第4話『二十数年後の未来で』(2023/10/20(金):Lit.Link投稿/元原稿は2022年2月6日(日)作成)
「本当にアイスクリーム屋さんでバイトしてるのね!」
「悪いか?」
「ううん、似合ってるわよ、その格好」
「そ、そうか?」
アイスクリーム屋さんでバイトをしている彼と、その姿を見に来た彼女。
彼女は彼の邪魔にならないように、閉店間際を狙って客として来ていて、今は客足も捌けて客は他にいなく、他の店員たちも「後片付けは任したからな!」といって気を利かせて、店には二人だけが残されていた。
「うん。でも、あなたの場合、バイトなんかする必要ないでしょう?」
「……日本で暮らしたい、ってのは俺様の我が儘だからな。少しは自分で生活費を……あくまでも足しでしかないけど……稼ぐくらいの姿勢は見せないとな」
「ふふ、あなたがそんな殊勝な考えを持つとはねぇ。……相変わらず、向こうでは魔王候補扱いされてるの?」
「ああ。父さんによると、世界を滅ぼせる力を持つ『魔王』の存在は、悪や絶望の象徴であると同時に、一方では『神』と同様に人々の救いや希望になっている部分もあるということで、それを信奉し崇拝する組織の解体はしないでおくって」
「年に1度の『世界滅亡会議』の開催も続けてるのよね?」
「それでどうしても世界を滅ぼさなくてはならない時には、俺様に魔王役はさせないで自分が、って父さんは言ってくれてるけど……」
「それって、その時にはソラ男も自分がって言って、お互いに気遣ってのことで終わりの無い言い争いになっちゃうわね」
「まぁ、そのことを知った母さんたちに本気で叱られて、反省させられてしょぼんとしている父さんたちの姿も想像できるけどな」
「それでめでたく世界は救われる、かしら?」
「そんなことで救われるなら、最初から世界を滅ぼすなんて考えにならないだろ?本当に救えるかは、俺様たちの一人一人が世界を良い方向に変えられるように努力するしかない」
「……ずいぶん変わったのね、あなたは。私がまだこの世界に生まれてくる前に、最初に出会った頃の玲郎(れお)とは……」
「俺様だって、10回も人生を繰り返していたら、少しは成長するんだよ!まぁ、“9回目の世界”のまま10回目の生を受けるとは思わなかったけどな」
「“9回目の世界”では、失敗判定にならずに、あなたがソラ男としてこの世界を生きたと振り返ることはなかったから、“弟”にあたるソラ男とは別の身体を持って生まれた今が、9回目の人生でいいと思うけど?」
「そうなるのか?……“弟”たちの中には、ほぼ俺様と同一の存在だとして俺様の魂と同化したり、あるいは次の世界の“予言書”として前の世界の記憶を伝えるべく世界に同化したりを選んだ奴もいるからな」
「彼方(かなた)と新弥(あらや)とソラ男は違うけどね」
「新弥(あらや)がこの世界を構成しているケサラン・パサランを僕(しもべ)として歴代の猫神魔王の中でもっとも自在に扱えたのは、当時の継人(つぐひと)父さんの研究成果を直接引き継ぐことができたからもあるだろうが。
奴にとっての“兄”3人が世界に同化していたことの影響もあるかもな?そうだとすると、奴は“兄”たちを僕(しもべ)扱いしてたことになるな、生意気にも」
「まだ、前に一番上の“兄”なのに新弥(あらや)から年少者扱いされたことを根に持ってるの?」
「あの時の俺様は、成人してるつもりでも確かにガキだったからな。精神も考え方も。悔しいが、そうやってあいつに止めてもらって良かったと思ってる」
「そうなのね」
「でなければ、今こうしてお前と俺様がこの世界で会うことはできてなかった」
「世界を滅ぼしちゃったら、そうよね。って私たちはこれまで何度も世界を滅ぼす選択をしてきたけれど」
「それは世界をやり直しさせるためだろう?」
「でも、そうして何度もやり直しても、あなたの、今のとは違う、両親の死の運命は変えられなかったわ」
「そうだな。それでも俺様は世界を滅ぼしてのやり直しをやめなかった。次こそは、との期待も無くはなかったが、お前がちゃんと生まれてこれるまでは繰り返しを続けようと思っていたからだ」
「……ありがとう。そのお陰で私はこうして生まれてこれたわ」
「礼なんかいいんだ。俺様はお前がこの世界に生まれてこれて俺様とこうして出会えた時には、お前のことを……ずっと殺してやりたいと思っていたんだからな」
彼は、淡々と、感情を押し殺した風もなく、そう告白した。
彼からは冷気のようなものが流れてきていて、自分が氷の彫像に変えられた後に粉々に砕かれるんじゃないか?と想像するのは荒唐無稽だが、元・初代猫神魔王で今も魔王候補の彼になら、そんなことは造作もないことだと彼女は知っていた。
「待って!!私をあなたが殺すのはいいけど、その前に……あなたの頭を撫で撫でさせて?それから抱きしめさせて?」
「……」
「私は最初にあなたに会った時にそうしたかったけど、そうすることができる両腕も身体も、まだ生まれていなくて持ってなかったから……」
「……」
「それがしたくて、わがまま言って、あなたに私が生まれてこれるルートにたどり着けるまで、世界のやり直しを繰り返させちゃったの……」
「……いいぜ、好きにしな。俺様は元猫神魔王だからな。それくらいの願いは聞いてやる」
「うん、ありがとう、玲郎(れお)」
(今は無心に、良い子良い子、とナデナデナデ……それからギュッと、抱きしめて背中をポン、ポン、とナデナデナデ……)
と、彼女がやりたかったことをするのに身を任せている彼だが……。
「それからな……お前のことを殺してやりたいと思っていたことは本当だが、今では、そんなことをして何になるんだと思っている」
「え?」
「だから、お前のことは殺さない」
「いいの?それで……玲郎(れお)の気は済むの?」
「気が済むとか済まないとかじゃなく……俺様がそうしたいからそうするだけだ」
「そっか。ありがとう、玲郎(れお)」
「だから、礼はいいんだって!この先気まぐれで、やっぱり殺したくなった時にはお前のことを殺すかもだからな!」
「わかった、そういうことにしておくわね!」
そして二人の関係は……未来は続いていく──
※※これはフィクションです※※
彼らの生きてる時代は、今からそう遠くない未来だけど。
果たして混迷の続くリアルでもその「そう遠くない未来」にたどり着けるのでしょうかねぇf(^_^;)
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