ??」


 ティファが、このままではラチが開かないと策を練る。


「全部 積んで来たぞ」


 飛行艇は、動かせないとしても荷物は回収しておいた。


「それなら信号弾があるでしょ!」


 万が一の為に、用意してある。


「アッ

それで船をヒッチハイクするわけか」


 ピンときたザイルピック。


「艦長 救難信号です !!」


 前方に、シグナルを確認する兵士。


「ぐぬぬ

船乗りなら 止まらざるを得ない」


 苦虫を、噛み潰したような顔をする艦長。

 こんなところで、止まってトラブルは避けたいのだが。


「艦長………」


 心中を、察する兵士。


「イカリを下ろせーッ !!」


 艦長から、指示が出る。


「了解 !!」


 スピードを、徐々に落としていく。


「うわぁ

なんでこんな大きな船が浮かんでるんだ!?」


 真っ正面から、迫り来る船にボクは立ちすくむ。


「ヒュー

あぶない」


 ティファに、注意され進行方向から避けると、


ガラガラガラ


 イカリが、勢いよく降りて来る。


「わっ ??」


 もはや、凶器だ。


バリーン

ゴリゴリゴリ


 ボクたちが、乗って来た車にイカリが直撃しても、船は惰性で進み続ける。


「わーランクルがぁー」


 見るも無残に、大破した車。


「スタック抜けれたね」


 エミリーが、ニヒルに笑う。


「しかも オープンカーになったわ

ゃったぁ………」


 ティファが、ガクッとうなだれる。


「ティファさん

元気出して下さい」


 たぶん、レセアが船乗りを説得してくれますよ例のアレで。

 熱に、うなされているけど。


「そうね

このデカブツに乗せてもらえばイイのよ」


 切り替えるティファ。


「そうですよ

って どうやって乗るんでしょうか ??」


 甲板まで、ビルの10階くらいありそうだが、これをハシゴで登るには無理がある。


「知らないわよ

こんなのはじめてだもん」


 ちょっと、壊れ気味のティファ。

 しっかりして下さい。


「あっ

救命ボートを下ろしてくれてますよ」


 ボクが、見上げるとボートを下ろす準備をしている。


「ありがたいな」


 徐々に、ボートが地面に近付いて兵士が3人乗っていて銃を構えている。


「いきなり 撃って来たりしないわよね ??」


 両手を、上げるメンバー。


「なにそれ恐い」


 苦笑いするエミリー。


「あなたがたは

なぜ信号弾を発射したのですか ??」


 大声で、聞いて来る兵士。


「砂漠で 車がスタックしてしまって」


 ティファが、そう答えると、


「車が

それで そのスタックした車は ??」


 あたりを、見回す兵士。


「あのー」


 振り返るティファ。


ボンッ


 大爆発する車。


「爆発したみたい

アハハ………」


 乾いた笑い顔をするティファ。


「それでは 緊急措置で艦への乗船を許可します !!」


 やっと、乗せてくれるみたい。


「ありがとうありがとう

もう少しで ガビガビになるところでしたわ」


 ホントに、あと1時間くらいでみんなあの世行きだった。


「発見が早くてなによりです」

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